2008年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究報告書

定量的リン酸化プロテオミクスを用いたPC12細胞のEGFおよびNGF刺激におけるリン酸化動態解析

政策・メディア研究科  修士1年  阿久澤 毅史

要旨

真確細胞は細胞外シグナルを細胞内へ伝達することで,増殖や分化などの応答を行っているが, こうした応答を誘起する細胞内シグナル伝達経路は複雑なネットワークを形成してるため,未 だに包括的な理解はなされていない.シグナル伝達経路の一つであるERKシグナル伝達経路は これまで広範に研究されてきたが,その全貌は明らかになっておらず,従来の手法では発見さ れなかった他のタンパク質とのより大規模なネットワークが存在している可能性がある.一方, 近年の質量分析等の発達により,リン酸化ペプチドをリン酸化サイトごとに同定・定量するこ とが可能となり,従来の手法より詳細な知見が得られることが期待される.PC12細胞の増殖と 分化のメカニズムにはERKシグナル伝達経路が関与し,それぞれ上皮増殖因子(EGF)と神経成長 因子(NGF)の刺激によって誘起されることが知られている.本研究では,このPC12細胞におけ る増殖と分化に関するタンパク質のリン酸化ネットワーク全体を俯瞰することで,新たな制御 メカニズムを明らかにすることを目的とした.本研究によって,PC12細胞の細胞質画分で 1340箇所と核画分で1291箇所のリン酸化サイトがNGF刺激によって同定され,同様に細胞質 画分で1324箇所と核画分で821箇所のリン酸化サイトがEGF刺激によって同定された.また, NGFとEGFの刺激において,異なる活性を持つタンパク質も確認された.

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