2007年度森基金成果報告書

研究課題「アトピー患者による商品開発とネットワーク構築」

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科

修士課程 石井未帆子

ishiimi@sfc.keio.ac.jp

研究概要

本研究はアトピー性皮膚炎疾患を持つ患者を対象に、治療とは別に患者の生活の質(QOL)を上げることを考察する。アトピー性皮膚炎患者にとっての「被服」は一般の人よりも関心度が高く、着心地に対しても敏感である。したがって、アトピー性皮膚炎患者にとって治療法が確立されていない慢性疾患者にとって生活の質を上げることは重要であり、「被服」はQOLを上げる可能性を持っていると考えられる。

アトピー患者は被服にこだわりがあるにもかかわらずなぜ既存にある商品を認知していないのかを考察したうえで、患者が求めている商品をいかにして開発して流通させることができる要因を検討する。

研究の目的と背景

本研究の目的は、アトピー患者のQOLを上げるためアトピー向けの被服をいかに考案し流通させる要因を検討することを目的とする。

また、検討要因によりアトピー患者が自発的な活動を行うことで、「患者」が社会参加をすることが可能であることを明らかにする。 結果的にその活動を通して「患者」は「コンシューマ」となり社会に経済効果をもたらすことができることを示す。

「患者」は長期間「病」を抱えながら生活しているのが現状である。慢性的な疾患を持ちながら生活することは一般的には理解し難い「障害」がある。それは、アトピー性皮膚炎は皮膚に疾患が現れるため、直接肌に触れるものには敏感である。したがって、アトピー性皮膚炎患者にとって「被服」は関心度が高く、着心地に対しても敏感である。このように、アトピー性皮膚炎という治療法が確立されていない慢性疾患者にとって毎日身をまとう「被服」は生活の質に影響していると考えられる。

 

研究の手法

本研究の研究手法は、主にアンケート調査とインタビューによるものである。

アトピー向け被服の現状を調査するために、アパレル業界、繊維業界、メーカーに問い合わせをしてインタビューを行った。

アトピー向け被服を作っている企業は少なく大手企業においてはアトピー向け被服を製造していない企業が多い。したがって、インタビューは製造しない理由を聞くことにした。

 

期待される成果と研究の限界

アトピー性皮膚炎という慢性的な苦痛や痛みを緩和する一つの手段として「被服」に着目した研究により「被服」がアトピー患者のQOLをあげるツールとなることを明らかにできる。また、アトピー性皮膚炎患者が求めている「被服」でなければQOLを上げることもできないため、形、デザイン、の企画開発法、それを最適な環境で患者のもとへ届けるための流通法を検討し、アトピー向け被服をアトピー患者が購入しやすい環境を考察することは、今後アトピー向け被服の市場が拡大することが期待される。

しかしながら、本研究の限界は「アトピー的自由計画」で考案された被服が形にまではなっているが、まだ市場には出ていないためその開発法が確実に正しいと判断することは

最後に本研究により期待される成果として、今までは「患者」であったがグループが自発的に活動することで社会参加することが可能となることを証明した。また、グループで患者同士がインタラクティブな関係を築くことができる上状態すなわち患者間が横のつながりを持ち、自発的な活動をおこなうことで、既存の企業では取り上げなかった商品を作ることができ、ユーザーが求めている商品を開発することができる要因を示すことができた。

本研究の限界は、アトピー患者と被服に関する質問のアンケートが回答数50であったこと、比較的多様な治療法に分散されるよう考慮しておこなった。しかし、アトピーの治療が確立されていない現在、病院別、治療別、地域別というセグメントで回答を得ることで新たな事実が判明する可能性がある。被服というものは地域により概念が違うことも考えられ、今後は例えば東北、関東、関西などといった地域別にアンケートを行いその回答に見いだせることも期待できる。

また、「アトピー的自由計画」のコレクションによる被服の考案は流通の実現化はまだである。したがって、流通に向けて今後の活動と消費をみてさらに患者間のインタラクションによって作りあげられた商品がどのくらい消費されるか今後の課題とする。

 

考察

 

研究の結果

既存にあるアトピー向け商品をアトピー患者が認知していないという実態があったため、アトピー向け被服がアトピー患者のQOLを上げることができていないからである。したがって、既存にあるアトピー向け商品を患者が認知していたと考えてその商品でQOLを上げることが可能であるか、という商品自体を検討した結果アトピー患者は肌着だけにこだわりをもっているのではないことが明らかとなった。

したがって、今後アトピー向け被服を考案するには「アトピー的自由計画」のように患者たちがサイト上で被服に関する意見を投げかけることで作りあげていく考案方法を取り入れることを推奨したい。「患者」と「患者」の関係性が、インタラクティブであるほど、ユーザーが求めている商品がつくられることを考察する。そのために、インターネットという「場」を通して今までは受動的であった「患者」が自発的な社会参加を可能にすることを明らかにする。「患者」が能動的に「病」の情報を発信することで、「患者」同士が集う「場」が強化されているのではないかと検討した。そこで築きあげられた情報は医療機関から発信されたものとは違い「信頼感」「共感」がある。

このような患者間で築きあげられた情報を市場で活用することで、「患者」はモノつくりという形で社会参加を可能にすることが判明できた。

 

研究の成果

アトピー向け被服をアトピー患者が購入するための要因は、ターゲットを乳幼児患者の親とし、ネットで購入できる環境が望ましいことが明らかになった。また、商品を企画することは今までは「患者」として治療に対しても情報に対しても受動的な立場であった患者たちが、インターネットという「場」を活用して積極的な活動をすることにより、モノづくりによる社会参加を成し得ることが可能であることが判明した。

 

今後の課題

 痒みを鎮静化する素材や肌に優しい素材を使用し、かつインターネット上で患者と患者がインタラクティブな関係で被服の考案を行い、患者と作り手もインタラクティブな関係によって商品を作ることで、アトピー性皮膚炎の患者にとって最もよい商品が作られるだろう。商品の購入はポータルサイトを通じてすぐに検索できるように商品名で検索ワードが行えるようなシステム環境を整えることも必要である。

 

参考文献

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