2008年度 森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書
リアルな質感を有する3次元モデル生成の研究
森田正彦
慶応義塾大学 政策・メディア研究科 後期博士課程3年
1. はじめに
2. 実験結果
3. 考察
4. おわりに
1. はじめに
「外郭にフォトリアリスティックなテクスチャ情報を有するとともに、内部に生体構造情報を有した3次元コンピュータモデルを構築し、誰もがそのデータをweb上で閲覧可能とする」ことが本研究の目的である。この目的を達成するために、本研究プロジェクトが研究を進めてきた複合照明型3次元計測器によって取得されるフォトリアリスティックなテクスチャ情報を、理化学研究所が研究・開発しているVCADシステムへと適用する。
本研究プロジェクトでは、「比較的小型(1センチメートル以下)な物体の高精細でフォトリアリスティックなテクスチャを有する3次元コンピュータモデルを短時間で作成可能とする」ことを目的とし、この目的を達成するための手法として、IBM&R(Image Based Modeling & Rendering)を適用した複合照明型3次元計測器の開発を行った。開発した装置を用いることで、現実世界に存在する物体のフォトリアリスティックな外郭情報と3次元形状情報を計算機上に取り込むことに成功し、それらの成果物をwebやミュージアムを通して広く一般に公開を行った。次なる目標は、実物体の内部情報を有した次世代アーカイビング技術の確立である。物体内部の情報を取得できれば、生物においては運動メカニズムなどの解析に、歴史的遺物であれば素材・製法解析などの研究用途において非常に価値のあるデータを作成することが可能となる。そこで本研究では、後世に残すべき情報を構築するとともに、それを公開可能とするための枠組みについて研究・開発を進めることにする。
ところで、 "ものつくり"の現場では「CADデータによる試作、評価、修正」といったサイクルを繰り返すことで製品開発を行っていく。すなわち試作品を作っては潰し、図面を引き直すという作業を複数の部署をまたがって執り行うために、費用と開発期間等の足枷が存在した。そこで理化学研究所では、これらのサイクルを計算機上でトータル的にサポートすることで"ものつくり"の効率化を図ることを目的としたVCADシステムの研究・開発を行っている。同研究所生体研究基盤構築チームではVCADシステムを生物に応用することで、生物学の俯瞰的アプローチの実践も行っており数々の斬新的な研究成果を残している。また、同研究所生体シミュレーションチームでは、凍結包埋した資料を輪切り状にスライスし順次撮影することで、資料の断面映像を取得可能とした3次元内部構造顕微鏡の開発も行っており、これらの情報を融合することに成功すれば、前述の目的をほぼ達成できると考えられる。そこで本研究では、3次元内部構造顕微鏡によって取得された生体内部情報に複合照明型3次元計測器によって取得されたフォトリアリスティックなテクスチャ情報を融合するための手法、および生体シミュレーションを考慮したweb公開ソフトウェアの開発を進めるものとする(図1.参照)。
図1.本研究のアウトライン
2. 実験結果
3次元内部構造顕微鏡を用いてオオゾウムシの断面観察を行った。
観察条件は次の通りである。
試料 | オオゾウムシ |
切削条件 | 90rpm、20um |
切削枚数 | 1598枚 |
分解能 | (x,y,z) =(20um,20um,20um) |
観察光 | 460lx程度 |
次の表に計測結果の一部を示す。
index:00001 | index:00101 |
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index:00201 | index:00301 |
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index:00401 | index:00501 |
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index:00601 | index:00701 |
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index:00801 | index:00901 |
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index:01001 | index:01101 |
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index:01201 | index:01301 |
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index:01401 | index:01501 |
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開発したビューアを用いて表示した結果を図2、3に示す。
図2.外郭のみを表示
図3.Viewer上で一部を切断した様子
3. 考察
断面画像index:01101に見られるように、足などのような薄いパーツは切削時に剥がれて飛んでしまうことが確認された。
index:01101 |
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図4.切削断面(パーツがはがれた部分を赤丸で示す)
昆虫の切削観察においてはこのような問題を回避するために、足をまっすぐに伸ばした状態で撮影するなど、固定方法について検討を行う必要がある。
今回使用したオオゾウムシは死後一週間程度たったものであったため、筋組織の鮮やかさが失われてしまった。
死後できるだけ早くに、複合照明型3次元計測器でテクスチャ撮影を行い、即座に切削観察を行えるようデータ計測プロセスの最適化が必要と言える。
4. おわりに
3次元内部構造顕微鏡(理化学研究所が開発)によって取得された生体内部情報に複合照明型3次元計測器(慶應義塾大学が開発)によって取得されたフォトリアリスティックなテクスチャ情報を融合するための手法、および生体シミュレーションを考慮したweb公開ソフトウェアの開発を行った。
本年度は、本研究が目的とするデータの生成が可能であるか否かの検証を中心に研究を進め、また可視化のためのツール開発、ビューア開発を行った。
データ生成のための課題は下記の通りである。
- 切削時に昆虫外皮のパーツがはがれないような形で固定する方法
- 計測データの任意領域を切り出し、回転、結合するツールの開発
- テクスチャ撮影後、即座に固定し切削撮影を行うための計測プロセスの見直し