政策メディア研究科修士課程2年
環境デザイン・ガバナンス専攻
古谷知之研究室
学籍番号80624815
高橋佑美
研究活動報告書
島嶼部における観光経済効果に関する研究
-八重山諸島を対象として-
A study of the economical impact of Island Tourism
-Case
study in the Yaeyama Archipelago-
論文要旨
本研究の目的は,島単位の観光経済波及効果推定モデルと訪問地選択モデルを構築し,八重山諸島に適用する事である.
労働年齢人口の都市部への集中,公共投資額の縮小などにより,日本各地で地域経済の衰退が社会的問題となっている.対象地の八重山諸島を含む沖縄県も同じ問題を抱えており,失業率は日本最高を記録し続けている.また,過疎地域指定を受けている竹富町と与那国町では人口減少,高齢化が深刻な社会問題となっている.一方,昨今八重山諸島全体では著しい来訪観光客数の増加を見せており,観光業による地域経済の活性化に大きな期待が寄せられている.
しかし,入域観光客数の増加は一部の島に留まっており,島嶼間の差は年々拡大傾向にある.その理由は,島ごとのアクセシビリティや宿泊容量の違いによるものと推測される.従って,観光客数の増加を図るには各要素の入域観光客数への影響の大きさを明らかにする必要がある.
また,八重山諸島では周遊型の離島巡りツアーが活溌に行われており,ツアーによっては各島への滞在時間が短いために消費行動を誘発しづらい.このような日帰り型観光客と宿泊型観光客とでは島での消費行動に差があると考えられるため,観光経済波及効果の推定には,滞在形態の別を考慮する必要がある.
しかし,今までは島単位を扱った訪問地選択モデルの構築や,観光客の滞在形態を考慮した観光経済効果推定が行われて来なかった.
本研究では必要なデータを観光客へのアンケート調査と観光関連事業者へのヒアリング調査によって取得し,訪問島選択モデルと,観光経済波及効果推定モデルを組み合わせる事によって開発行為の経済的影響を予測出来るようにした.更に,開発行為のシナリオ分析を行い,八重山諸島における観光開発の方向性に対する政策的インプリケーションを提示した.
分析の結果,入域観光客数の拡大には・リゾート宿泊容量の増加,・アクセシビリティ改善,・ガイドブック掲載ページ数の増加 が有効である事が明らかになった.また,既存の観光客数での経済波及効果拡大には,・民宿宿泊者の消費単価の拡大,・リゾート施設の島内調達率の拡大が最も有効である事が示された.
キーワード
1.観光経済波及効果 2.訪問地選択モデル 3.八重山諸島
4.ベイズ推定 5.多変量プロビットモデル
研究の方針と方法
本研究は三つの段階に分かれている.第一段階では,石垣港にアクセスを依存する６島[1]を対象として,島ごとの観光関連要素を説明変数とした訪問島選択モデルを構築した.その際,複数回答を考慮した事ができる多変量プロビットモデルを用いる.第二段階では,小浜島でのアンケート・ヒアリング調査を基に,観光客一人当たりがもたらす経済波及効果を滞在形態別に推定した.次に,アンケート調査により取得した島ごとの滞在形態ごとの存在率と,竹富町が公表している入域観光客数のデータから,島ごとの2006年度における経済波及効果を算出した.第三段階では,訪問島選択モデルの説明変数を操作し,選択率の変化を調べる.また,この数値に,第二段階で算出した観光客一人当たりの経済波及効果を当てはめる事で開発による経済的影響を予測した.この結果に基づき,一つのアクセスポイントからのアクセスに依存した島嶼群における観光開発に対する政策的インプリケーションを提示した.
本研究の仮説
本研究の仮設は以下の2点である.
仮説1: 訪問島選択は,従属的に決定されている.
一地点からのアクセス依存を共有する島嶼群において,訪問島・滞在形態選択は各島々の観光関連要素が互いに影響を及ぼしている事が推測される.選択行為の決定要素や,その影響度合を定量的に評価できるようにするため,複数回答を許し,互いに相関を持つような2値変数を同時に解析することが可能な多変量プロビットモデルを用いて訪問島選択を説明するモデルを構築した.そして,アンケート調査で得た選択率と,モデルのパラメータによって再現した選択率を比較する事で検証した.
仮説2: 観光客が島にもたらす経済波及効果は,滞在形態によって異なる.
島を訪れる観光客の滞在形態は大きく・日帰り,・民宿に宿泊,・リゾートに宿泊の３形態に分けられる.本研究では観光客の消費行動はこの３形態ごとに大きく異なり,観光経済波及効果推定のためには,入込み観光客数の合計値でなく,滞在形態ごとの人数と消費行動を把握する必要があると考え,観光客アンケートと事業者ヒアリング調査による滞在形態別経済波及効果の推定を行って検証した.
訪問島選択モデルの構築
取得データ
調査により明らかになった観光客の滞在形態ごとの訪問比率は下の表21.の通りである.また,島別の観光関連要素の定量的データを表22.にまとめた.なお,モデルでは滞在形態を考慮していない.
表21.滞在形態別存在率[2]
|
|
竹富島 |
小浜島 |
黒島 |
西表島 |
鳩真島 |
波照間島 |
|
日帰り |
48.17% |
10.99% |
4.19% |
31.94% |
1.05% |
3.14% |
|
民宿 |
3.66% |
1.05% |
2.62% |
4.71% |
0% |
2.62% |
|
リゾート |
|
5.76% |
|
5.24% |
|
|
|
訪問率 |
63.46% |
21.79% |
8.33% |
51.28% |
1.28% |
7.05% |
|
|
竹富島 |
小浜島 |
黒島 |
西表島 |
鳩真島 |
波照間島 |
|
高速船就航数 |
39 |
21 |
10.5 |
35 |
2 |
6 |
|
就航時間（分） |
10 |
25 |
30 |
37.5 |
45 |
60 |
|
船賃（往復）(単位:千円) |
1.1 |
1.96 |
2.15 |
3.365 |
4.39 |
5.70 |
|
アクセシビリティ[5] |
3.55 |
0.429 |
0.163 |
0.277 |
0.0101 |
0.0175 |
|
ツアー就航数 |
34 |
17 |
11 |
48 |
4.58 |
7 |
|
リゾート[6]宿泊容量 |
40 |
684[7] |
86 |
428 |
0 |
0 |
|
民宿[8]宿泊容量 |
306 |
167 |
137 |
1148 |
40 |
194 |
|
サービス[9]事業者数 |
12 |
5 |
8 |
75 |
1 |
3 |
|
観光[10]スポット数 |
9 |
4 |
8 |
14 |
4 |
8 |
|
人口 |
342 |
550 |
230 |
2247 |
60 |
600 |
|
飲食店数 |
11 |
8 |
5 |
22 |
1 |
6 |
|
マリンサービス店数 |
6 |
5 |
4 |
48 |
0 |
2 |
|
宿泊容量比[11] |
0.884 |
0.196 |
0.614 |
0.728 |
1 |
1 |
記述統計
18選択肢の選択確率を島ごとに積み上げたのが図4.である.竹富島と西表島の日帰りが飛び抜けて多い.また,いずれの島も【日帰り】が最も多くなっている.
図4-1.訪問島・滞在形態選択率
滞在形態ごとの分析
全訪問島行動の中の各滞在形態の比率(図4-2.)を見てみると,【日帰り】が80%とほとんどのシェアを占めている.
図4-2.滞在形態別の存在比率
島ごとの各滞在形態の比率（図4-3.～図4-5.）を見ても,全ての島で【日帰り】が過半数を占めている事が分かる.
図4-3.竹富島 滞在形態別存在率 図4-8.小浜島 滞在形態別存在率
図4-5.黒島 滞在形態別存在率 図4-6.西表島 滞在形態別存在率
図4-7.鳩間島滞在形態別存在率 図4-8.波照間島滞在形態別存在率
上図とは逆に,滞在形態ごとに選択されている島の比率を示したのが下図4-9.から図4-11.である.【日帰り】の半数近くが竹富島への訪問であった.【民宿】は【日帰り】と比較して島ごとの偏りが少ない.【リゾート】は小浜島と西表島でおよそ同じくらいの数になった.
図4-9.日帰り観光客による訪問島の比率 図4-10.民宿宿泊観光客による訪問島の比率
図4-11.リゾート宿泊観光客による訪問島の比率
次に,滞在形態ごとに訪問島数（図4-12.から図4-14.）を見てみると,【日帰り】は2島が4割りを占めて最も多く,1島と3島が同じくらいの割合になっている.【民宿】と【リゾート】は似た様な比率になっており,特に【リゾート】は一つの島に滞在する傾向が強いようである.
図4-12.日帰り観光客の訪問島数の比率 図4-13.民宿宿泊観光客の訪問島数の比率
訪問島数ごとの分析
訪問島数の内訳を見ると,半数以上が【1島】しか訪問していない.【2島】以上訪問する場合は,【3島】が【2島】の2倍以上多くなっており,【4島】訪問は191サンプル中1例しかいなかった.
図4-15.訪問島数の内訳
次に,訪問島数ごとに選択されている島の比率を示したのが図4-16.である.どの訪問島数でも選択されている島の比率や順位はあまり変わっていないが,【3島】では竹富島と西表島の内訳が減少する代わりに黒島と小浜島の内訳が若干多くなっている.
図4-16.訪問島数ごとの選択島の比率
訪問島数ごとに滞在形態の比率を見てみると,【4島】では【日帰り】しか無く,石垣島を拠点にしている事を意味する.宿泊者の比率が最も大きいのは【1島】で,【リゾート】と【民宿】が同じくらいの比率になっている.
図4-17.訪問島数ごとの滞在形態の比率
訪問島・滞在形態選択 記述統計のまとめ
以上より明らかになった事をまとめると以下のようになる.
・いずれの滞在形態,島,訪問島数においても,【日帰り】が最も多い.
・【民宿】は【日帰り】と比較して島ごとの入域観光客数の偏りが少ない.
・宿泊型観光客は1島しか訪問しない比率が【日帰り】より多い.
・訪問島数が少ないほど竹富島と西表島が訪問される比率が多い.
・訪問島数が1島の時が最も宿泊者の比率が高く,それ以上だと日帰りの比率が増加する.
訪問島・滞在形態選択モデルの構築
被説明変数,説明変数名と内容
本モデルの説明変数,被説明変数を次頁の表23.にまとめた.被説明変数には【竹富島】,【小浜島】,【黒島】,【西表島】,【鳩間島】,【波照間島】の６島を訪問する場合を1,しない場合を0とした.説明変数は島属性の【ツアー就航数】[12],【アクセシビリティ】,【宿泊容量比】と個人属性の【性別】,【リピーター】,【八重山旅行目的＝自然景観】,【八重山旅行目的＝現地の人との交流】,【八重山旅行目的＝買い物】,【同行者＝家族】を使用した.【宿泊容量比】は,各島の合計宿泊容量に対する民宿施設の宿泊容量の割合,【アクセシビリティ】は各島へ就航する高速船の一日当たりの就航数を船賃と就航時間で割った値を使用した.【性別】は,男性を1,女性を0とし,【リピーター】は,八重山に訪問した回数が2回以上の人を1,はじめての人を0とした.【八重山旅行目的＝自然景観】,【八重山旅行目的＝現地の人との交流】,【八重山旅行目的＝買い物】は,観光客アンケート調査の質問事項[13]において複数回答を許諾し,該当者を1,その他を0とした.【同行者=家族】は観光客アンケートにおいて単回答,該当者を1,その他を0とした.
表23.説明変数,被説明変数一覧
推計結果
モデルのパラメータを下の表24.にまとめた.なお,負のパラメータは影付きにしてある.
表24.説明変数のパラメータ
これより以下の事柄が明らかになった.
・竹富島,黒島,西表島は女性の方が,小浜島,鳩間島,波照間島は男性の方が選択する傾向にある.特に竹富島と西表島は女性に選択される確率が高く,小浜島は男性に選択される確率が高い.
・リピーター（八重山諸島訪問回数が２回目以上）は黒島,波照間島の選択確率が上がり,竹富島,小浜島,西表島,鳩間島の選択確率は下がる.特に西表島と竹富島の選択確率に強い影響を与える.
・同行者数が多いほど竹富島,西表島,鳩間島の選択確率は上がり,小浜島,黒島,波照間島の選択確率は下がる.
・全ての島において,周遊島数が多いほど選択確率も上がる.特に竹富島と小浜島は訪問島数の増加に対する選択確率の上昇が他の島より多く,鳩間島は少ない.
・「八重山旅行目的」に【自然景観】を選択している人は竹富島,黒島,波照間島,の選択確率が上がり,小浜島,黒島の選択確率が下がる.
・「八重山旅行目的」に【現地の人との交流】を選択している人は竹富島,黒島,波照間島の選択確率が上がり,小浜島,西表島,鳩間島の選択確率が下がる.特に西表島への選択率低下に強く作用する.
・「八重山旅行目的」に「買い物」を選択している人は竹富島と波照間島を選択する確率が上がり,小浜島,黒島,西表島,鳩間島の選択確率が下がる.特に波照間島への選択確率上昇と西表島への選択確率低下に強く作用する.
・同行者が家族である人は小浜島,西表島,鳩間島を選択する確率が上がり,竹富島,黒島,波照間島の選択確率が下がる.特に小浜島への選択確率上昇に強く作用する.
・民宿宿泊容量に比べてリゾートの宿泊容量が大きい方が島の選択確率が高くなる.
・ツアー就航数の増加は選択確率低下に作用する.
・アクセシビリティ改善は島の選択確率上昇に作用する.
・ガイドブック掲載ページ数の増加は,島の選択確率上昇に作用する.
以上の結果より,島ごとに選択確率が高いタイプの観光客の属性を以下の表25.にまとめた.
表25.島ごとの観光客の特徴
|
島 |
特徴 |
|
竹富島 |
女性,八重山諸島への訪問が初めて,同行者数・周遊島数が多く,「八重山旅行目的」は【自然景観】,【現地の人との交流】,【買い物】であり,同行者は【家族】でない. |
|
小浜島 |
男性,八重山訪問が初めて,同行者が少なく,周遊島数が多く,「八重山旅行目的」が【自然景観】,【現地の人との交流】,【買い物】のいずれでもなく,同行者が【家族】である. |
|
黒島 |
女性,八重山諸島訪問回数は２回目以上,同行者が少なく,「八重山旅行目的」が【現地の人との交流】で同行者が【家族】でない. |
|
西表島 |
女性,八重山訪問が初めて,同行者が多く,「八重山旅行目的」が【自然景観】,【現地の人との交流】,【買い物】のいずれでもなく,同行者が【家族】である. |
|
鳩間島 |
男性,八重山訪問は2回目以降,「八重山旅行目的」が【自然景観】であり,【現地の人との交流】,【買い物】ではなく,同行者が【家族】である. |
|
波照間島 |
男性,八重山訪問は2回目以降,同行者が少なく,「八重山旅行目的」が【自然景観】,【現地の人との交流】,【買い物】で,同行者が【家族】では無い. |
モデルの推計結果とアンケート調査で得たデータを比較したものを下の表26.にまとめた.
なお,・から・は,アンケート回答者の中での該当者のうち,各島に訪問した人の割合である.【選択率】,【男性訪問率】,【リピーター】,「八重山旅行目的＝【自然景観】」,「八重山旅行目的＝【現地の人との交流】」,「八重山旅行目的＝【買い物】」,【同行者=家族】の項目は,該当者のうち各島を選択した人の確率を示している.【同行者数】と【周遊島数】は,各島の選択者の平均値を標準化した値である.
表26.モデル推計結果と調査データ
観光経済波及効果の推定
取得データ
アンケート調査により取得したデータを以下の表27.～表 36.にまとめた.
表27.一人当たり一滞在あたり平均消費金額
|
支出費目 |
日帰り客 |
民宿宿泊客 |
リゾート宿泊客 |
|
飲食費 |
\3,215 |
\2,457 |
\2,748 |
|
民宿 |
\0 |
\9,771 |
\35,395 |
|
リゾート |
\6,988 |
\571 |
\42,214 |
|
買い物 |
\1,481 |
\71 |
\1,391 |
|
レンタル |
\3,031 |
\764 |
\2,189 |
|
娯楽 |
\2,285 |
\514 |
\2,260 |
|
合計 |
\17,000 |
\14,150 |
\86,197 |
表28.各島の滞在形態の比率
|
|
竹富島 |
小浜島 |
黒島 |
西表島 |
鳩間島 |
波照間島 |
|
日帰り |
93% |
62% |
62% |
76% |
100% |
55% |
|
民宿 |
7% |
6% |
38% |
11% |
0% |
45% |
|
リゾート |
0% |
32% |
0% |
13% |
0% |
0% |
表29.小浜島事業分類別 利益率,島内調達率,島外出身雇用者数
|
|
食事 |
民宿 |
ﾘｿﾞｰﾄ |
買い物 |
レンタル |
娯楽 |
|
利益率 |
44.47% |
35.74% |
30.77% |
30.00% |
30.00% |
-17.48% |
|
島内調達率 |
0.32% |
3.56% |
6.79% |
39.32% |
63.74% |
5.89% |
|
島外出身雇用者数 |
13.08人 |
4人 |
237人 |
0人 |
1.25人 |
30.25人 |
表30.2006年度 滞在形態別観光消費額
（単位：万円）
|
|
竹富島 |
小浜島 |
黒島 |
西表島 |
鳩間島 |
波照間島 |
|
日帰り |
395,412.86 |
181,320.91 |
13,103.20 |
49,161.49 |
1,976.48 |
8,985.63 |
|
民宿 |
40,800.93 |
14,373.57 |
11106.23 |
60,378.86 |
0 |
10,154.9198 |
|
ﾘｿﾞｰﾄ |
0 |
283,825.40 |
0 |
240,860.93 |
0 |
0 |
|
合計 |
436,213.80 |
479,519.88 |
24,209.43 |
792,901.28 |
1,976.48 |
19,140.5524 |
表31.2006年度
直接効果推定値 (単位：万円)
|
|
竹富島 |
小浜島 |
黒島 |
西表島 |
鳩間島 |
波照間島 |
|
日帰り |
210,711.62 |
57,732.78 |
9,741.25 |
162,413.39 |
995.57 |
7,398.15 |
|
民宿 |
16,968.60 |
5,775.82 |
4,618.94 |
24,262.43 |
0 |
4,223.30 |
|
ﾘｿﾞｰﾄ |
0 |
38,289.61 |
0 |
32,493.47 |
0 |
0 |
|
合計 |
227,680.22 |
101,798.22 |
14,360.19 |
219,169.28 |
995.57 |
11,621.46 |
表32.2006年度
間接効果推定値 (単位：万円)
|
|
竹富島 |
小浜島 |
黒島 |
西表島 |
鳩間島 |
波照間島 |
|
日帰り |
1,942.51 |
1,732.59 |
64.37 |
4698.01 |
9.71 |
44.14 |
|
民宿 |
67.09 |
100.65 |
18.26 |
192.98 |
0 |
16.70 |
|
ﾘｿﾞｰﾄ |
0 |
4,081.26 |
0 |
3463.46 |
0 |
0 |
|
合計 |
2,009.60 |
5,914.50 |
82.63 |
8354.44 |
9.71 |
60.84 |
表33.2006年度経済波及効果推定値 (単位：万円)
|
|
竹富島 |
小浜島 |
黒島 |
西表島 |
鳩間島 |
波照間島 |
|
日帰り |
212,654 |
59,644 |
9,806 |
167,862 |
1,005 |
7,442 |
|
民宿 |
17,036 |
5,987 |
4,637 |
25,147 |
0 |
4,240 |
|
ﾘｿﾞｰﾄ |
0 |
120,157 |
0 |
101,968 |
0 |
0 |
|
合計 |
229,690 |
185,788 |
14,443 |
294,977 |
1,005 |
11,682 |
表34.直接効果（一人当たり）推定値 (単位：円)
|
|
竹富島 |
小浜島 |
黒島 |
西表島 |
鳩間島 |
波照間島 |
|
日帰り |
5,335.6 |
5,412.8 |
7,443.6 |
5,615.7 |
5,043.4 |
8,243.7 |
|
民宿 |
5,647.2 |
5,686.0 |
5,647.2 |
5,686.0 |
0.0 |
5,647.2 |
|
リゾート |
0.0 |
6,853.5 |
0.0 |
6,853.5 |
0.0 |
0.0 |
表35.間接効果（一人当たり）推定値 (単位：円)
|
|
竹富島 |
小浜島 |
黒島 |
西表島 |
鳩間島 |
波照間島 |
|
日帰り |
50.78 |
209.68 |
57.01 |
184.05 |
49.19 |
58.23 |
|
民宿 |
68.87 |
174.53 |
77.31 |
153.19 |
0.00 |
78.97 |
|
ﾘｿﾞｰﾄ |
0.00 |
626.60 |
0.00 |
550.00 |
0.00 |
0.00 |
表36.経済波及効果（一人当たり）推定値 (単位：円)
|
|
竹富島 |
小浜島 |
黒島 |
西表島 |
鳩間島 |
波照間島 |
|
日帰り |
5,386.37 |
5,622.52 |
7,500.60 |
5,799.78 |
5,092.58 |
8,301.88 |
|
民宿 |
5,716.03 |
5,860.51 |
5,724.47 |
5,839.18 |
0.00 |
5,726.13 |
|
ﾘｿﾞｰﾄ |
0.00 |
7,480.06 |
0.00 |
7,403.46 |
0.00 |
0.00 |
記述統計
島ごとの記述統計
2006年度,八重山諸島の島ごとの入域観光客数は下図の通りである.島別の観光消費額を比較してみると,リゾート施設を有する小浜島と西表島が突出して多い.観光消費額の大半を上位3島が占めている.（図5-1.）観光客の数は竹富島が最も多いが,観光消費額の推定値では供にリゾート施設を有する西表島,小浜島に次いで３番目である.
図5-1.2006年度 島別入域観光客数
図5-2.2006年度 観光消費額推定値
直接・間接効果を,島別に積上げたグラフ(図5-3.)を見てみると,観光消費額と比較して,小浜島と竹富島の順位が入れ替わっている事が分かる.小浜島の観光消費額の多くがリゾート施設で消費される事によって島外に流出している事が推測される.島外出身雇用者使用金額の合計値である間接効果では小浜島の方が多いが,経済波及効果への寄与は直接効果に比べて小さい.
図5-3.2006年度 観光経済波及効果推定値
事業分類ごとの記述統計
次に,データを事業分類別に見てみる.
観光消費金額（図5-4.）は「リゾート」が最も多いが,島外流出分が多いため,経済波及効果（図5-5.）は「娯楽」に次いで低くなっている.「娯楽」の観光消費額は「リゾート」に次いで多いが,経済波及効果はマイナスである.経済波及効果が最も高いのは「レンタル」である.しかし,これは経費の大半をしめるガソリンを小浜島内の給油所から仕入れている事による島内調達率の大きさが強く影響しており,利益率（図5-6.）だけで見ると「娯楽」に次いで二番目に低い.島民の収入に繋がる比率が高いのは「買い物」である.
図5-4.2006年度 事業分類別 観光消費額
図5-5. 2006年度 事業分類別 経済波及効果
図5-6.事業分類別 島内調達率と利益率
滞在形態ごとの記述統計
2006年度の対象6島全体にもたらされた観光消費額の滞在形態別の内訳(図5-7.)を見てみると,日帰り型観光客とリゾート宿泊客が供に半分近くを占めており,民宿宿泊客はわずかである.経済波及効果（図5-8.）で見ると,日帰り型観光客と民宿宿泊客の寄与分がそれぞれ増加し,リゾート型観光客がもたらす割合がわずかに減少している.
図5-7.観光消費額（滞在形態内訳）
図5-8.経済波及効果（滞在形態内訳）
仮説1.の検討
ここでは,本研究で設定した下の仮説1.について検討する.
仮説1:観光客が島にもたらす経済波及効果は,滞在形態によって大きく異なる.
一人当たり平均消費金額(図5-9.)と,一人当たり経済波及効果(図5-10.)を滞在形態別に比較してみると,消費金額は滞在形態ごとに大きく異なっている事が分かる.リゾート宿泊型観光客が突出して多く,民宿宿泊客が最も少なくない.経済波及効果ではリゾート宿泊客と日帰り型観光客の順位が入れ替わる.平均消費金額と経済波及効果を比較すると,金額の差は縮まっているが,順位は変わらない.
図5-9.一人当たり平均消費金額
図5-10.一人当たり経済波及効果
一人当たりの消費金額に占める観光波及効果の割合では民宿宿泊客が最も多く,リゾート宿泊客の5倍となった.
図5-11.一人当たり 消費金額に占める経済波及効果の割合
続いて,消費金額の内訳を見てみると,支払い先が滞在形態ごとに大きく異なっている.（図5-12～図5-14.）宿泊型観光客はいずれも消費額の大半を宿泊費に費やしている.リゾート宿泊客は85%をリゾート内で消費しており,施設外での消費活動はあまり活溌に行われていない.日帰り型観光客も,消費金額で最も多くを占めるのがリゾート施設内であった.
直接効果の額を決定する島内調達率＋利益率が事業分類ごとに差がある事から,支払い先の違いは経済波及効果に大きな影響を与える事が推測される.
図5-12.日帰り型観光客 消費内訳
図5-13.民宿宿泊客 消費内訳
図5-14.リゾート宿泊客 消費内訳
２００６年度に対象6島で行われた観光消費額の滞在形態別内訳は以下の通りである.日帰り型観光客によるものが最も多く,民宿宿泊客はそのわずか13%に留まっている.
図5-15. 2006年度 滞在形態別観光消費額
図5-16. 2006年度 滞在形態別 経済波及効果
経済波及効果と観光消費額の合計値を観光消費額で割った値である観光乗数を比較すると,日帰り観光客,民宿宿泊客,リゾート客の順で多い.
図5-17.観光乗数
分析のまとめ
以上の結果から,次の事柄が導かれた.
島ごとの分析結果
・入域観光客数と観光消費金額の順位は異なる.
・観光客のほとんどが竹富島,小浜島,西表島の３島に訪れている.
事業分類ごとの分析結果
・観光収入額は「リゾート」が最も多いが,経済波及効果は「娯楽」に次いで二番目に低い.
・島民の収入に直結する割合が最も大きいのは「買い物」である.
滞在形態ごとの分析結果
・観光消費額,経済波及効果は供に日帰り型観光客のシェアが最も大きい.
・民宿宿泊客は入域観光客数,消費金額,経済波及効果の全てが3滞在形態の中で最低であるが,消費金額に占める観光波及効果の比率は最も高い.
・リゾート型観光客の消費金額は島外流出が多いものの,入域観光客数と一人当たり消費金額が多いため,結果的に島内への経済波及効果が大きい.
シナリオ分析
シナリオ分析の内容
ここでは,【宿泊容量比】,【アクセシビリティ】,【ガイドブック掲載ページ数】の変数を操作し,各島の入域観光客数への影響を推定する.
シナリオ1では,入域観光客数が少ない3島の一つである波照間島のリゾート宿泊容量を1000人増やした場合,シナリオ2では入域観光客数が最も多い竹富島の宿泊容量を1000人増やした場合の入域観光客の変化を推定する.シナリオ3では,波照間島への高速船就航数と料金を変え,アクセシビリティを改善した場合の入域観光客数の変化を推定する.シナリオ4ではガイドブック掲載頁数を変化させた場合の入域観光客数の変化を推定する.
下の表37.に各シナリオの説明変数をまとめた.変更した変数のセルを色付けし,使用した変数を赤字にしてある.
表37.シナリオ分析に用いた説明変数
シナリオ分析の結果
各シナリオにおける入域観光客数の変化を下の表38.にまとめた.なお,変数を操作した項目について値に色を加えてある.
表38.各シナリオでの選択率
シナリオ1,シナリオ2
シナリオ1.,シナリオ2.により,リゾート宿泊容量の増加が観光客数を増加させる効果がある事が示された.また,現状の入域観光客数が多い竹富島の方が,少ない波照間島よりリゾート宿泊容量の増加に対する選択率の上昇効果が大きく,個人属性で「同行者」が【家族】の人による選択率が最も上昇した.波照間島でのリゾート宿泊容量増加は,「八重山旅行目的」が【買い物】である人の選択率を最も上昇させる効果があった.
増加した選択率と入域観光客数は表39.の通りである.
表39.シナリオ1.とシナリオ2.の選択率の変化
また,選択率の増加による観光客数,経済波及効果の増加値は表40.の通りである.経済波及効果推定には5章で推定した３滞在形態の一人当たり経済波及効果の平均値である6,500円を使用した.
表40.観光客数,経済波及効果の増加人数,額
シナリオ3
シナリオ3では,入域観光客が少ない黒島,鳩間島,波照間島への高速船就航数を2倍にし,船賃を0.1千円にしてアクセシビリティを改善した.３島のうち,黒島と波照間島の選択率が上昇した.黒島は4.49%上昇,波照間島は0.4%上昇と,黒島の方がアクセシビリティ改善の影響が強く作用した.黒島へのアクセシビリティ改善は,「八重山旅行目的」が【自然】の人への影響が最も強く,30%以上の上昇効果があった.波照間島へのアクセシビリティ改善は「八重山旅行目的」が【買い物】の人に9.09%の上昇効果があった.
増加した選択率と入域観光客数,経済波及効果は表41.,表42.の通りである.
表41.シナリオ3による選択率の変化
表42.シナリオ3による観光客数,経済波及効果の増加人数,額
シナリオ4
シナリオ4では,ガイドブックでの各島の掲載ページ数を,入域観光客数が少ない3島について2倍にした.値を標準化しているため,変数を変えていない3竹富島,小浜島,西表島の掲載ページ数は相対的に減少した事になる.
掲載ページ数を増加した3島のうち,黒島と波照間島への選択率が増加し,竹富島と西表島への選択率は減少した.特に「八重山旅行目的」=【現地の人との交流】の人の黒島,波照間島の選択確率と,「八重山旅行目的」=【買い物】の人の波照間島への選択確率上昇に強く作用した.
増加した選択率と入域観光客数,経済波及効果は表43,表44.の通りである.
表43.シナリオ4.による選択率の変化
表44.シナリオ4による観光客数,経済波及効果の増加人数,額
結果の総括
本研究では,2.2節で提示した以下二つの仮説を元に研究を進めて来た.
仮説1:訪問島選択は,従属的に決定されている.
仮説2:観光客が島にもたらす経済波及効果は,滞在形態によって異なる.
仮説1については,4.3.1「推計結果」と６章「シナリオ分析」において,島同士のリゾート宿泊容量と民宿宿泊容量の比率（【宿泊容量比】）や,【ツアー就航数】,【アクセシビリティ】,【ガイドブック掲載ページ数】が相互の入込み観光客数に影響を与え,訪問島選択が島嶼間の観光関連要素に従属的に決定されている事が示された.これにより,開発行為による入域観光客数の予測が行えるようになった.
仮説2については，5.2.3.1「仮説1の検討」において,各滞在形態における観光客の消費行動および経済波及効果の違いが示されたため,仮説2はおおむね支持される．一人当たり消費金額,経済波及効果は供に【リゾート型】,【日帰り型】,【民宿型】の順で多いが,後者ではその差が縮まる事が分かった.また,一人当たり消費金額に占める経済波及効果ではその順位は逆転しており,【民宿型】は【リゾート型】のおおよそ5倍であった.これより,経済波及効果の拡大には民宿宿泊客の消費単価を上げる事や,リゾート施設の島内調達率を上げる事の有効性が示された.
政策的インプリケーション
5章では観光波及効果を・人数×単価×域内調達率 ・島外出身雇用者数×雇用者使用金額 によって求めた.これらの結果から,島の経済波及効果の拡大策として以下の事柄を指摘する.
・リゾート宿泊客の消費金額は90%以上が島外へ流出している.また,リゾート宿泊客の消費金額の84%を占めるリゾート施設は観光関連事業者の中で最も人数×単価 が高く,島内調達率の上昇効果が最も表れやすい.従って,リゾート施設の島内調達率を上げる事,リゾート客のリゾート施設以外での消費行動を誘発する事が有効である.
・「買い物」は島内調達率が最も高い事から,人数,単価の上昇効果が最も表れやすい.しかし,消費金額内訳のうち,「買物」が占める割合は日帰り型観光客で9%,民宿宿泊客で1%,リゾート宿泊客で3%しか無い.「買い物」に含まれる【土産品】は島の文化やアイデンティティを育てる重要な産業である.従って,観光客の「買い物」への消費行動を誘発する事が有効である.
・3滞在形態中,観光乗数が最も高い日帰り型観光客を増やす事が有効である.
次に,6章の訪問島選択モデルの結果より,観光客数の拡大策について以下の事柄を指摘する.
・民宿宿泊容量に対するリゾート宿泊容量の増加は,観光客数の増加に有効である.
・変数を操作した島属性の説明変数のうち,最も島の選択率の変動効果が大きかったのは「ガイドブックの掲載ページ数」であった.つまり,宿泊容量やアクセシビリティの改善などの観光整備の観光客誘致に対する有効性と同時にPRやブランディングの重要性が示唆された.
研究の課題と今後の展望
訪問島選択モデルの課題
本研究では,宿泊施設や島の観光魅力の質的価値をいかに考慮するかという点が課題として残った.また,滞在形態ごとにもたらす観光経済波及効果の違いを推定したものの,サンプル数の不足により滞在形態を考慮した訪問島選択モデルの構築が出来なかった.また,アンケート調査の季節的バイアスはモデルの精度を下げている可能性がある.
先の課題については,島属性の説明変数についてのAHP相対評価などによる重みづけや,島ごとの認知度の調査などが有効であると考えられる.後者の課題については,サンプル数を増やし,毎月ごとに調査を行うなどしてデータに季節的な偏りを生じさせない必要がある.
また,本モデルではリゾート宿泊容量の増加が入域観光客数や経済波及効果の拡大に有効である事が示された.しかし,リゾート開発による環境破壊や,景観悪化なども問題となっており,島嶼部の観光開発においては経済的側面ばかりでなく,こういった要素の考慮が重要である事は言うまでもない.
観光経済波及効果推定の課題
観光経済波及効果推定にて使用したデータ（「島内調達率」,「利益」,「島外出身雇用者使用金額」,「島外出身雇用者」,「滞在形態別観光消費金額」）は小浜島で取得し,事業項目ごとの平均値を基に他の島に適用したものである.しかし,実際にはこれらの数値は事業者や島ごとに異なるはずである.推定結果の精度を上げるためには,これらのデータを事業者ごと,島ごとに調査する必要がある.
7.3.3今後の展望
上記のような課題が残るものの,島嶼間の開発行為の影響評価に対する本モデルの適用性は示され,滞在形態別の観光経済波及効果の特性も明らかになった.今後は,より多くのサンプル数を取得する事で滞在形態を考慮した訪問島選択モデルを構築し,経済波及効果推定の精度を改善するつもりである.また,自然環境を考慮した開発キャパシティや,観光客だけでなく,島の住民の「満足度」などの指標も考慮し,経済的,非経済的両方の効用を評価できる分析モデルを構築し,島嶼部の観光開発行為における更に良い指標づくりを目指したい.