2008年度森基金研究成果報告

研究課題名:Wikipedia の成長における、言語間比較による新しい文化研究

所属プログラム:インターリアリティ
政策・メディア研究科 修士課程二年
80725647 yuca@sfc.keio.ac.jp
山崎由佳 / Yuka Yamazaki


概要

2008年度森基金研究成果報告を行う。
1.概要 2.2008年度の研究成果
3.今後の計画


1. 概要

本研究は、ウィキペディアを成長という観点から捉え、それぞれの言語版の分析を通じた分化研究を行うことを目的とする。今年度は、日本語版に限定し、成長における秩序と多様性の分析を行った。 本研究の目的は、オンライン百科事典ウィキペディアの成長を、秩序と多様性という観点から捉え、成長における法則性を明らかにすることである。この目的の達成のため、日本語版ウィキペディア全体の履歴データを用いて、経年変化の分析を行った。ウィキペディアの記事に含まれるハイパーリンクに着目し、その出現頻度を分析することで、知の自己組織的な形成プロセスの詳細を明らかにした。第一に、ウィキペディア全体のデータにおいて、ハイパーリンクの出現確率分布は年を経ても同じ形の分布が再生産され続けることがわかった。これは、記事数や編集者数が年を経て変化しても、ウィキペディアは一定の秩序を持って成長し続けているということを意味する。第二に、ウィキペディアのカテゴリ別のデータにおいて、ハイパーリンクの出現確率分布には多様なパターンがあることが示された。そしてその多様な分布パターンの特徴は、Wiki システムにおける探索という機能によって大きく影響されるということが明らかとなった。以上二つのことから、ウィキペディアの成長では、全体が一定の秩序を保ちながらも、その中では多様性をもったまま成長しているということがわかった。このような多様性が生まれるのは、「探索」の機能がはたらいているからだとかんがえられる。このような「探索」は、デジタルメディアに特有のものであり、デジタルメディアにおける知の形成原理に関する研究に新たな視点をもたらすものであると考えられる。



2. 2008年度の研究成果

2-1. Yuka Yamazaki, Takaichi Ito, Takashi Iba, and Kenji Kumasaka, "Diversities in Wikipedia's growing patterns", Fourth Joint Japan-North America Mathematical Sociology Conference, CA, U.S., May 2008

2-2. Yuka Yamazaki, Takaichi Ito, Takashi Iba, and Kenji Kumasaka, "Growing Patterns of Wikipedia' s Networks: Analyzing Laws and Diversity in Japanese Wikipedia", poster, International Workshop and Conference on Network Science '08 (NetSci'08), Norwich, UK, June 2008

2-3. Yuka Yamazaki, Takaichi Ito, Takashi Iba, and Kenji Kumasaka, "Rules and Diversity of Japanese Wikipedia's Growth", THICK and APFA7, Tokyo, Japan, March 2009 (予定)

2-4. 山崎 由佳, 伊藤 貴一, 井庭 崇, 熊坂 賢次, 「Wikipediaの成長パターンにおける多様性」, 第22回人工知能学会全国大会, 2008年6月

2-5. 山崎 由佳, 伊藤 貴一, 井庭 崇, 熊坂 賢次, 「ウィキペディアの成長における秩序と多様性」, 第20回セマンティックウェブとオントロジー研究会Wikipediaワークショップ, 2009年1月


3. 今後の計画

英語版、中国語版など他言語版ウィキペディアの分析を通じ、ウィキペディアの構築という視点から分化研究を行うことを、今後の計画とする。