2008年2月25日
2007年度森泰吉郎記念研究振興基金 研究育成費(修士課程)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程
伊藤 諭志
1. 研究概要 |
本研究は、消費者意識や購買傾向の分析を通じて、商品の購買行動における「リアル」と「ネット」の役割について考察することを目指すものである。ITの普及やインターネット利用環境の整備を受け、現代の消費者は、実店舗とオンラインショッピングという「リアル」と「ネット」の2つの世界をまたいで消費を行い、両者をうまく活用している。そこで、消費者が両者に対して抱いている意識やイメージ、実際に行っている購買行動などについて分析を行い、消費者の側からそれぞれが持つ役割を考察する。
具体的には、@商品販売データの解析による定量的な比較、Aアンケート・インタビューによる定性的な比較、Bマルチエージェントシミュレーションによる構成的アプローチ、の3つの視点から、消費者の購買行動における「リアル」と「ネット」の役割について考察することを目指す。
2. 具体的な取り組み |
今年度は、主に@商品販売データの解析による定量的な比較を行うための、手法の模索・検証を行った。具体的には、以下の2つの手法を試みた。
- 商品の販売順位と売り上げ順位の分布
各商品の「販売量」と「売り上げ順位」の関係性などを探る。これにより、商品の売り上げの分布傾向を把握することができる。
縦軸に販売冊数の割合(そのタイトルの販売冊数を書籍全体の販売冊数で割ったもの)、横軸に売り上げ順位をとり、両対数グラフとしてこの分布を可視化すると、販売冊数と順位との関係がおおむねべき乗分布になっていることがわかる。
- 商品の選択ネットワーク
同一顧客によって選択(購入)された商品間にリンクを張ることで、商品間の関係をネットワークとして可視化・解析する。商品の選択ネットワークを可視化・解析することで、市場全体における商品の見取り図を得ることができる。
なお、ネットワークの可視化にはCytoscapeを用い、データファイルの生成にはPerlで独自に作成したプログラムを用いた。
3. 研究成果 |
情報処理学会MPS(数理モデル化と問題解決)研究会にて、発表を2回行った。詳細は以下の通りである。
- 伊藤 諭志, 井庭 崇, 「商品ネットワークの成長モデル:市場の秩序形成の探究に向けて」, 情報処理学会 第64回数理モデル化と問題解決研究会, 大阪, 2007年5月
*アブストラクト
本論文では,同一の消費者が購入した商品間をリンクで結び,ネットワークとして捉えることを提案する。また,ネットワーク科学の知見を活かし,商品ネットワークの成長モデルを提案する。この試みは,商品の販売量と順位にみられる「べき乗分布」の発生メカニズムを分析するための基本モデルとして利用できると考えられる。
- 井庭 崇, 吉田 真理子, 伊藤 諭志 「商品市場分析の新手法:べき乗分布とネットワークによる分析」, 情報処理学会 第66回数理モデル化と問題解決研究会, 名古屋, 2007年9月
*アブストラクト
本論文では,商品市場における販売量-順位分布がべき乗分布になるという特徴を考慮した,新しい市場分析の手法を提案する。提案する手法は,「販売量-順位分布にもとづく顧客クラスタリング手法」と「選択ネットワークによる商品間関係の分析手法」の2つである。前者が「商品を購入した顧客同士の関係性」に注目しているのに対し,後者は「購入された商品同士の関係性」に注目する。どちらの手法も,ニューラルネットワークの考え方に関係しているという特徴がある。
以上