-ストレスマネジメントを支援する触覚刺激型のコンテンツの開発-

 

人の状況に応じて動的に

視線をコントロールする間仕切りの研究

 

                                慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科

                                                            三島 伸康

 


概要

 情報技術の進歩により、様々なインタラクティブなコンテンツはより空間に馴染み、インテリアの一部のような身近なプロダクトとして存在するモノが増えてきている。今後も生活空間においてそのようなインタラクティブコンテンツが増えていくと考えられる。そこで、空間の構成する要素の考察から、室内空間において重要な要素である視線を遮蔽するもの(間仕切り)に注目した。間仕切りを動的にコントロールすることで、視覚的空間に変化を与え、一つの空間の印象を変えることができると考えた。

 本研究では、人の状況に応じて動的に視線をコントロールする間仕切りNeziripaを制作し提案する。今まで空間を閉じるか開くしかなかった間仕切りに中間層与える。Neziripaは、パーティションの帯一つ一つにねじりを加え隙間をつくることで、「隙間」という何もない空間に意味をもたせる。ねじる角度を変化させ、隙間の位置で視線をコントロールし、『閉』か『開』しかなかった空間の間仕切りに、その中間を与えることで人と空間との新しい繋がりをデザインする。

 

研究背景

 間仕切りによって人の行動にどのような変化をもたらす例を考えた時、オフィスにおける間仕切りの役割を見逃すことはできない。数十人から数百人の大部屋の仕事場では、間仕切りを得たことにより、オフィスワーカーはマイスペースに多少なりのプライバシーを持つことができた。しかし、管理職にとっては人がいるかいないかの確認がしにくくなったり、また、人の気配を感じなくなり、活気が乏しくなると感じる場合が多い。

 自発的で頻繁なコミュニケーションがオフィスの生産性の向上にとって必須な要件であるとする認識が高まりをみせる中、騒音からの自由、機密の保持、私的生活の部分を知られたくないなど、プライバシーの維持に対する関心は一向に衰えを見せていない。オフィスイノベーションの多くは、このコミュニケーションVSプライバシーの二律背反を何とか解決しようとする試みであったといってもいい。オープンスペースに一人用のワークステーションを設置し個の空間を確立する一方、スリットをあけて、外からは中の存在を、中からは外の人の動きをとれる、といった設計や、他者との関係に関する様々な研究が行われている。

 ただ、視線でコミュニケーション量を変化させるためには、障子やすりガラスなどのようなシルエットで人の存在を感じるだけではいけない。

 

コンセプト

 このコンテンツでは、人の状況に応じて動的に視線をコントロールする間仕切りを制作する。人と人、人と空間の繋がりにおいての間仕切りが動的に変化することで心理的距離を変え、コミュニケーションとプライバシーを持てる空間を生み出せると考えた。

 視線の量をコントロールすることができるよう、間仕切りに『閉』と『開』の中間層を与えることを考えた。中間層とは、すりガラスのような透明度の変化ではなく、間仕切りのサイズに対して視線を区切る量で考える。

 そこで、帯をねじることで生まれる隙間で視線をコントロールできないかと考えた。

 帯状のものをねじって生まれる隙間に意味をもたせ、今までにない間仕切りをデザインすることをコンセプトとした。ねじって生まれる隙間の空間は、ある種の錯視を生み出し、間仕切りの新たな効果を生み出す。

 図1:ねじりの模様の変化の模型写真

 

縦と横の考察

 ここで帯の方向について考える。帯をねじったときに生まれる隙間のラインの方向が変わってくる。図8のイラストの上3種類は、帯を縦に配置し、ねじる量を変えた3パターンを想定したものである。対照的に下3種類は、帯を横に配置し、ねじる量を変えた3パターンを想定したものである。 横に帯を設置した場合は、ねじりが増えるにつれて、縦の隙間が生じる。もし人が間仕切りを挟んで向こう側にたっていた場合、目線で重要になってくるのは、相手との高さ関係である。目線についてコントロールしたい場合は、帯を縦に配置し、隙間を横に生じさせる方が相応しいと考える。

 図2:ねじる間仕切りの縦と横の比較

 

NezNeziripaの実装・

 コンセプトから、ねじりの模様を活かした間仕切りの制作を行う。ここではまず、動的に動かす前に、ねじりを用いて隙間の量を変化させた可動しない間仕切りをプロトタイプとして制作し、その効果を検討した。

 プロトタイプを制作することによって、ねじることでどのように模様が変化し、間仕切りを通して中間層が生み出されるか、そしてそれが視線のコントロールとして効果があるかという点を検討する。

 帯を一列に配置し、上と下で固定する。ねじれの見え方を検討するために帯を上と下での固定角の差を0°、180°、360°、540°の4種類を通して考察する。 図3はNeziripaの変化を想定して作ったイメージ図である。0°から540°の間で、隙間の数が180°は1つ、360°は2つ、540°は3つ現れている。

     図3:Neziripaの見え方の違い

 

見え方の検証

     図4:Neziripaの背景の見え方

 

 まず、このプロトタイプを用い、間仕切りを通して見える景色の違いの調査を行った。図11がその様子の写真であり、一番左が間仕切りも何も置いてない状態の景色である。右の4つがそれぞれ0°、180°、360°、540°でねじった状態の間仕切りである。

 背景を設置すると見えている場所の違いがわかりやすい。180°ねじっているものは、中央の木々が見えているのに対し、360°ねじったものでは、中央の木々はほとんど見えていないが、その代わりに木々の上と下の景色が現れた。また、540°では、また中央の隙間が現れたが、180°よりも狭い隙間となっている。その分、その隙間を挟んで上下にねじれによって隙間がうまれた。540°が上、真ん中、下に隙間が生じ、部分的ではあるが、一番景色の全容を把握できる。

 180°は一番空間を開けて感じ、また、540°は0°の次に間仕切りとしての圧迫感を感じた。

 

Neziripaの視線の調査

 間仕切りを挟んで両側に人を置き、どのように印象が変わるかの調査を行った。ねじりの効果を確認するため椅子に座った状態で行った。先の4パターンのNeziripa(ねじれ0°、180°、360°、540°)をそれぞれ置いて、観察した。また、1つのパターンにおいて人の距離は45cm(図12 A)、100cm(図12 B)、300cm(図12 C)を離して調査した。この3種類の距離帯はエドワード・ホールの4つの距離帯によるが、対話距離内を考えて距離帯の一番遠い公衆距離は省いて考えた。

  ねじれ0°、180°、360°、540°のNeziripaを3つの距離帯(A、B、C)での印象の感じ方を調査した。

 座った状態での調査では、180°と540°の時、ちょうど相手の顔が見られた。0°と360°では相手の視線を感じなかったが、360°は0°よりも人の存在を感じた。また、同一距離帯(A、B、C)でもねじる量の違いによって、相手を意識する度合いが変化した。

 このことより、Neziripaはねじる量によって、相手との心理的距離に変化を与えられることができる。視線によって他の部分が遮蔽されていても、間仕切りの効果が変わってくる。

     図5:Neziripaの視線調査の図

 

Neziripaの実装・

 実際に回転する機構を組み込んだプロトタイプ・を制作する。ステッピングモーターを設置し駆動させる。

   図6:ステッピングモーターと駆動部分

 

システム概要

 Neziripaの入力装置として生体情報を用いる。Neziripaは、帯一つ一つにねじりを加え隙間をつくることで、「隙間」という何もない空間に意味をもたせ、ねじる角度を変化させ、隙間の位置で視線をコントロールして、人の気持ちに影響を与える間仕切りである。生体情報から気持ちを読み取ることで、相応しい空間を生み出せるのではないかと考えた。そこで心拍センサーからストレス値を算出するソフトウェア(EM wave)でストレス値を割り出し、MAX/MSPを経由してステッピングモーターのコントロールへと繋げ、Neziripaを動作させる。

まとめ

      図25:Neziripa配置イメージ

 

 自分のストレス値にあわせて間仕切りが変化し、相応しい環境を提案するという目的であったが、それが実現されたとは言いがたい。それはストレス値と間仕切りの隙間の関係がはっきりしてないからである。今後は、オフィスや展示場など、具体的な目的をもつ場で相応しい入力センサーを用い、それぞれ個人にあった空間を生み出すことができるだろう。

 また、ステッピングモーターによって自動的にねじりが生み出され、模様がきれいに表示されると、ねじりの美しさが映えた。

また、動作しない状態でのNeziripaにおいてねじりの量の変化と対人距離との対応の実験をもっとすることで、よりねじりの効果を出すことができると考える。