研究成果報告書

 

政策・メディア研究科 白鳥成彦

 

主観的経験と行為を表現し、コンテキストに応じた解を提供するプラットフォームの構築

 

 

今研究では、高度な主観的な経験と行為を表現し、コンテキストに応じた解を提供するためのプラットフォームをベイジアンネットワークを3層に拡張したベイジアンネットワークレイヤーモデル(BNLモデル)を用いて構築する。ベイジアンネットワークレイヤーモデルとは、ベイジアンネットワークを複数個、層状に統合したものである。複数個のベイジアンネットワークは、ロシアの発達心理学者たちが提案した活動理論における活動:アクティビティ(全体のゴールを表す)、行為:アクション(ゴールを満たす実際の行為を表す)、操作:オペレーション(行為を満たす、無意識的な行為を表す)に応じて構築される。抽象度が高いものから、アクティビティベイジアンネットワーク、アクションベイジアンネットワーク、オペレーションベイジアンネットワークとし、ベイジアンネットワークレイヤーモデルではそれぞれを層状に配置し、統合している。

 


 

今研究では主観的な経験と行為の事例として手術室における麻酔科医の行為をあげ、BNLを用いて麻酔科医の行為を表現し、その高度技能スキルを支援するためのシステムを提示する。手術室における麻酔科医の行為は患者の状態を安全にするという目的のもと、複数の職種の人間達によってさまざまなこと行われている。この麻酔科医の行為は動的特性、複数アクター性、不確実性、状況依存性という4つの特徴を持つ。この麻酔科医行為の特徴を表現するためには、通常のベイジアンネットワークやダイナミックベイジアンネットワークでは多次元性を有した表現力の柔軟性に問題があり、適切に麻酔科医の行為を表現できない。

 

BNLではこの表現力と再利用性の問題を解決するために、麻酔行為に即したベイジアンネットワークを3種類構築し、各ベイジアンネットワークを層状に統合することで麻酔行為の表現を行っていく。3種類のベイジアンネットワークの統合により、行為の目的、実際の行為、機器の観察結果を分けてベイジアンネットワークを構築することで、単一のベイジアンネットワークより個別の状況に応じて柔軟性のある表現が可能になり、ベイジアンネットワークの更新、ノードの追加、削除を簡潔に行うことができる。

 

進捗状況、今後の課題

現在、上記のBNLモデルの実装を行っている。実装にはそれぞれのベイジアンネットワークモデルを表現するXMLと推論を表現するC#プログラムの統合によって行っている。

それぞれのレイヤーモデルは、すべてのベイジアンネットワーク情報を示したXMLプログラムとベイジアンネットワーク内の推論を表現するC#プログラムの統合によって実装する。XML内では、状態を表現するノード要素と、ノード間のリンクと確率値を表すリンク要素で構築される。そのXMLプログラムをC#側で読み込み、ノード要素とリンク要素を一つのクラスとして表現し、確率値をクラスの変数値として表現します。C#プログラムでは証拠に基づく、確率値の変化を表すプログラミングが実装され、観察に基づいた確率値の変動を表現する。XMLプログラムとC#プログラムの連結によりそれぞれ個別レイヤーのベイジアンネットワークモデルは実装されている。

 

BNLモデルの課題

ベイジアンネットワークレイヤーモデルは表現の柔軟性には有効だが、その有効性のためにシステム自体が複雑になってしまう問題があげられる。目的である事後確率を求めるために、複数のベイジアンネットワークを用いるために、妥当な推論結果、事後確率を求めるために通常のベイジアンネットワークよりコンピュータ負荷がかかり、推論時間も余計にかかってしまう。例えば、1つのコンピュータ内でシステムを構築する差異には、アクティビティベイジアンネットワーク1つ、アクションベイジアンネットワーク1つ、オペレーションベイジアンネットワーク1つという最低3つのマルチスレッド処理が必要になってくる。このような推論システム

このような表現力の柔軟性とコンピュータ負荷のバランスを決定していくことが今研究の今後の課題である。