2008年12月15日、慶應義塾大学G-SEC 4Fセミナー室にて「守るべき地域医療とは何か」をテーマに、ミニ・シンポジウムを開催した。
産婦人科・小児科の閉鎖、救急患者のたらい回し、自治体病院の休止などに代表されるように、現在わが国の地域医療は存続の危機に直面している。背景には、医師不足だけでなく、医師の育成や研修環境の変化、診療報酬制度の改革、医療機関のみならず自治体の財政状況の悪化など、様々な要因が密接に関係していると思われる。地域医療を立て直すには、これらの様々な要因を紐解き、解決すべき課題と原因を理解することが重要である。
今回のミニ・シンポジウムでは、異なる観点から地域医療の問題に取り組まれている2名の専門家をお招きし、地域医療の課題とその解決に向けてディスカッションを行った。シンポジウムの概要は次のようになる。
- 日程:12月15日(月)15時〜18時
- テーマ:守るべき地域医療とは何か
- ご講演者:
- 伊関友伸先生 城西大学 准教授 元埼玉県庁職員
- 堀真奈美先生 東海大学教養学部 准教授
- 秋山美紀先生 慶應義塾大学総合政策学部 専任講師(HSRメンバー)
- コーディネーター:印南一路先生 慶應義塾大学総合政策学部 教授
- 場所:慶應義塾大学三田キャンパス G-SEC 4階 セミナー室
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議論の概要は以下のようになる。
城西大学経営学部準教授伊関友伸氏は「地域医療の崩壊とその再生方策」のテーマで講演された。自治体病院の経営破綻の事例等を基に、崩壊の原因を、経営側のお役所体質と市民側の不安、無関心と人任せの態度にあることを指摘した。その上で、兵庫県柏原病院の小児科存続の危機にあたって、市民が医師の招へいや親への啓発活動に乗り出した「柏原病院の小児科を守る会」の活動を紹介し、情報提供と住民間の議論により地域医療の再生、ひいては民主主義の再生につながると主張した。
東海大学教養学部準教授の堀真奈美氏は「イギリスから学ぶ地域医療のありかた」のテーマで講演された。はじめにイギリスの医療保障制度であるNHSの概要を説明し、その後、最近のNHS改革の内容(特に、コミュティケアや医療福祉の地域連携の推進に関して)から、日本でも参考になる点に関して指摘された。最後に、多様に使われている「医師不足」の現状と原因を整理し、医師を養成することだけでは解決策として不十分であること、守るべき地域医療について国民的合意形成が必要であること、将来的には医療サービスへのアクセス管理も必要であることを提案した。
慶應義塾大学総合政策学部専任講師でありHSRメンバーの秋山美紀 氏は、「地域医療を守る -住民がアクターになるためには-」のテーマで講演 した。 千葉県山武・東金地区のNPO「地域医療を育てる会」の取り組みや、宮城県古川地区の「緩和ケアコーディネータ養成講座」の事例を紹介しながら、地域内の異なる立場のアクターが相互の理解と信頼を醸成し協力体制を作ることが重要だと述べた。そのためには、例えば地域連携パス作り、医師教育への住民参加、連続講座やワークショップの開催など、同じテーブルについて議論する場作りが鍵になると論じた。
後半は1時間のディスカッションを行った。コーディネーターは慶應義塾大学総合政策学部 教授の印南一路氏である。はじめに、3人のプレゼンテーターの発表内容から、議論のポイントになる点について整理がなされた。ディスカッションでは提示された論点を土台に、住民の医療への理解と参加を促す仕組みや、行政の果たすべき役割などについて、
フロアーの参加者も交えて、活発な議論がなされた。
出席者は19名であった。NPO地域医療を育てる会からも理事と会員が参加し、大学教授、学部生、他大学院の学生など、様々な立場から議論が展開された。
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