ティースマイヤ 20年度(2008年5月~2009年2月)森基金報告書

研究課題:開発途上地域におけるヒューマン・ネットワークと情報技術の同時利用の評価

研究背景

2008年度半ばより、輸出志向経済や国際市場に頼っているアジアにおける貧困地域がグローバルな金融危機の悪影響を感じ始めた。「ショック」である経済的な不況を直面する資源の乏しい貧困地域は市場が崩壊した、金融的な資源が蒸気した度に生活の継続を確保するために伝統的なヒューマン・ネットワークと基本的な情報ネットワークの同時利用をより活性化しようとしている。その実態について調査して来た。具体的には、生活基盤を喪うリスクの最も高い住民がヒューマン・ネットワークや情報技術又はネットワークを使いながらいかに生活を持続しているか、その方法について調査して来た。そのために本研究は生活を支える新たな工夫を求める住民が地域レベルの代表的なマイクロデータを収集して来た。

研究目的

近年「ネットワーク」の概念は、たとえばインターネットに代表されるような、異なる技術を相互連関させる概念として定義されており、それが社会経済の急速な発展をもたらす可能性に焦点があてられた議論が多い。一方で、人間開発の分野においては、資源の調達や、市場へのアクセス、そしてほかの経済的・社会的な機会の提供などをもたらす、一つの既存の「技術」とも言えるヒューマン・ネットワーク(Human Network)への注目と、その維持/強化が必須の課題として浮かび上がっている。この、2つの異質な「ネットワーク」の関連性については、すなわち技術の可能性とヒューマン・ネットワークの相互連関(interconnected technologies)は、少なくとも人間開発(Human Development)の分野においては、概念的にも実践的にも、まだ十分に定義されていない。それらの定義の欠如を最終的にうめるのが本研究のマクロ的な目的である。

農村地域は経済的なショック(shocks)を直面する際、ヒューマン・ネットワークを基盤とした伝統的な工夫と、最近浸透してき情報ネットワークは生活基盤を取り戻すためにどのように利用しているかについて現地調査を行った。具体的には、以下の4つの経済的なショックと、利用できる「ネットワーク」に注目した現地評価型調査を行った。具体的には、これまで資源の乏しいアジア地域の農村部・遠隔地域で生活するアジア諸国の国民の過半数である村民が新たに抱えている以下の問題や地域での現行の対策を対象とした。

  1. 東南アジアで再発生している破滅的な健康問題についての、世帯やコミュニティレベルでの対応。
    HIVや伝染病の蔓延といった流行の健康問題への対応(医療技術の浸透と、公衆衛生環境へのアクセシビリティが金銭的な問題で減少して行く際、世帯やコミュニティ内ケアーのオールタナティブ。
  2. 地域又は世帯レベルでの所得の急激な喪失や変動を経験している者の新たな機会の求職、創出。世帯やコミュニティでの突発的な所得喪失への対応としてのヒューマン・ネットワークや情報ネットワークの利用性(雇用機会の獲得のため)。
  3. 環境の悪化、取り分け資源の喪失や資源となるものの取り戻す方法、交代する方法。拡大して来た土地(生産地)や自然資源へのアクセス欠如の問題やそのコミュニティでの対応。
  4. 上記の③は原因となった食糧不安や必需品の供給の減少への対応。減量して来た、高騰して来た食糧の安全保障と必需品の入手戦略。

参加研究者

  • ティースマイヤ・リン 環境情報学部 教授 コーディネート、各地での現地調査
  • Rodney van Meter 環境情報学部 専任講師 (ミャンマー)
  • Inga Mangisi 政策・メディア研究科後記博士課程3年 現地調査(ミャンマー・ラオス)
  • Ropharat Aphjanyatham(M2。ミャンマー。以下の調査によって修士論文を完了した)

研究内容

調査は、おもにタイ・ミャンマー ・カンボジア(比較するためにラオス)、東南アジアのメコン河流域(GMS)で行われてきた。それぞれの地域で取り組んだ課題と調査内容は以下のとおりであった。取り分け世界不況がおこした、圧倒的な国境を越える移住労働の急増を可能にするないしは必要にさせる状況やそれの当事者にとっての有利・不利を調査してきた。

  1. ミャンマー:急速な開発が引き起こした格差での、窮乏や災害(サイクロン)における当事者のニーズや能力の調査を通じて、コミュニケーション技術の普及や利用パターンは可能にした(不法移動も含める)移住労働や生産者と市場又は雇用機会とのリンケージについての調査。
  2. タイ:貧困地域における当事者のニーズや変動している市場への答えとしての新たに農村環境を劣化させる農耕や産物の調査を通じて、ミャンマーとラオス国境添えの移民やマイノリティ集団の生活や食糧の不安定対策についての調査。
  3. カンボジア:貧困地域における当事者のニーズや産物の調査を含めて、取り分け医療技術の浸透具合と公衆衛生環境へのアクセシビリティの度合いについての調査。
  4. ラオス:低開発地域である北部の中開発の中国やタイとの不法食糧通商を含める通商に基づいている地域経済やこれの運輸を困難にした燃料高騰の影響についての調査。

研究の実行日程(完了)

5月-7月: 概念整理、進み方についての国内外提携組織(研究施設など)とのディスカッション
8月‐9月: 第1回現地調査 (ミャンマー、タイ、ラオス)
10月  収集データ最終分析やコーディング
11月 第2回現地調査 (タイ、カンボジア)
12月  収集データに基づくプレゼン、発表や論文の予備作成
1月: プレゼンの実行。学術論文の投稿
2月: 学術論文や報告書の最終訂正

対象地域は、東南アジアでの多く議論されている大都市部のみならず、人口や環境資源が集中している農村地域にまで及んだ。研究成果として、上記の該当地域で以下の結果を確保して来た。

調査結果・研究成果

  • 農村環境問題や食糧不安に直接的に影響を与えている、地域内の生産地の減少が最近より早く進んでいる。以前の開発計画での土地の譲渡との違い、現在の金融危機のための外国貨幣の獲得の必要性から繋がっていく、中国などのより近い国家による土地の購入又は所有権の取得
  • 経済的な機会・雇用機会を可能にする範囲の制限、減少。  
  • 国内都市部・郊外の出稼ぎ先からの送金への依存的で脆弱な経済制度の崩壊による帰郷や、それから繋がって行く農村部への負担。 (現在中国の都市部から帰郷する流動人口も参照)
  • 国境を越える出稼ぎ先へのより多くの未熟練労働力の参入。
  • 現地の工業団地などの生産拠点の閉業によるインフォーマルセクターへの参入の急速な増加。
  • 本国の環境保全や労働条件の規制を怠慢する隣国の産業事業の設置や、未規制の観光産業への経済的な依存の拡大。
  • 現時点での雇用機会に適合する高度教育・スキル訓練の欠如や不適合成。

本研究は、以上の緊急性のある問題点を指摘したのみならず、農村伝統社会における経済的なショックなどの災害を耐えるための現地での工夫に基づいた方法の評価を探検して来た。その結果、①既存の地域でのヒューマン・ネットワーク(伝統的なソーシャル・キャピタル)の動因の大切さや ②情報ネットワークや変わりつつある情報へのアクセスを可能にする手段について、①と②が同時に利用できる発展途上地域のショックへの忍耐力度の比較的な高さ、明らかになった。さらに、これらのネットワークが可能にする新たな流動や(自営業も含める)就業の形態やパターンを明示した。

開発の効果に評価を付けるには、開発の当事者の視点から質的に評価することが、本研究の変わらない基盤的な命題であった「経済的なショックへの対応という文脈における、当事者による解決策としてのヒューマン・ネットワークと情報ネットワークの利用を調査したことは、「ネットワーク概念」のみならず、従来の議論は、技術移転との関連の中で、その技術や融資自体の有効性のみに焦点があてられていた。だが、開発政策の有効性は、当事者の生活環境の中で把握され、定義されることである。本研究の意義は、現地調査から得られた経験的なデータを通じて、不況のもっとも恐ろしい影響を受けている人は、もっとも資源や援助が乏しくなった時期にどのように自ら生活を確保できるかについて、有用な知識を得た。