エアチューブによる短期小型イベント用簡易仮設建築システムの開発

 
 

 都市の公共空間は、人々の生活・文化・社会を支える環境として、古くから市場や祭礼行事の舞台に活用されてきた。昨今では、その活用手法は多様化し、最短で1日のみ開催される単日イベントが各地で開催され、社会的需要の変化に柔軟に適応可能な単日イベント仮設建築が普及している。しかしながら、新たに単日イベント仮設建築を開発するための設計指針を導くには、既存の単日イベント仮設建築デザインを比較評価するツールが必要であるが、現在そのような比較評価ツールは確立されていない。したがって本研究では、単日イベント仮設建築の開発と社会実験利用を通じて、単日イベントにおいて利用可能な仮設建築のデザインの比較評価を可能とするデザイン指標を明らかにすることを目的とする。これにより、より効果的な単日イベント仮設建築を開発していくことができる。

研究の背景・目的・意義

 本研究ではまず、建築構成材の循環利用のしやすさを評価する指標に着目し、その評価軸である標準性・作業性・多様性を初期的設計条件とし、これに基づく新たな単日イベント仮設建築の開発を行い、各プロセスを通じて得られた知見を元に、単日イベント仮設建築のデザイン指標と検討項目を抽出する。次に、開発した単日イベント仮設建築の社会実験利用による実現可能性の検証を通じて、開発過程では得られないデザイン指標を抽出する。最後に、得られたデザイン指標から、比較評価可能な項目について、既存の単日イベント仮設建築を比較評価し、傾向と課題を明瞭にし、デザイン指標の有効性を確認する。

研究の方法

 本研究では、標準性・作業性・多様性の初期的設計条件から、新たな10のデザイン指標を抽出することができた。以下に、そのデザイン指標を示す。

結論

 上記のデザイン指標から、数値にて評価可能な項目を抜粋し、既存単日イベント仮設建築8事例と本研究にて開発した単日イベント仮設建築を比較評価した。下記の表はそれを示すものである。緑色のグラデーションは、明るい色がシステムとしてより最適な値のもの、暗い色ほどシステムとしては改善・改良の余地があるものを表している。開発した単日イベント仮設建築は、運搬性と経済的合理性は相対的に優れているが、作業性(施工時間、施工手順数)は低い。また多様性(拡張展開可能方向数、構成材種類数)は、全体のなかで中間に位置している。空間の開放性はパイプテントとエアーテントの中間に位置しているということがわかった。

 循環使用のしやすさの3つの指標(作業性、標準性、多様性)から、新たなデザイン指標として、賑わい演出性、情報メディア性、経済的合理性、安全性、システム理解容易性を抽出することができた。作業性、標準性、多様性の指標からは、単日イベント仮設建築のデザインにおいては、再利用性の向上、軽量化による運搬性の向上、組み立てシステムの簡易化、多様な空間形態に組み替え可能、立面の自由な加工・操作性の確保が重要であることがわかった。それぞれのデザイン指標から、比較評価可能な項目を絞り込み、既存の単日イベント仮設建築を比較することで、それぞれのデザインの傾向と課題を確認することができた。

慶應義塾大学政策・メディア研究科 小笠原龍司

 
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慶應義塾大学政策・メディア研究科 小笠原龍司