2007年度 森泰吉郎記念研究振興基金成果報告書

 

研究課題名:DNARNAの差異認識に関与する酵素の進化的解析

政策・メディア研究科 修士課程2年 BI プログラム 学籍番号: 80624436 北村さや香

 

 

改題:                    DNA/RNA認識機構の解明に向けて

-超好熱性古細菌Pyrococcus furiosus由来のAgo蛋白質とRNase HIIの比較解析-

 

研究目的

P. furiosus由来のArgonaute (Ago)蛋白質のPIWIドメインとRNase HIIは,アミノ酸配列では相同性が低いが,その立体構造は酷似している蛋白質のペアである.

この2つの蛋白質を,アミノ酸配列,立体構造,生化学的な活性という視点から,比較解析することで,構造と活性の相関について調べ,両蛋白質が関わるDNARNAの切断反応におけるDNARNAの認識の違いに迫る.

 

 

研究背景

超好熱性古細菌Pyrococcus furiosusは,至適温度100℃という高温環境下で生育し,耐熱性の蛋白質をもつ.また,完全長ゲノム配列は決定されており,ゲノムサイズも比較的小さい.

2004年のScicence誌におけるSongらの報告で,P. furiosus由来のAgo蛋白質(Pf-Ago)の結晶構造が同定され,そのPIWIドメインの立体構造がRNase HIIと酷似することが明らかとなった.

Pf-Ago蛋白質のPIWIドメイン(Pf-Ago (PIWI))P. furiosus由来のRNase HII (Pf-RNase HII)のアミノ酸配列の相同性は21%と低い.

 

Ago蛋白質

真核細胞生物では, miRNAsiRNAに結合して,二本鎖RNAを切断し,遺伝子抑制を行う.

古細菌やバクテリアではまだ詳細な機能が解析・同定されていない.

Pf-Agoの大腸菌による組換え体蛋白質を発現・精製した.

Pf-Ago蛋白質のDNARNAへの結合性解析の結果,予想に反して,二本鎖RNAへの結合性は非常に弱く,一本鎖DNAへ最も強く結合することが分かった.

 

本研究における主題

Pf-Ago (PIWI)Pf-RNase HIIを比較し,活性に重要なアミノ酸残基を抽出する.

抽出した部位についてPIWIドメインの領域をPf-RNase HIIに入れ換えたPf-RNae HII変異体を作成し,これを用いた生化学的解析を行う.

変異によってPf-RNase HIIが新たに獲得した活性・機能を考察する.

 

比較手法

古細菌において,PIWIドメイン4種,RNase HII48種中で保存されているアミノ酸の抽出

構造を反影させたアミノ酸配列のアラインメント

先行研究論文からのPIWIドメイン,RNase HIIそれぞれにおける活性部位の抽出

Pf-RNase HII変異体を用いたDNA/RNAに対する切断活性解析

 

アミノ酸配列・二次構造配列の比較結果(構造を反影させたアラインメント)

構造が似ているPf-Ago (PIWI)Pf-RNase HIIとの間でさえも,同じ二次構造モチーフ(α-helixやβ-sheet)がアミノ酸配列上の同じ位置に存在するものは,8個であった.

そのうちPf-Ago (PIWI)Pf-RNase HIIとで,同じ二次構造モチーフに活性部位が分布するのは,最初のβ-sheet(ともにE1)と最後のα-helix(Pf-Ago(PIWI): H4, Pf-RNase HII: H7)であった.

ここでは,RNase HIIからAgo(PIWI)の性質に変えるという目的でのPf-RNase HIIに変異を入れるため,Pf-RNase HIIには活性部位はないが,Pf-Ago(PIWI)に活性部位があるものを選んだ.

 

Pf-Ago (PIWI)様のPf-RNase HII変異体蛋白質の構築

それぞれ,5, 8, 11, 16残基のアミノ酸をPIWIドメインの相当領域のアミノ酸と入れ換えて,M1からM4まで4段階のPf-RNase HII変異体蛋白質をデザインした.

立体構造の重ね合わせから,この領域の立体構造は,ほぼ相同であったことから,入れ換えることによる構造上の変化はほとんどないと考えられる.

 

大腸菌による組換え体Pf-RNase HII変異体蛋白質の発現・精製

M1からM4まで4段階のPf-RNase HII変異体蛋白質を大腸菌組換え体として発現させ,均一な蛋白質として精製することができた.

 

Pf-RNase HII変異体蛋白質によるDNARNAに対する切断活性解析

DNA/RNA Hybridを基質とした実験

 

MnCl2存在下において,Pf-RNase HIIWT, M1, M2, M3, M4によって,DNA/RNA Hybridの切断特異性は変化した.

 

二価金属イオンの選択性は,野生型よりも変異体蛋白質においてMg2+よりもMn2+に対する選択性が強かった.

 

二本鎖RNAを基質とした実験

Ø        MnCl2存在下において野生型Pf-RNase HII蛋白質で切断活性が見られた.

 

その他の基質(二本鎖DNA, 一本鎖DNA, 一本鎖RNA)に対する切断活性は,同様の条件下では,Pf-RNase HIIの野生型・変異体蛋白質で一貫して見られなかった.

 

まとめ

Pf-Ago (PIWI)Pf-RNase HIIにおける,構造を反影させたアミノ酸配列のアラインメントによって,活性に重要な部位を抽出できた.

 

Pf-RNase HII変異体

Ø        蛋白質を発現させ,精製することができた.

Ø        野生型とは異なる特異性や二価金属イオン選択性をもつ切断活性が見られた.

 

本研究で得られた新たな知見

Pf-Ago蛋白質の核酸結合性は,二本鎖RNAではなく一本鎖DNAに強い結合性が見られた.

 

野生型Pf-RNase HII蛋白質は,DNA/RNA Hybridだけではなく,二本鎖RNAに対しても切断活性をもつ.

 

作成した4つのPf-RNase HII変異体蛋白質は,

Ø        野生型とは異なる二価金属イオンへの選択性を示した.

Ø        DNA/RNA Hybridに対して,それぞれ異なる特異性をもつ切断活性を示した.

 

 

現在,本研究によって得られた結果をまとめ,国際論文誌に投稿準備中である.

そのため,結果および考察の図は割愛させて頂いた.