地域レベルのASトポロジ構造を比較する

研究概要

インターネットの構造や成長を把握するために,インターネットのトポロジを解析することは有効な手段である.ネットワークの接続関係を示すトポロジは,本来地理的な位置とは独立であるが,実際には地理的あるいは物理的な制約が大きい.一方,インターネットのグローバルなトポロジ構造は,アメリカ中心から,地域の接続拠点を相互接続する分散化が進みつつあり,このような構造の変化を理解するためには,地理的な情報を含んだトポロジの把握が必要となる.

本研究は,ヨーロッパやアジアなどの地域ごとのインターネットの構造を把握することを目的に,その地域における AS レベルのトポロジを推測し,地域トポロジ間の比較を行う.ここでは,多地点からの traceroute データを基に,クラスタリングにより特定地域のトポロジを抽出し,その AS レベルのトポロジ構造を AS Core Map を用いて表現する.その結果,地域ごとの AS トポロジの次数分布がべき則に従う共通点や,その地域におけるグローバル AS の役割の違いなどの特色が明らかになった.また,このような地域ごとの比較を行うためには,現状のデータの観測点が,特にアフリカやオセアニアで不足している問題や,地域の範囲をより細かくし,国ごと,都市ごとの比較をするための課題が明らかになった.

地域レベルのインターネットトポロジ解析手法

本研究では,研究の第一歩として,多地点から計測されたtracerouteデータを用いた大陸レベルのASトポロジの計測手法を検討した.大陸は,アフリカ,アジア,ヨーロッパ,オセアニア,アメリカである.さらに,アメリカは,タイムゾーンが異なる4つの地域を分割することで,合計8地域のASトポロジを解析した.アメリカを分割することで,地続きの地域を分割したASトポロジ解析手法を検討する.また,tracerouteデータは,CAIDAのSkitterプロジェクトが計測したデータを用いた.本手法は,tracerouteデータを基に直接接続されたAS間の情報を抽出し,AS間の遅延情報や接続拠点の地理情報を用いて,直接接続されたAS間の地理情報を推測する.そして,地域ごとにAS間の接続をクラスタリングすることで,大陸レベルのASトポロジ構造を明らかにする.

地域レベルのインターネットトポロジ解析手法

地域レベルのインターネットトポロジの解析

以下のイメージは,本研究の提案手法を用いて解析したアジア大陸とヨーロッパ大陸におけるインターネットのトポロジ構造を表す.本研究により,今まで解析が困難であった物理的な地域内のインターネット構造の解析が可能になる.

Resional AS Core MAP (Asia) Resional AS Core MAP (Europe)

次の図は,大陸ごとのASトポロジのクラスタごとに,AS間の接続の出次数を用いた補累積分布関数(CCDF)を表す.図中のAllは,全大陸を含めたASトポロジの出次数を表す.大陸ごとのASによる出次数が,それぞれべき乗則に従う共通点が見られ,それぞれの大陸には,接続が集中するハブASが存在することが明らかになった.

出次数による補累積分布関数を用いた大陸ごとのASトポロジを比較

今後の課題

本研究では,今までインターネット全体のみを対象に解析されてきたASトポロジに関して,地域レベルのASトポロジの推測する手法を提案し,実際のtraceroute情報を用いて大陸ごとのASトポロジの推測をおこなった.

大陸レベルのトポロジの比較により,大陸ごとのトポロジがベキ則に従う類似点とそれぞれの大陸ごとのハブASの役割の相違点を明らかにした.また,現在の手法は,国,大陸ごとのトポロジを対象としているが,将来的には,国,都市ごとのASトポロジを解析できるよう研究を続けていく.本研究により,それぞれの地域からASトポロジを把握し,地域間におけるASトポロジの比較が可能になる.

研究成果報告

インターネットトポロジデータの収集プロジェクトへの参加

WIDEプロジェクトとフランス国立科学研究センター(CNRS)[1]の間での研究協力の一環として,両組織間で人的交流・学術的交流を目的とした,学生の交換留学制度を設けている.本プログラムの交換留学生として,2008年7月20日から2008年10月13日までの約3ヶ月間,フランスのパリで現地の研究活動に参加した.受け入れ先は,LIP6 (Laboratoire d’Informatique de Paris 6) の Timur Friedman らの研究室である.滞在中は,Timurらによるインターネットトポロジの計測と解析を目的としたTopHatプロジェクト[2]に参加し,本グループのメンバであるThomas Bourgeauと共に本システムのアーキテクチャについて,議論と実装をおこなった.

国際会議の参加

AINTEC 2008[3]に論文を投稿し[4],タイのバンコクにて発表をおこなった.

修士論文執筆

2年間の研究活動をまとめるため,修士論文の執筆活動をおこなった.

参考文献

[1] フランス国立科学研究センター CNRS
http://www.cnrs.fr/
[2] TopHat
http://top-hat.info/
[3] ASIAN INTERNET ENGINEERING CONFERENCE (AINTEC) 2008
http://www.interlab.ait.ac.th/aintec08/
[4] On inferring regional AS topologies
http://www.interlab.ait.ac.th/aintec08/camera-ready/papers/35-kuga.pdf