2008年度森泰吉郎記念研究振興基金 

研究報告書

 

学籍番号:80849172

後期博士課程 庄司貴由

 

研究課題名:

 海外派遣と冷戦後日本外交:「貢献=自衛隊」の限界

 

研究の目的

 本研究の狙いは次の3つである。第1は、冷戦後日本の人的貢献問題の解明である。すなわち、(a)なぜ文民警察官の派遣に消極的なのか、(b)世界的に文民部門の比重が増す中で、なぜ自衛隊の協力が優先され、その傾向が継続しているのか、(c)どのように関係者が政策を調整し、実施したのかである。いずれも、最新の研究でさえ直接的な回答はなされていない。これらの追求が、本研究の斬新さでもある。

 第2に、新たな分析枠組みの構築である。従来、危機管理の研究では、組織内部や国益を毀損する危機時が中心であった。他方、この人的貢献は、常に緊急事態に実施されるわけではない。それ故、危機管理として捉える見方は少ない。しかし、危機後の事後管理に限らず、紛争予防の機能も果たしており、今後の危機管理の一翼を担うとも考えられる。こうした機能から、新たな分析枠組みの提示を試みたい。ただし、既存の枠組みの完全な否定ではなく、不足を補うものである。従って、双方の関係は相互補完的と言えよう。

 第3は、冷戦後日本の政策の性格規定である。一連の研究過程では、韓国と比較しながら、他国の類型化と日本の性格の位置付けを行いたい。日韓比較の理由は、双方共に90年代初頭に初の部隊単位の貢献を行い、政策の類似性が見受けられるからである。そして、帰納法で属性を見出し、関係諸課題や処方箋に検討を加える。つまり、本研究は事例分析と理論分析の双方を行うことになる。

 従って、今後博士論文において、上記の問題意識を明確にする前段階として、情報収集、未公刊文書収集を行うことが本研究の目的である。

 

研究手法

 

分析の枠組み

 危機的状況では、決定に携わる関係者の数も重要である。比較分析のためにも、それらの関係、決定モデルに注意を払う必要があろう。そこで、ハーマンとハーマン(Margaret G. Hermann and Charles F. Hermann)の枠組みを適用させたい。この理論では、3種類の危機決定モデルが想定されている。まず「支配的指導者型」であり、文字通り指導者の単独決定を意味している。利害が共通する人数が増えると、「単一集団型」の集団決定に移行する。この典型例として、米国統合参謀本部が指摘されている。さらに関係者が増加すると、「多数の自主的アクター型」による政策決定が実施される。この決定モデルでは、相互の決定を単独で覆せず、「抑制と均衡(check and balance)」で決定が下される。従って、最高政策決定者の役割はレフェリー的であり、支配的な影響力を持つ個人や集団は存在しない。ところが、以上3種の単位は、国外の関係者を殆ど想定していない。日本の人的貢献の場合、国外の関係者は決定的な影響を及ぼしてきた。そこで、図2のように、国外の関係者を「多数の自主的アクター型」に付け加えたい。さらに、国外の関係者には国連、NGOなどのアクターも含まれねばならない。これまで、危機的状況では、少数のアクターが決定を行うと認識されてきた。しかし、以上を考慮すると、海外派遣の場合、通常より多くの関係者が決定に影響を及ぼすという仮説が導き出される。文民派遣の検討は、より一層この仮説を裏付けるだろう。

 

1 危機決定モデル

 

     支配的指導者型      単一集団型     多数の自主的アクター型

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国外の関係者

 

国外の関係者

 
 


出所:Margaret G. Hermann and Charles F. Hermann, “Who Makes Foreign Policy Decisions and How”, International Studies Quarterly, No. 33, 1989, pp. 361-387 の文章から作成。

 

韓国との「共時的比較」

韓国との「共時的比較」(synchronic comparison)は、客観的評価の追及に有益である。いくら領域横断的手法を駆使しても、着眼点が日本限定では、世界の中で相対的な日本の役割を見出せない。また、単に比較を適用しても、時期などの諸条件の相違が効果を妨げるだろう。その点で、「共時的比較」の適用は、最大限の比較の効果をもたらす。とりわけ韓国は、北東アジアに位置し、米国と同盟関係にあり、日本の活動との共通点や接点も極めて多い。その例として、湾岸危機が部隊派遣の契機となった点や、東ティモールのオクシでの日韓PKO協力が挙げられる。他方、後者の事例では、自衛隊の代わりに韓国部隊がオクシの治安を担当していた。本来、派遣部隊が、自身の安全を他国に委ねることは有り得ない。従って、韓国との「共時的比較」は、日本の政策の普遍性、特殊性をより浮き彫りにすると考えられる。

 

未公刊文書の収集とインタビュー

 当初の計画通り、数名の関係者にインタビューを行った。その過程で、未公刊文書を収集する手続きが、約1年以上を要すると伺った。そこで本年は、情報公開法を利用し、未公刊文書の収集に比重を置いている。数度に亘り、内閣府、外務省、防衛省、警察庁などに足を運び、補正繰り返した結果、未公刊文書の収集に成功した。ただし、外務省の案件は、およそ1年の審議を要するものもあり、今後、より一層多くの資料を収集できると思われる。

 

成果

 

面会記録

 山昌廣、海洋政策研究財団会長、2008109日。

 坂部有佳子、内閣府国際平和協力本部研究員、20081210日。

 松尾和幸、日本地雷処理を支援する会副理事長、2009217日。

 

総理府、内閣府関係

「カンボジア国際平和協力業務の実施について」199298日。

「モザンビーク現地支援体制における現地支援チームと大使館との業務の仕切り」1993420日。

「モザンビーク国際平和協力業務の実施について」1993427日。

「モザンビーク国際平和協力隊への職員の派遣について」1993427日。

「ルワンダ難民救援国際平和協力業務の実施について」日付不明。

「ルワンダ難民救援国際平和協力業務実施計画」日付不明。

「ルワンダ難民救援国際平和協力業務実施要領(難民救援分野)」日付不明。

「ルワンダ難民救援国際平和協力業務実施要領(連絡調整分野)」日付不明。

「ルワンダ難民救援のための自衛隊部隊の派遣に係る内閣官房長官用想定問答(閣議後)」日付不明。

「武器使用関係想定」1994930日。

「(共同FAX関係想定)日付不明。

「ルワンダ難民支援想定問答(文芸春秋11月号)」日付不明。

「ゴラン高原国際平和協力業務の実施について」19951220日。

「ゴラン高原国際平和協力隊への職員の派遣について」19951220日。

「閣議後記者会見(629日)用応答要領」1999628日。

「東チモール国際平和協力隊への職員の派遣について(要請)」1999630日。

「東チモール避難民救援国際平和協力業務の実施について」19991122日。

「東チモール選挙監視活動における危機管理マニュアル」200189日。

「東チモール国際平和協力業務の実施について」2002215日。

「東チモール国際平和協力隊への職員の派遣について」2002215日。

「東チモール選挙監視活動における危機管理マニュアル」200248日。

「東チモール国際平和協力隊への職員の派遣について(要請)」2007126日。

「アフガニスタン難民救援国際平和協力業務の実施について」2001105日。

「イラク難民救援国際平和協力業務の実施について(要請)」2003328日。

「イラク被災民救援国際平和協力業務の実施について(要請)」200374日。

 

外務省関係

「国連モザンビーク活動への参加に係る現地の支援体制」1993322日。

「在モザンビーク大使館の設置について」1993420日。

「モザンビーク現地支援体制における現地支援チームと大使館との業務の仕切り」1993420日。

「メモ」日付不明。

「ルワンダ難民救援国際平和協力業務の実施について(須藤中近東アフリカ局長による在京ザイール共和国臨時代理大使への申入れ)」1994914日。

「対外応答要領」1994922日。

FAX関係想定」日付不明。

 

旧防衛庁(防衛省)関係

「ペルシア湾における機雷等の除去の準備に関する長官指示」19914月。

「カンボディアにおける国際連合平和維持活動のための国際平和協力業務実施に係る準備に関する長官指示」長官指示第6号、1992811日。

「国連モザンビーク活動(ONUMOZ)に関する国際平和協力業務の実施準備について」1993326日。

『陸上自衛隊史』1993年。

「施設部隊の安全対策について」1993519日。

『陸上自衛隊史』1994年。

「ルワンダ難民支援のために行われる人道的な国際救援活動のための国際平和協力業務の実施に係る準備に関する長官指示」長官指示第6号、199491日。

「荒谷空輸派遣隊長の発言(現地での確認)」1994929日。

「国際連合兵力引き離し監視隊(UNDOF)に関する国際平和協力業務の実施に係る準備に関する長官指示」長官指示第3号、1995829日。

『ルワンダ難民救援隊派遣史』19977月。

『ペルシャ湾掃海派遣』19988月。

「アフガニスタン難民支援のために行われる人道的な国際救援活動のための国際平和協力業務の実施に係る準備に関する長官指示」長官指示第9号、2001928日。

「東チモールにおける国際連合平和維持活動のための国際平和協力業務の実施に係る準備に関する長官指示」長官指示第11号、2001116日。

「イラク人道復興支援特措法における実施要綱の概要」20031218日。

 

警察庁関係

「文民警察官派遣に際し実施した事前教養訓練の概要」200311月。

「国際協力推進要綱について」2005915日。

 

今後の展開

  今後、インタビュー結果や未公刊文書を利用し、学内外の査読論文、学会発表を行っていく予定である。また、3月中旬頃から、カンボジアでフィールドワークも行う予定である。