2007年度森基金研究成果報告書

植民地時代の台湾客家人に対する日本語教育の実態

 

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士2

(ヤン) 盈璋(インザン)

80625863

 

1.はじめに

筆者の研究テーマは、「植民地時代の台湾客家人に対する日本語教育の実態」である。

本報告書は2006年から行ってきた調査記録である。計画書で提出した予定より若干変更した。日本統治時代当時は、台湾人とは客家人(廣東族)と南人(福建族)の総称である。本調査の被調査者は提出した当時の客家人から「台湾人」にした。冒頭で研究の概要を述べ、その後、調査方法などについての報告を簡単に記し、最後に今後の課題と調査の反省を記している。

 

2.研究の概要

 本調査は日本植民地時代(1895417日から1945815日)に台湾の人々がどのような日本語教育を受けたのか、その実態と影響を明らかにすることを目的とする。以下は調査内容である。

1)日本の植民地時代の日本語教育を思い出してもらい、それは対象者にとってどんな存在であったか、今はどう思っているか。

 2)どんな教材を使ったか、どんな形式の授業を受けたか、日本語教育を受けるときの制限があったか、授業を受ける場所は何処だったか、クラスメートはどこの出身か。

 3)対象者にとって日本語教育を受けたことで、過去・現在に何らかの変化があったか、または影響があったか、当時の先生を覚えているか、当時日本語教育を受けた男女の割合はどうか。

 4)家族構成と職業など。

 5)日本語教育を受けていない対象者には何故受けなかったか。家庭の経済状況が原因か。

 

2.1.調査状況

 調査期間:

      20061121日〜1123

      2007889日(助成金を使い行う時期)

      200796

      200816

 調査地域:

      高雄市(美濃鎮出身者)

      屏東県高樹郷廣福村

      ・廣興村・東興村・高樹村

      台中県東勢鎮

      屏東市

      高雄県美濃鎮

      宜蘭県羅東鎮

 調査対象:客家人13名(男121)・南人3名(男21

 

2.2.分析方法

 分析対象データは、インタビュー調査内容とフィールドノートである。録音したインタビュー・データは文字化し、インタビュー中に作成したノートを分析対象とする。そして、カテゴリーを構築し、分析を試みた。

 

2.3.現段階の調査データの概略

 客家人クラス・南人クラス・男女共同クラス・男女分けクラス・クラス人数・公学校まで・公学校以上・日本人担当・台湾人担当・言語禁止・経済状況・地域差などのカテゴリーを構築できる。

 そして、インタビュー調査を通して、以下のようなまとめが出来た。

1)日本植民地時代に裕福な家庭では日本語教育を完璧に受けられ、高等学校までの教育を受けることが出来る。

2)地域によって客家人クラス・南人クラス、または男女共学するなどに分けられる。

3)日本語教育を受けた女性は少ない、その原因は家庭の世話などである。地域により、夜に塾みたいな形で受けることになる。

4)当時の日本語教育は厳しく、教師の熱心な教える気持ちが懐かしくと思っていることは共通することである。

5)貴族身分の台湾人の子供はまず日本名を改名し、そして厳しい試験と身分調査を受け、合格してから小学校へ入り、日本人と共学する。

6)高等教育以上の教育を受けたことによって、職業の選択や社会的地位の上昇が保証されることになった。官庁や学校に就職することも出来た。

6)日本語教育を受けた場所には現在の小学校であることが多い。

7)全員は日本に好感を持っている。当時の先生の名前を覚え日本へ訪ねることもある。

8)当時の日本語教育は精神的な人間性教育を重視する。日本語以外の使用は禁じされる。

9)公学校では、低学年は台湾人の先生は担当し、高学年は日本人の先生は担当する。

10)客家人は村落生活が多く、農家が多い。

インタビュー調査を通して、公学校で日本語を身につけることが立身出世のためには必要であると考えられる。そして、台湾は日本人の統治から解放されたとはいえ、日本語は依然として台湾人が近代化された生活を享受したり教育を受けたりする際に不可欠な主要な道具になると伝わってくる。

 

3.フィールド・ワークの方法

 フィールド・ワークの方法として、インタビュー調査、会話分析の方法をとった。

                                                      

3.1.インタビュー調査

 インタビューに際しては、事前に被調査者に連絡を取り、自宅まで伺い行うことである。インタビューは原則、調査者と被調査者の11の面接形式で行った。ただし、紹介者が同席する場合もある。

 本調査では、半構造化インタビューを用いて、対象者の自然な発話をオーディオテープレコーダーとビデオテープレコーダーで、収集する。

 調査内容に従って調査項目票を作る。そして、調査項目票を用いてインタビューする。対象者が振り返って過去の出来事や行為について回想して過去の時点に戻ってそのときの意識を内省し、報告してもらう。

 調査項目は一つの目安で、対象者によって状況が異なるので、調査項目票に設定していない項目を加えることもある。つまり、被調査者が積極的に語る場面では質問項目にあてはならなくても聞き取り、被調査者の思い出を重視するものである。本調査は対象者の生活世界を理解するための質的調査になる。

 なお、用意した質問項目票は以下のとおりである。

 

3.1.1. 質問項目票

(1)調査状況:

11)調査日:_____年_____月_____日_____時〜____時

12)調査者氏名:____________________________

13)同席者:______________________________

14)調査回数:初対面・二回目・その他__________________

15)収録データ:オーディオテープレコーダー___本

 

(2)対象者のプロフィール:

 21)名前:________(母語名_________日本名_______)

 (22)母語:_______________________________

 (23)性別:男性___女性________________________

 (24)生年月日:_________年_______月____日______

 (25)現住所:______________________________

 (26)電話:_______________________________

 27)居住歴:___________________________生まれ

     ___歳〜___歳:場所_____________(日本語接触:有・無)

     ___歳〜___歳:場所_____________(日本語接触:有・無)

     ___歳〜___歳:場所_____________(日本語接触:有・無)

     ___歳〜___歳:場所_____________(日本語接触:有・無)

     ___歳〜___歳:場所_____________(日本語接触:有・無)

 (28)職業:(現在)__________________(日本語接触:有・無)

     ___歳〜___歳:場所_____________(日本語接触:有・無)

     ___歳〜___歳:場所_____________(日本語接触:有・無)

     ___歳〜___歳:場所_____________(日本語接触:有・無)

 

(3)学校教育:

○ 学歴:公学校(国民学校)

    __歳〜__歳:学校名_________場所______________

    先生の名前____________出身________性別______________

        教科書:有・無(具体的:_____________________)

    同級生:(日本人:男・女)、(客家人:男・女)、(南人:男・女)、(原住民:男・女)

    台湾諸語使用禁止・有・無(具体的:___________________)

    授業を受ける制限:有・無(具体的:__________________)

    どんな形式で行う:__________________________

    授業内容:______________________________

○ 中等科:

    __歳〜__歳:学校名_________場所_____________

    先生の名前____________出身________性別_____________

    教科書:有・無(具体的:_______________________)

    同級生:(日本人:男・女)、(客家人:男・女)、(南人:男・女)、(原住民:男・女)

    台湾諸語使用禁止・有・無(具体的:__________________)

    授業を受ける制限:有・無(具体的:__________________)

    どんな形式で行う:__________________________

    授業内容:______________________________

○ 高等科:

    __歳〜__歳:学校名_________場所______________

   先生の名前____________出身_________性別______________

    教科書:有・無(具体的:________________________)

    同級生:(日本人:男・女)、(客家人:男・女)、(南人:男・女)、(原住民:男・女)

    台湾諸語使用禁止・有・無(具体的:___________________)

    授業を受ける制限:有・無(具体的:___________________)

    どんな形式で行う:___________________________

    授業内容:_______________________________

 

(4)現在の言語能力:

 (41)話す

    南語: 流暢 流暢でないが通じる 聞いて分かるが話せない 全く出来ない

    客家語: 流暢 流暢でないが通じる 聞いて分かるが話せない 全く出来ない

    国 語: 流暢 流暢でないが通じる 聞いて分かるが話せない 全く出来ない

    日本語: 流暢 流暢でないが通じる 聞いて分かるが話せない 全く出来ない

    現在日本語を使う場合 ________________________

  

 (42)読み書き

 (421)日本語

     漢 字: 良く読める 少し読める 余り読めない 全く読めない

          良く書ける 少し書ける 余り書けない 全く書けない

     ひらがな:良く読める 少し読める 余り読めない 全く読めない

          良く書ける 少し書ける 余り書けない 全く書けない

     カタカナ:良く読める 少し読める 余り読めない 全く読めない

          良く書ける 少し書ける 余り書けない 全く書けない

     文 章: 良く読める 少し読める 余り読めない 全く読めない

          良く書ける 少し書ける 余り書けない 全く書けない

 

(5) 現在の言語生活

 テレビ放送

 南語   見る  見ない(具体的:_____________________)

 客家語   見る  見ない(具体的:_____________________)

 国 語   見る  見ない(具体的:_____________________)

 日本語   見る  見ない(具体的:_____________________)

 生活会話

 南語   話す  話さない(具体的:____________________)

 客家語   話す  話さない(具体的:____________________)

 国 語   話す  話さない(具体的:____________________)

 日本語   話す  話さない(具体的:____________________)

 

(6) 日本への渡航の有・無

          (目的:______________期間:_________)

                    (目的:______________期間:_________)

 

(7) その他

   家族構成 兄___姉___弟___妹____何番目____________

   当時の両親の仕事  父_____________母____________

   祖父の仕事 _______________________________

   家業  _________________________________

 

(7−1)日本の植民地時代日本語教育を思い出してもらい、それがどんな存在であったか、今はどう思っているか。

________________________________________

(7−2)自分にとって日本語教育を受けたことで、過去・現在に何らかの変化があるか、または影響があったか、

________________________________________

(7−3)もし今もう一度昔のように日本語を学ぶといわれたら、勉強しますか?なぜ?

________________________________________

 

4.インタビュー後の文字起こしについて

インタビュー内容は承諾を得て録音したものである。所要時間は30分から2時間程であった。インタビュー時の言語は日本語・客家語・南語・中国語を交ぜる。文字起こしには全て日本語を訳し表示する。

被調査者16名のプロフィールは、以下のルールにしたがって表示する。

被調査者名:性別、居住地、職業、生年、健康状況、出身。被調査者名は個人情報保護のため、名字しか表示しない、住所は全てを明記しないこと。信頼性を高まるため被調査者の健康状況も視野に入れる。

 

5.反省と今後の課題

 被調査者の分布は広がっていることによって、移動などの要素を含め、調査人数は限られている。信頼性を高まるため、被調査者の人数をもっと増やさないといけないと思う。1カ所を絞って長期間の滞在・インタビュー調査を行う事により被調査者の人数を確保できると考え、今後の計画を進めると共に時間と経費も増えてくる。

 

6.謝辞

 2007年度森泰吉郎記念研究振興基金助成金の助成なしでは、研究調査をスムーズに進められないと思い、深く、深く感謝申し上げます。

 

参考文献

山岡真由(2006)「多言語生活情報の流通における外国籍メディエータの機能に関する研究」慶應義塾大学

簡月真著(2004)『台湾に残存する日本語の実態』コンテンツワークス株式会社。

蔡茂豊著(2003)『台湾における日本語教育の史的研究(上・下)1895年〜2002年』大新書局。

邱彦貴・呉中杰著(2001)『台湾客家地図』猫頭鷹出版、果實制作。

陳培豊(2001)『「同化」の同床異夢-日本統治下台湾の国語教育史再考-』三元社。