平成19年度 森基金報告書

政策形成とソーシャルイノベーション(PS)所属
アーバンリノベーション研究プロジェクト
政策・メディア研究科修士課程2年
谷 明日美
<80624884, asuming>

修士論文要旨  2007 年度(平成 19 年度)

要保護児童の自立プロセスとその支援に関する研究−「自立援助ホームS」の参与観察を通して−

家庭で養育を受けることができず施設や里親のもとで育つ要保護児童は増加傾向にあり 2005 年現在約 4 万人に及ぶ。この 半数以上が家庭に再統合せずに自立しなければならない状況にある。しかし現行の社会的養護体系は在学中の児童を支援対象としており、中卒や高校中退により就労し自立を目指す若者への社会的支援は少なく、これらの若者への自立支援施策の充実が課題となっている。 本論は就労し自立を目指す要保護児童等の若者への支援方法を明確化し、自立支援のあり方を探るものである。

従来、児童福祉分野における自立支援に関する研究は、職員のみを支援者として扱ってきた。しかし就労段階における若者は、職員や友人・職場の人など多様な関係性の中で生活をしている。そこで就労する若者を支援対象とした唯一の法的事業である児童自立生活援助事業「自立援助ホーム S( 以下、 S ホーム)」に着目し参与観察を手法として用いた。入所者・職員と共に生活することを通して、職員のみではなく入所者の視点も含め、自立支援について多面的に描き出す点に本研究の新規性を持つ。

本研究では、まず S ホームの生活構造においてどのように支援が組み込まれているかを明らかにした。 S ホームにおける生活は最低限の規則しか存在しないが、その規則は自立する上で必要な生活技能を修得する内容となっており、直接的な支援はないが規則を守り生活することでその能力を養えるよう生活に組み込まれていた。日常の相談相手として職員のみではなくホームの仲間や職場の人も含み、それぞれ内容によって相手を選択していた。次に、入所者個人の自立プロセスにおける支援について明らかにした。 S ホームでは「就労」という経済的自立への取り組みを生活の中心においている。入所者は就労し自立することを動機づけされ入所するが、自立準備初期段階においては就労を基軸とした生活が形成できず、仕事を数日で辞め転職を繰り返す。その過程において職員はその行為を責めず、次の仕事への切り替えを支援し、ホームの仲間とは仕事の悩みを共有・相談する。このプロセスを繰り返すうちに働く意味を捉え、主体的に取り組み継続的に働けるようになっていた。これらの結果を踏まえ、就労し自立しなければならない若者に対する支援について、入所者・施設外の関係者を含めた包括的な自立支援方法を考察した。

キーワード

1 .要保護児童  2 .社会的養護  3 .自立援助ホーム  4 .自立支援  5 .就労支援

森基金の用途

本研究では、主な手法としてSホームへの参与観察を用いた。1年間にわたり継続的にSホームに赴き、当事者とのラポール形成に努め、当事者の視点からの調査を試みた。森基金の用途の大半をSホームへの交通費として使用した。残りに関しては、参与観察におけるインタビュー等に必要なPC周辺機器の購入、書籍購入として用いた。

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