2008年森泰吉郎記念研究振興基金研究者育成費成果報告書

 

【研究課題名】

「とくしまマニフェスト」における実行過程分析

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科

修士課程2年 学籍番号80724956

丹  下  大  輔

政策形成とソーシャルイノベーション(PS

パブリックポリシー(合意形成)

 

【概要】

筆者は、2008年度秋学期において、修士論文を提出した。修士論文のテーマは「地方議会はマニフェストを実行できるのか―マニフェスト実現の条件研究―」である。

そこで、修士論文執筆にあたり、議員個人、会派、政党支部のマニフェスト実現過程を刻銘に記した資料収集や、当事者、とりわけ地方議会議員等に対するインタビュー調査を行うため、森泰吉郎記念研究振興基金研究者育成費を使用した。そこで、本報告書では、これらの活動概要を報告する。なお、当初の研究課題名は、「『とくしまマニフェスト』における実行過程分析」としているが、研究枠組み等の設定変更により、政党支部マニフェストである「とくしまマニフェスト」(民主党徳島県総支部連合会策定)に焦点を当てるだけでなく、会派マニフェストである「静政会」の事例も含めることとする。

 

【活動概要】

@ 「とくしまマニフェスト」実現に向けて 〜「地産地消条例」策定実態調査

●日 時 : 2008年 731

20081223

●場 所 : 愛媛県今治市

 

2007年統一地方選挙において、「とくしまマニフェスト」に掲げた「地産地消条例」の実現に向け、これらのモデルともなりうる愛媛県今治市の「地産地消」活動を、民主党徳島県連の視察団に交じり、同行し視察した。この愛媛県今治市の「地産地消条例」の取組みを視察することで、地方議員がマニフェストを実行に移し、如何にして条例の骨子を策定するかというプロセスの全貌が明らかとなった。これらの視察で得られた知見は、本年執筆した修士論文にて使用した。

 

A「とくしまマニフェスト」実行過程の実態調査

●日 時 : 2008813

●場 所 : 徳島県徳島市民主党徳島県総支部連合会事務所・衆議院議員仙谷由人事務所

 

政党支部、とりわけ民主党徳島県連が策定した「とくしまマニフェスト」の実行過程を明らかにするために、関係者へのインタビューを行った。インタビューの対象は、現職の徳島県議会議員や民主党徳島県連幹部等である。ここで得られた知見は修士論文に反映させている。

 

B静岡市議会「静政会」へのインタビュー調査

●日 時 : 200893

●場 所 : 静岡市議会応接室

 

地方議会マニフェストは、「執行権や予算編成権を有しない地方議会はマニフェストを実行できない」という制度的な問題が存在する。つまり、予算や財源を伴う本来のマニフェストにおける定義からすれば、地方議会にはマニフェストは馴染まないという主張が大勢を占めている。しかしながら、地方議会マニフェストの中で、静岡市議会「静政会」が作成したマニフェストには、具体的な「数値目標」や「財源」を明記していた。いわば、日本の地方議会マニフェストの中で、到達点ともいえる事例である。そこで、会派「静政会」会長や所属議員へのインタビューを行い、数値目標や財源を伴うマニフェストの実行過程の全貌を明らかにした。これらのインタビューで得られた知見は、本年執筆した修士論文にて使用した。

 

C民主党京都府連が策定したマニフェストの実態調査

●日 時 : 20081210

●場 所 : 京都府京都市

 

本研究では、民主党徳島県連の「とくしまマニフェスト」を対象としているが、同様に政党支部マニフェストとして民主党京都府連のマニフェストも存在している。そこで、政党支部マニフェストの実態を網羅すべく、民主党京都府連が策定したマニフェストの実行過程の全貌をみるべく、関係者へのインタビュー調査を行った。ここで、得られた知見は修士論文に反映している。

 

【修士論文概要】

上記の活動を通じて得られた修士論文の要旨は下記のとおりである。

 

修士論文2008年度(平成20年度)

地方議会はマニフェストを実行できるのか

― マニフェスト実現の条件研究 ―

 

本論文は、執行権及び予算編成権を有しない地方議会の議員や会派が掲げるマニフェストを実現するための条件を提示し、地方議会の役割を再考するものである。

本来、マニフェストとは、「選挙において有権者に対して、政権像とともに具体的な政策の実行案を示した政策のパッケージで、政権期間中にどれだけ達成できたかを監視し、検証を可能とする形式で発表されるもの」と定義される。しかし、地方議会は執行権及び予算編成権を有しないため、マニフェストとして「数値目標」や「具体的な財源」を明記し、さらには実行に移すことは困難であるとの指摘が大勢を占めている。

しかし、近年、地方議会議員選挙で候補者がマニフェストを作成し、有権者へ訴えるという事例が増加している。果たして、地方議会はマニフェストを実行することはできるのであろうか。

そこで、本論文では、実際に地方議会の議員や会派及び政党支部が選挙時に有権者に訴えたマニフェストを実行に移し、実現に至らせた事例を抽出した。その結果、少数であるもののマニフェストを実現した事例が存在した。そこで、これらの事例から(1)静岡市議会「静政会」、(2)群馬県議会中村紀雄議員、(3)民主党徳島県総支部連合会の代表事例を選定し、地方議会マニフェストの実現条件を模索した。

これらの代表事例から明らかとなった地方議会マニフェスト実現の条件は下記の通りである。

@「数値目標」や「具体的な財源」を明記した「政策パッケージ」は、議会と首長との相互権力作用の中で政策形成サイクルを構築することにでマニフェストは実現できる

A議会の「多数派形成」は、住民や議員間の中で問題意識が共有されている地域課題を説得素材として活用することで、会派内、他会派、そして議会内の「多数」を形成され、マニフェストは実現できる。

B政党支部がマニフェストを作成し、政党所属会派との連携による「マニフェスト実行のサポート体制」を築くことでマニフェストの実現性は向上する。

さらに本論では、明らかとなった地方議会マニフェストの実現条件をもとに、今後の地方議会における役割を再考した。

 

【キーワード】 

1.ローカル・マニフェスト 2.地方議会 3.政策パッケージ 4.多数派形成 5.政党支部

 

以上