2008年度 森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

 

研究課題

 

「有用物質生産に向けた遺伝子集積及びその発現解析」

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 先端生命科学(BI)プログラム

修士課程2年 大木 慈子

E-mail: chika@sfc.keio.ac.jp

 

研究成果概要

 

 近年,遺伝子発現などを制御し目的の産物を効率よく得る事を目的とした代謝工学の研究では,関連する遺伝子群を導入し物質生産を行う微生物が構築されている.しかし,植物の二次代謝に代表されるように複雑な経路を経て生産される物質を微生物に生産させることに成功した例は少なく,そのような物質の汎用的な生産システムの構築はきわめて有意義である.そこで,微生物による汎用的な有用物質生産システムの構築を目標に,植物が生産する色素であるアントシアニン全合成経路をオペロン化した.まず,アントシアニン生合成経路の開始基質であるチロシンもしくはフェニルアラニンからペラルゴニジンを介してアントシアニンを合成するのに関わる9遺伝子(PAL, C4H, 4CL, CHS, CHI, F3H, DFR, LDOX, F2K )をシロイヌナズナのcDNAより取得し,OGAB(Ordered Gene Assembly in Bacillus subtilis) 法を用いてこの順序で連結したオペロン型の集積体を構築した.次に,この集積体を保有する枯草菌からの代謝物質測定を,CE-MS(キャピラリー電気泳動質量分析計)及びLC-MS(液体クロマトグラフ質量分析計)で行った結果,中間代謝物質である,4-ヒドロキシケイ皮酸の蓄積が見られ,代謝経路の最初の酵素であるPALが機能していることが確認されたが,最終産物であるアントシアニン生合成の確証は得られなかった.そこで,より検出容易な中間代謝物質であるナリンゲニンまでの生合成に関与する5遺伝子(PAL, C4H, 4CL, CHS, CHI)のみからなる集積体を新たに作製し,枯草菌でのLC-MSによる代謝物解析を行ったところ,ナリンゲニンの標品と同じ位置に微小なピークが認められた.このピークの性質を正確に判定するため,発現宿主を大腸菌に変えて代謝物測定を試みた.構築した9遺伝子集積体及び5遺伝子集積体を大腸菌株に導入し,これらの大腸菌でのナリンゲニン生合成をLC-MSにより測定した結果,ナリンゲニンが合成されている事を確認した.