2008年度森泰吉郎記念研究振興基金 報告書

基礎研究(技術)の社会普及モデルに関する研究―TLOを利用した技術移転を事例にして―

政策・メディア研究科 修士課程1年 神田大輔

【背景】

 大学はイノベーションを創出するポテンシャルがあり、その研究成果の社会還元が期待されている。また、TLO整備による技術移転によって、外部研究費獲得等から特許出願数も増加し、TLO利用件数、ライセンス契約数も増加してきた。しかし近年は特許出願数も横ばいになりつつある。

 TLOを介した技術移転モデルとして@大学の技術を産業界に移転する、テクノロジープッシュ・モデル、A企業ニーズを受けてTLOが大学の技術シーズを探す、マーケットプル・モデルが考えられ、日本におけるTLOの多くが@のテクノロジープッシュ・モデルによるものである( 2005)。同じテクノロジープッシュ・モデルでもCASTIIPCの組織・運営方針の違いは顕著であるが、一般的に共に成果を上げているTLO であると言われている。二者の違いによる要因は様々挙げられるが、一つ大きな要因として株式会社リクルートによる営業委託である。CASTIを筆頭に全国様々なTLOがリクルート社に技術の営業委託をする事例が増えつつあるが、IPCは外部による営業委託を一切行っていない。大手企業がTLOと企業のマッチングを行っている事例は他にはなく、注目すべき事例である。

 

【目的】

本研究は、大学における技術の社会普及モデルとして、各TLOを事例にそれぞれのモデルを検証し、新しいモデルの構築と可能性を明らかにする。

 

【論点】

・テクノロジープッシュモデルとマーケットプルモデル

マーケットプルモデルは産学間の既存のつながりが弱い地域では企業と技術のマッチングは困難であると考えられるが、企業の意向を受けて技術シーズを探すので無駄がない。

(2005)によると日本においてマーケットプルモデルは1組織だけである。

 

・マーケティング戦略

人材不足などに理由から、不特定多数の企業に向けて情報を発信する「集合メディア型」を取ることが多いが、発明の価値を高めるのに最も適しているのが、担当者が特定の企業に直接行う「個別訪問型」であると考えられる。個別訪問型は多くのマーケティング情報やノウハウ、技術に対するフィードバックを得ることができ、次の技術開発に反映することができる。

 

・ライセンスと売却

現在、東大の産学連携本部・東京理科大ではライセンス契約ではなく、権利売却をする方向性にある。

大学は権利行使しないので、ライセンス契約という形式で複数にライセンス契約した方が「普及」という意味では有効ではあるが、権利売却という形式をとった方が技術の普及に寄与する場合もある。