2007年度森基金研究成果報告

 

採択時の研究課題名

           副次核都市における地域コミュニティの醸成とそれに伴う犯罪抑制に関する考察

 

現在の研究課題

           大都市近郊の駅前における、安全・安心なまちづくりのプロセスの研究

                      ―持続可能な安全・安心まちづくりの構築と、行政による支援                                             

 

EGプログラム アーバンリノベーションプロジェクト

政策・メディア研究科修士課程1

80724129 池田孝之

 

1.これまでの問題意識

 

 近年、全国的な犯罪の増加について盛んに議論がなされている。この犯罪について、犯罪認知件数をみることによっておおよその実態をつかむことが可能である。その結果、犯罪は増加傾向にある。犯罪増加は人々に心理的な不安を引き起こし、また犯罪が増加することでまだ顕在化されていない犯罪者も、犯罪のしやすい社会となることで顕在化されるという危険もある。これらは私の住む柏市でも例外ではなく、とりわけ柏駅前は繁華街のため若者が集まり、治安が悪いと感じてしまう場所でもある。

 

 駅前で起こる犯罪としては街頭犯罪や粗暴犯が考えられる。これらの犯罪に対して、地域ではさまざまな組織が周辺パトロールや啓蒙活動などを行い、対策を講じている。私はこれらの組織における活動について、行政がどのように加担し支援することが防犯を達成させ、安全・安心を得ることができるかということについて研究したいと考えている。

 

 

 

2.今まで持ってきた考えの変化

              ―春学期・秋学期とやってくる中での、研究内容の変化

 

 大学院入学当初は、犯罪を抑制するとともに住民が駅前の文化を保護するという抽象的なものについても研究することを考えていた。だがその時点では、文化という定義があまりにも曖昧で、どのように手をつけてよいか分からず、柏市における犯罪について現状を分析することに時間を注いできた。

 

 夏休みには自分が何をやりたいかという点について再考し、それまで持ってきた行政が主導で犯罪抑止の政策を提ずることへアプローチしてゆきたいという考えから、住民が行っている活動に対して行政がどのような支援を行うことが必要かということに問題意識が変化し始めた。そのため夏以降は、柏駅前における犯罪もしくは不良行為等少年に対して、地域の住民がどのような活動を行いながらそれらの問題を解決しているのかという点に対して、現在の活動の調査を行うことを主に行ってきた。

 

 1212日に行った発表では研究では自分の研究の位置づけを再確認するよう勧めていただき、本研究が実際にどのようなことを行いたいかという点について考えてみた。また、今まで固執してきた犯罪というものから一度離れて、地域コミュニティなどについて勉強するなどして自分の興味をもう一度考え直した。その中で私が新たに興味として抱いたものは、犯罪を減少するための効果的なアプローチというよりは、地域の人間が『安全・安心なまちづくり』を成功させるような仕組みを追及してゆきたいという点であった。これについてどのようなものか以下に示す。

 

 

 

3.修士論文の作成で、メインテーマとしたい点

 

 近年、全国的に安全・安心なまちづくりを行おうとという意思が強くなってきている。これらは主に行政が投げかけている問題意識ではある。だがこれを成し遂げるには地域の住民が自主的に活動を行い、地域によるまちづくりが必要なのではないか。

→なぜ地域によるまちづくり?

 

 本研究では、大都市近郊という人の集まりやすい駅の周辺で、住民参加という観点から地域による住民主体の安全なまちづくりについて解き明かそうと考えている。おもな事例としては千葉県柏市における柏駅前繁華街に対して住民が行う活動がある。柏駅前では市民が主体となってできたボランティア団体である柏駅周辺防犯推進協会(GAP)と日本ガーディアン・エンジェルス(GA)柏支部という2つの団体が活動を行っている。前者は柏駅前で商店を営む人間が主体となって行動している、主に高齢者で構成されているのに対して、後者は犯罪抑止を主たる目標として掲げている、主に社会人によって構成されている組織である。この2つの活動がどのような経緯で生まれ、いかにして活動を拡大化してきたかを解明することで、現在安全・安心なまちづくりについて具体的な成果が挙げられていない地域に対してのアプローチが可能なのではないか。

→柏市での事例が成功例として評価できる点は?

 具体的な成果が挙げられていない地域では、GAGAPのような2つの組織が混在していないから?

 

 以上の2つの組織が存在することによって、住民によって問題意識が異なっていても『安全・安心まちづくり』を主体的に行えるようなコミュニティへの巻き込みが行われるのではないかという仮定をもとに調査・研究を進めようと考えている。

 

4.今後の調査対象と調査方法

 

調査方法は、当該地域における地域で

 

【地域の住民】

・駅前では体感治安はあったか

・地域の活動に対して          興味を抱いているか

                                          これからしようと考えているか

                                          現在活動があるのを知っているか

 

【行政】

・活動団体が発生する前にはどのようなことを行政は行ってきたか

・活動団体に対してどのような支援を行っているか

・活動をどう評価しているか

 

【活動主】

・どのような問題意識を元に活動を始めたか

・どのように他の人々を活動に巻き込んできたか

・活動をどう評価しているか

 

という点についてヒヤリング調査を行い、そこから地域におけるそれぞれの活動の特徴を考え、研究の材料としてゆこうと考えている。

 

 また、調査対象の地域としては、以下で2006年度のJR東日本の乗客数でのデータをもとに、山手線の外側の駅だけに対象を絞り、さらに私鉄の乗降客数のデータを入力して、駅ごとの乗降客数の一覧データを作成した。これが〈表1〉であるただJRは乗客数の数値で、私鉄は乗降客数の数値のため、統一性がないため、JRの乗降客数のおおよそをつかむためにJRの乗客数の数値を2倍にして計算したものが〈表2〉である。

→表2では、JRの乗客数の数値を2倍にして計算したが、これでいいのか

JRに存在しない駅についてはまだ作成していない。

  →連絡駅について(千葉駅と本千葉駅などを同じ駅としてみなすか)

              →どこまでを駅前として定義するかが必要

              →商業圏のデータを作る必要があり

 

 これと駅前での商業とを考慮することで調査対象地域を決めようと考えている。

→商業圏については統計局のGISプラザではデータが入力されていないものもあるので未完成。

 現在のところ、表2での乗降客数の合計から駅前の状況を踏まえて、

町田駅・吉祥寺駅・蒲田駅・船橋駅・藤沢駅・立川駅・武蔵小杉駅・

国分寺駅・溝の口駅

などを候補としている。

 

 さらに、当該地域がいつごろ、どのような経緯でまちができ、発達し始めたかという視点も重要ではないかと最近考えるようになってきた。柏駅と対象地域で、まちの成り立ち方が全く異なるようでは、比較の対象としては不適切なためである。たとえば都市政策の授業で調査を行った高円寺と柏では、そもそもまちが成り立つにいたった経緯が異なるため、まちのもつ独自性というものにも大きな違いが生じてしまう。よって大都市郊外という点についても、都心あるいは山手線から一定距離を置いているなど定義を行わなければならないのではと考えている。これについては、今後対象地域の駅前での商業について調べる際に、このような視点も入れて絞り込もうと思う。

 

 

 

5.今年度の成果

・柏市での事例

これまでのヒヤリング調査などで作成したもの(前回の発表の際の資料と同一)

 

柏市による防犯活動

2001   4        柏市安全で安心なまちづくり推進条例を施行

2001   7        柏駅周辺を安全推進モデル地区に指定

2002   3        日本ガーディアン・エンジェルス(GA)が柏支部を設置

2003   3        柏駅周辺防犯推進協会(GAP)が設立

2003   12      エンジョイ・パトロールが始まる

 

行政による防犯の支援

■防犯啓発事業

【事業目的】

              市民ひとりひとりが安全で安心なまちづくりについての関心や理解を深めること

              自ら進んで安全確保を行うことが可能であるということの普及

【事業内容】

              『広報かしわ』への記事の掲載

              防犯に関するポスターの募集や掲示

              安全安心まちづくりキャンペーン

              犯罪発生マップ   etc

■犯罪を起こさせない人づくり(組織づくり)事業

【事業目的】

              自分のことは自分で守る(自助)、自分たちの街は自分たちで守る(共助)

              自主防犯活動のリーダーを育てる

【事業内容】

              エンジョイ・パトロールの集い

              防犯講習会           etc

■犯罪が起こりにくいまちづくり(地域づくり)事業

【事業目的】

              犯罪が起こりにくい環境設計

【事業内容】

              エンジョイ・パトロール

              サポカーによる地域防犯活動の支援

              公共空間防犯環境設計整備基準の施行

              防犯モデル地区の決定 

 

NPO法人日本ガーディアン・エンジェルス柏支部(略称GA)

【設立】

              20023

【目的】

              DARE TO CARE(見て見ぬふりをしない)ということをモットーに、繁華街での犯罪防止パトロールだけでなく環境美化運動や地域におけるイベントなどに参加することで、安全で安心して暮らせるまちをつくる。

【特徴】

              全国に展開しているNPO法人

              市内ではGAの会費のほか、GAによる支援を受けて活動

【組織に所属する人と活動時間】

              主に社会人の方で構成されている。そのため平日日中の活動が困難。

              活動としては土日の夜間に声かけなどを中心とした防犯活動者は赤いベレー帽を被り、白いTシャツを着ている。

 

柏駅周辺防犯推進協会 (略称GAP)  

【設立】

              20033

【目的】

              柏駅周辺事業者の防犯活動の推進と防犯ボランティアへの支援

【会員】

              正会員                  協会に賛同する法人、団体、個人

              特別会員              柏市

              駅前における商店会や駅前の大型デパート(そごう、高島屋など)も正会員として名を連ねている。ただしこれらは実働の会員ではなく、金銭的な支援を行うという意味での会員として、金銭を支援している。

 

【事業内容】

防犯ボランティア団体への支援

柏駅周辺における防犯活動の実施

防犯カメラの設置・管理

 

協会ができるにいたる背景

「安全推進モデル地区」として柏駅周辺が指定されて以後、さまざまな組織が防犯活動を展開した。この状況の中、柏駅周辺の事業者が主体となって防犯活動団体を支援することを目的として、この協会を発足した。

 

防犯ボランティア団体への支援

防犯ボランティア、とりわけGAGAPパトロール隊の事務所の家賃や設備費を支援。年間25万円をそれらに負担。

 

防犯活動の実施

2004年に防犯ボランティアを募り、GAPパトロール隊を結成

【組織に所属する人と活動時間】

              主に高齢者の人で、現在は30名ほど

              活動は第2、第4金曜日の日中

              活動内容は主に駅前における自転車の整備などが中心

              活動者は赤い帽子に赤いジャケットを着ている

 

活動の初期段階

一人の高齢者が中心となって、はじめは駅前に住む人間とともにパトロール隊を結成。その後、段々と規模が大きくなって、現在は市内のさまざまな場所からGAPパトロール隊に出向いているらしい

 

・他の駅前での安全安心まちづくりの事例

他の市町村について調べていてわかったことは、柏ほど駅前の防犯活動について特化して行っていることを公表している地域は非常に少ないという点である。実際に当該地域の役所などで話を聞かなければ防犯活動さえもわからないため、フィールドワークが必要になることがわかってきた。

 

a.町田駅での事例

 

中心市街地防犯パトロール

【場所】

              商店街通り

              小田急線町田駅とJR町田駅とを結ぶペデストリアンデッキ

【活動主体】

              町田警察署地域課・同犯罪抑止対策推進本部の署員

              市安全対策課・道路管理課職員と合同によるパトロール

【活動内容】

              おもにキャッチセールス・ティッシュ配り・無許可での路上販売

→キャッチセールスなどの取り締まりの頻度および実績

 

サルビア合同パトロール

【場所】

              中心商店街

【活動主体】

              地元商店会、自治会・町内会やPTAによる防犯隊

【活動内容】

              民間交番「セーフティボックスサルビア」を拠点として、巡回パトロールを行う

 

民間交番というものを利用して防犯を行っている点に関して、これは非常に評価できるものとして考えた。これは警視庁が空き交番を有効的に活用するための一例として行われているもので、このような場所を民間組織に貸し出して拠点としている点は柏市よりも先進的である。柏市では、市の予算を使用してGAPとGAに事業所を貸し出しているため、このような事例を東京以外の他の地域でも行えるようであれば画期的である。とくに柏駅前では空き交番を市民ギャラリーとして名目上は使用しているが、実際にはほとんどオープンしていないという例があるので、実践にこぎつけられるようであれば実践する価値はあるだろうと考えられる。事業所のような閉鎖的な建物よりも、交番のような開かれている建物のほうが、より活動への参加を促すことも可能かもしれない。

→参加者の数

→交番を使用したことが活動者の増加につながったか

 

 

b.立川市での事例

 

立川駅周辺環境改善推進協議会

【結成】

              平成1511

              内閣閣僚会議による、行動計画後にできた組織なので、この行動計画に影響されたものであると考えられる。

【活動主体】

              町会・自治会・商店街・PTA

              防犯協会・警備会社・GA

【活動内容】

              防犯パトロール・広告物撤去

              子どもの安全確保・青少年の健全育成

【活動の特徴】

              防犯カメラの設置・市条例制定など

立川にはガーディアン・エンジェルスの支部もあり、さらに駅周辺の環境改善協議会があり、2つの組織がある点で柏駅と似たような状況であるといえる。ただ、異なる点は、立川市における協議会にはGAが入っているため、完全な連携が行われている点も面白い。さらに署名活動から防犯カメラの設置や条例制定までこぎつけているようなので、活動の規模がかなり大きなものとなっているようである。この点だけでみると、かなり立川駅前での活動は先進的な事例となっているようである。

→署名活動などの活動と、防犯カメラや条例制定に因果関係はあるのか

→結成されて1年で防犯カメラの設置や条例にまでこぎつけているが、どのように活動の規模を広げていったのか

→この組織の結成以前からも、他の組織が存在していたのか、など

 

 

乗降客数の一覧表リンク

 

 

 

≪参考文献・参考資料≫

 

セーフティ&クリーン、安全・安心で清潔なまち 柏市総務部防災安全課

柏市中期基本計画

これで実践!地域安全力の創造 成田頼明 第一法規

持続可能な福祉社会 −「もうひとつの日本」の構想 広井良典 ちくま新書

日本における警察の犯罪被害者対策 田村正博 2003

安全・安心まちづくりに向けた<立川市>の取組状況 市民生活部生活安全課

町田市の防犯 市民部生活安全課

 

東日本旅客鉄道    www.jreast.co.jp

東京急行電鉄       www.tokyu.co.jp

小田急電鉄           www.odakyu.jp

京王電鉄              www.keio.co.jp

東武グループ        www.tobu.co.jp

西武グループ        www.seibu-group.co.jp

東京地下鉄           www.tokyometro.jp

東京都交通局       www.kotsu.metro.tokyo.jp

京浜急行電鉄       www.keikyu.co.jp

など