森基金報告書

 

『平和構築の中の難民問題』

 

 

慶應義塾大学大学院

政策・メディア研究科

GR 修士課程1年 上里理奈

 

 

 

1.研究の概要                                                                    

 本研究では、難民を紛争後の国家再建のための重要なアクターと考え、難民の帰還支援、再定住等の難民問題を平和構築活動の中に定着させることで、難民帰還の達成を早め、また、帰還した難民の力を借り、迅速な国家再建が行えるようになる可能性について考察するものである。事例として、アフガニスタンの平和構築活動である『国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMAUnites Nations Assistance Mission in Afghanistan)を取り上げる。

 

研究の背景                                        

 平和構築とは、ブトロス・ガリが1992年に発表した「平和への課題」で初めて登場した概念である。この活動の内容として、兵士の武装解除や選挙の監視と並んで難民の帰還についても述べられている。

 しかし、難民問題は実際のところ、平和構築活動の一環としてはあまり扱われていないようだ。難民は紛争後の選挙の実施や、荒廃した紛争当時国の復興になくてはならない存在である。また、国家再建後は、その国の国民としてその国の将来を担って行く重要なアクターである。よって、国連難民高等弁務官事務所(UNHCRThe office of the United Nations High Commissioner for Refugees)のような特定の機関のみでその問題解決に当たるのではなく、平和構築活動のような大規模な活動の中に体系的に組み込むことにより、紛争後のより迅速な復興、国家再建が期待できる。

 冷戦終結後、各地で紛争が頻発、国連はそれらの紛争に対し、国連平和維持活動(Peace Keeping Operation:PKO)を派遣する等の措置や、事態の収拾を行なって来た。1992年にはブトロス・ガリによる『平和への課題』が出され、国連の平和政策に対する重要性が認識されるようになった。また、ルワンダでの大虐殺によるコンゴ民主共和国への波及などに伴う難民の流出等、冷戦後型の難民政策の重要性が顕在化した。

 第二次大戦後の195011日、国連難民高等弁務官事務所(United Nations High Commissioner for Refugees:UNHCR)が設置された。当初、第二次大戦中に発生した120万人にも上るヨーロッパ難民の問題を解決するための組織であった。そのため、当初、UNHCRの活動期間は3年間の限定的なものであり、その援助対象者は1951年に締結された難民条約により、195111日以前のヨーロッパで発生した難民と限定されていた。しかし、UNHCRの活動終了予定の3年を過ぎても難民問題は解決することなく、むしろ拡大の一途を辿った。そのような状況を受け、1967年の難民の地位に関する議定書では、その時間的、地理的制約が取り払われ、UNHCRはその活動を世界規模で拡大することとなった。UNHCRは当初の設立期間である3年を過ぎ、その後5年毎に活動期間を延長し、活動を続けて来たが、200312月には、難民問題の解決を見るまで活動を継続する恒久的機関となった

 UNHCRはその活動開始以降、難民条約に基づく難民の保護という従来の目的のみに焦点を当てた活動を主に行なっていたが、クルド難民の例のような大量の国内避難民の出現などにより、その活動は多様化することとなった。

 現在[1]UNHCRが援助する難民は8,394,400人で、難民を含む援助対象者は20,751,900人に上る。最も多い難民はアフガニスタン難民で1,908,100[2]であり、次いでスーダン難民の693,300人、ブルンジ難民の438,700人となっている。

UNHCRの難民解決の方法は現在、@本国への帰還、A庇護国定住、B第三国定住の3つである。その中でもUNHCRは、@本国への帰還を主な解決策としている。

以下、事例として取り上げるアフガニスタンの平和構築活動の概要を見ていきたい。

 

アフガニスタン

2002328日、国連安保理決議1401により、UNAMAが設けられた。UNAMAは開発問題と政治的問題の2つを大きな柱として扱っている。その政治的問題対策の中の1つに人権問題対策があり、その中に帰還民、国内避難民、戦争孤児のような最も脆弱な人々に対する保護活動という項目がある。

 それに加え、選挙の実施に関する難民の関わりについても見ていきたい。選挙は平和構築活動に難民が直接関われる貴重な機会であり、選挙の実施の成功がその後の国家の安定にも重要な影響を及ぼす。

選挙の実施

 平和構築において難民が果たす重要な役割に選挙がある。難民・避難民を選挙民登録し、選挙を行うが、しばしば登録が不備に終わる場合もある。不当な形で多くの難民を登録から事実上排除したり、技術的な理由から登録しないままにしたりする場合、社会契約行為としての和平合意の地位は危うくなる[3]。そのため、難民・避難民の選挙民としての登録と公正な選挙は和平合意成立にとってもとても重要である。

 アフガニスタン難民に関しては、UNAMAの活動の中で、2004412日から19日までの日程でUNHCR職員を含むJoint Electoral Management Body (JEMB)の代表団がイランを訪問し、イラン政府、難民代表と選挙に関する話し合いを進め、選挙民登録と投票の可能性に関する評価を行った。その前月の4日から11日には同様の活動がパキスタンでも行なわれた。その後、4月の22日には、選挙民登録が開始された。選挙民登録を行なった人数は1856875人であった。当時のアフガニスタン難民数が2,085,522人であったことから、約89%の人々が選挙民登録を行なったと考えられる。同年10月には大統領選挙がアフガニスタン全土とイラン、パキスタンで実施され、カルザイが55.4%を得票して当選した。

 

3.研究の目的                                         

 本研究では、難民帰還という、紛争後必ず解決しなければならない難問を、平和構築の一環として位置づける事で、平和構築、難民帰還の双方にメリットがあるということを明らかにする。

 そして、今後の平和構築の新たな手法として、平和構築と難民問題を共に、同時に行っていくよう提言する。

 

4.研究の意義                                        

 本研究で、難民帰還が平和構築においていかに重要であるかを証明する事で、今後、平和構築と難民帰還を各関係機関が協力して行い、紛争後のより迅速な国家再建が行われることが期待される。

 

5.今回の研究における結論                                      

 今回、アフガニスタンにおける平和構築活動であるUNAMAとその中で難民問題がどう扱われているかを見て来た。難民問題に関しては、UNHCRの関わりが大きく、UNAMAの中に難民問題がしっかりと組み込まれているとは言い難いのが現状のようである。

 しかし、選挙においては、UNAMAUNHCRのある一程度の協力が見られた。また、今後、包括的な紛争後の平和構築を行なう上で、難民問題を平和構築の一環として取り入れることは非常に重要かつ有意義なことであると考える。

 UNAMAは人道部門が初めて組み入れられた平和構築活動であるため、課題も数多く残されているというのは否めない。今後の平和構築活動の改善により、難民問題が平和構築の中の問題の一つと認識され、難民問題の解決が図られて行くことを期待したい。



[1] 200611日現在

[2] 2005年、アフガン政府によるパキスタン内での国税調査によると、その後の帰還活動で、加えて難民を含む150万人のアフガン人がキャンプの外で暮らしていることを示している。

[3] 篠田英朗『平和構築と法の支配』99