2007年度 森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費)

研究成果報告書

 

政策・メディア研究科修士課程2年 今村 晴彦

 

1.研究テーマ

 「地域づくり型保健活動」が生み出す価値の再構築

 

2.研究課題(申請時の原文)

この研究は、近年、ヘルスプロモーションの重要性が指摘される中、地域保健の分野で注目を集め、いくつかの市町村で実践されている「地域づくり型保健活動」(以下単に“活動”と略す)について、これまで検討されなかった観点から考察を行い、その活動が生み出す価値を再構築するものである。

この活動については、そのプロセスはある程度体系化されてきており、評価についても、医療費の抑制や健診受診率の向上など、公衆衛生的な観点での評価は一部されている。しかしながら、それ以外の評価の観点はまだほとんど整理されておらず、その価値や可能性、課題について、十分に認識されているとは言い難い。特に、活動に参加した住民や、地域コミュニティの変化等、数値だけでは捉えきれない事項についての評価がほとんどない。そのため、この活動における代表的な事例を取り上げ、フィールドワークを中心に、以上の観点を丹念に考察し、比較研究を行う。

こうした研究を行うことにより、この活動の持つ価値が再構築され、今後の地域保健にとってより理想的な形の活動形態を示すことができよう。また今後、同様の仕組みを企業の健康づくりに応用する等の可能性も考えられる。

 

3.研究実施にあたっての変更点

 申請時には、「地域づくり型保健活動」として、国内の3市町をケース対象とした研究を行う予定であったが、調査を進めていくうちに、長野県において、その原型ともいえる「保健補導員」という制度が展開されていることがわかり、研究対象を、この「保健補導員」に変更した。長野県における「保健補導員」制度は、

@60年近くに渡り活動を続けており、活動内容の蓄積があること

A長野県内の1村を除く全ての市町村で組織されていること

という大きな特徴があり、このことによって、縦断的・横断的な分析を可能にする条件を整えることができた。

また、この保健補導員制度については、上記のような歴史の長さにも関わらず、まだ研究されていないことも多く、そこから引き出せる意義は非常に大きいものであると考えた。そこで、上記研究課題の背景や問題意識のもと、保健補導員について、徹底して資料を洗い直し、これまであまり実施されてこなかった視点から研究調査を行った。

 

4.研究手法

 本研究は、下記の通り、第一フェーズと第二フェーズの二段階で行った。

 ■第一フェーズ  −市町村別定量調査−

   まず、これまで蓄積されてきた資料を活用し、長野県内の全市町村の保健補導員活動について、残されている資料より、経年的および横断的な比較・評価・分析を実施した。この調査は主に資料やデータをもとにした定量調査である。この調査により、保健補導員活動全体を正確に把握し、その特徴を抽出することが可能となった。

  

 ■第二フェーズ  −特徴的な市町村の事例調査−

第一フェーズで得られた調査結果をもとに、保健補導員活動の特徴的な市町村(活動が活発である、都市化にも関わらず工夫した活動を実施している、反対に活動があまり活発でない等)を抽出し、その活動プロセスや歴史の詳細を調査した(事例調査)。選択するケース(市町村)は4市1町の予定であったが、現段階では、この内、3市1町について調査を行った。この調査では、実際に活動している保健補導員や保健師等、関係者に対してのインタビューを行った

 

<選択ケース>

長野県内の4市1町を予定(下記のこれまで実施したインタビューに見られる通り、このうち1市については、今後インタビューを実施予定)

 

<インタビューの概要>

市町村の保健師については、保健補導員の担当者1〜2名に対するインタビュー、また保健補導員本人については、グループインタビューを行った。またグループインタビューの際は、対象者の年代や職業等の属性になるべく差がでるように設計した。

 

<質問項目>

選択ケースの市町村の保健師に対する質問項目として、市町村における保健補導員の位置づけや概要、

 医療データや健診データ等の市町村の健康状況との関連、他団体との連携の有無等を聞いた。また保健補導員本人に対する質問項目として、保健補導員に選任された時の状況やその感想、自分や周囲への健康に対する意識の変化、任期を通しての感想等を聞いた。

 

<これまで実施したインタビュー等>

【2007年】

 ・8月7日   A市 保健師 インタビュー

 ・8月8日   長野県国民健康保険連合会 担当者及び保健師 インタビュー

 ・10月3日  長野県保健補導員等研究大会 中南信地区 見学(松本市)

 ・10月4日  長野県保健補導員等研究大会 東北信地区 見学(長野市)

 ・11月7日  B市 保健師 インタビュー

 ・12月21日 C町 保健師 インタビュー

【2008年】

 ・1月7日   A市 保健補導員 グループインタビュー(正副理事、女性、4人)

 ・1月21日  A市 保健補導員 グループインタビュー(女性、12名)

 ・2月4日   A市 保健補導員 グループインタビュー(正副理事、女性、13名)

         ※このインタビューは、著者と同じ研究室に所属する院生計4人で実施

 ・1月30日  B市 保健補導員 グループインタビュー(女性、7名)

 ・2月20日  B市 保健補導員 グループインタビュー(女性、7名)

         B市 保健補導員 インタビュー(男性、1名)

         B市 保健補導員 グループインタビュー(男性、9名)

 ・2月21日  D市 保健師 インタビュー

 

5.これまでの調査等から得られた主な成果

<第一フェーズ>

 ・県全体の保健補導員数は、平成12年度をピークに、減少傾向にある。

 ・しかしながらそれでも、県全域で年13000人規模の保健補導員が活動している

(昭和60年代前後と同規模)。

 ・一方で、保健補導員の平均年齢は、昭和58年当時と比べ、平均約10歳程度上がっている。

 

<第二フェーズ>

 ・保健補導員選定における地域特有の“ルール”の存在

 ・公民館活動等、行政との協働による他の地域の活動との問題点の類似

 ・“昔ながらの活動”を維持しているという反面、その活動内容の枠をなかなか脱しきれない面

 ・組織全体の平均年齢が上がっているということの意味(影響を与える範囲)

 ・同じ長野県内でも、市町村による差が大きい

 

6.今後の展望

 本研究は、助走的に、インタビューも含めた資料の収集に作業の配分を割いた。その結果、いくつか興味深い成果を得られたが、まだこれから、得られたデータの詳細な分析と考察が必要である。それは今後の課題とし、次年度以降も引き続き研究を行っていきたい。

 

以上。