2008年度 森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費)

研究成果報告書

 

政策・メディア研究科修士課程2年 今村 晴彦

 

1.研究テーマ

 長野県の地域保健における住民組織活動の総合的分析

 

2.研究課題(申請時の原文)

本研究の目的は、戦後より長野県の地域保健において重要な位置を占め、現在においても活発な活動が維持されている住民組織「保健補導員制度」を研究対象とし、その活動において培われてきたこと、及びそのプロセスから、現代の保健・健康政策の課題、ひいては地域コミュニティが抱える課題に対して、新たな知見を得ることである。また保健政策において住民との協働が重要視されている今日において、保健補導員制度をはじめとした、そのモデルとなり得る過去の活動の蓄積について、これまでほとんど体系的・総合的な分析がなされていないという問題意識のもと、今後そうした分析を行うための枠組みを構築したいと考えている。

本研究の手順としてはまず、これまでの研究では全く使用されなかったデータを使用し、保健補導員制度の定量的分析を試みる(長野県下の全市町村の35年分の活動データを分析)。そしてその分析結果から特徴的な活動をしている市町村(須坂市・飯田市・茅野市等)に対し、自治体の保健師や保健補導員本人等の関係者に対して聞き取り調査を行い、定性的な分析を試みる。さらに、県外の事例との比較も行う。以上の手順により、本研究の目的を達成したい。

 

3.研究手法

 本研究は、計画書の通り、第一フェーズ〜第三フェーズの三段階で行った。ただし、時期については、当初、2008年7月までに全調査を完了する予定であったが、より研究を発展させるために、それ以降も引き続き調査を行った。また、今後の継続的研究に向けた研究報告・発表等や資料複写作業も重視した(第二フェーズ)。

 

■第一フェーズ  −市町村別定量調査− ※昨年度に実施済

  まず、これまで蓄積されてきた資料を活用し、長野県内の全市町村の保健補導員活動について、経年的および横断的な比較・評価・分析を実施した。主に資料やデータをもとにした定量調査を実施したことにより、保健補導員活動全体を正確に把握し、その特徴を抽出することが可能となった。  

 

■第二フェーズ  −特徴的な市町村の事例調査−

第一フェーズで得られた調査結果をもとに、保健補導員活動の特徴的な市町村(活動が活発である、都市化にも関わらず工夫した活動を実施している、反対に活動があまり活発でない等)を抽出し、その活動プロセスや歴史の詳細を調査した(事例調査)。この調査では、実際に活動している保健補導員や保健師、地域の医師等、関係者に対してのヒアリングを行い、記述的に分析した。特に保健補導員本人に対するインタビューでは、生活する地域や、職業、世代等の属性によって意識にどう違いがあるのかという視点から考察した。さらに、長野県の保健補導員の活動をより正確に位置づけるため、県外の事例との比較検討も行った。

 

<これまで実施したインタビュー・報告・調査等>

【2008年】

 ・5月12日  長野県国民健康保険連合会 データ分析結果の報告

 ・7月29日  長野県須坂市 研究報告

 ・9月8日   福岡県久留米市 保健師 インタビュー

 ・10月1日  長野県保健補導員等研究大会 中南信地区 見学(松本市)

 ・10月16日 長野県茅野市 研究発表

【2008年】

 ・1月12日  長野県茅野市 保健補導員連合会初代会長 インタビュー

 ・1月13日  長野県庁において過去の医療費および健康に関わる統計資料の複写作業

 ・1月14日  長野県庁において過去の医療費および健康に関わる統計資料の複写作業

 ・1月17日  長野県茅野市 保健補導員連合会総会 見学

 ・1月30日  兵庫県丹波市 「兵庫県立貝原病院の小児科を守る会」定例集会 見学

 ・2月23日  長野県長野市 保健師 インタビュー

 ・2月24日  長野県安曇野市・松川村 保健師 インタビュー

 

■第三フェーズ  −考察−

 第一フェーズ、及び第二フェーズで実施した調査結果をもとに、保健補導員制度が持つ現代的な意義や、

今後の課題、可能性等を、これまでの日本の住民組織論やコミュニティ論も考慮しながら検討した。

 

4.これまでの調査等から得られた成果

本調査で得られた成果(結論)は、下記の通りである。

 

@保健補導員組織は、「地域の健康づくり」に限らない多様な役割を担っており、その役割とは、具体的に下記の8つである。

【役割@】健康学習     【役割A】「家庭」「地域」への働きかけ  【役割B】行政の補助

【役割C】地域と行政をつなぐ【役割D】地域を知る             【役割E】仲間作りの受け皿

【役割F】新たな活動の形成 【役割G】経験を地域に蓄積させる        

 

A保健補導員組織は、住民の生活の最少単位である「組」およびそれから構成される「自治会」を基盤とし

て成り立っているとともに、その活動にあたっては行政の保健師の役割が必要不可欠である。

 

B保健補導員組織は、従来論じられてきたどの住民組織にも当てはまらない特徴を持った組織である。具体的には、行政の保健師と一体となって、地域のソーシャルキャピタルを生成しつつ健康づくりを行う組織である。

 

5.成果の発表

 本研究の成果の一部は、修士論文としてまとめた(『長野県における保健補導員組織の実態と社会的位置づけ』、慶應義塾大学修士論文、2008年)。また、修士論文提出後に引き続き行った調査の成果については、本年中に本を出版することが決定したため、その中で取り上げる予定である(『コミュニティのちから(予定)』、慶應義塾大学出版会)。

 

以上。