2008年度 森基金 研究報告書

萌えキャラクターを活用した地域活性化の研究

慶應義塾大学
林正道(政策・メディア研究科)

はじめに

2003年、コミック・ゲーム・映像などの「萌え」関連商品の市場規模は888億円に達した。この場合の「萌え」とは隠語であり、一部文化において、アニメ・漫画・ゲーム等様々な媒体における、対象への好意・傾倒・執着・興奮等のある種の感情を表す言葉である。同種の感情をあらわす「好き」という言葉を使うのに語弊がある場合に用いられる。これらの対象となるアニメ・漫画・ゲームのキャラクターのことを「萌えキャラクター」と呼ばれている。

その中で、地域の活性化の施策として萌えキャラクターを取り入れ、地域が活性化に成功している事例がある。本研究では,事例研究を行い、萌えキャラクターを用いた地域活性化策の成功要因を分析し、実際にそれらの要因を踏まえた上で実証実験する。

事例研究

■JAうご

・あきたこまち

秋田県羽後町は、米袋に美少女イラスト作家の西又葵氏に依頼して作成した「あきたこまち」をイメージしたオリジナルデザインが印刷した米セット(精米5キログラム2,730円、10キログラム4600円)を販売した。販売方法はJAうご本所・営農販売課での直売とインターネット販売で行った。

2008年6月に羽後市で行われたイベントに西又氏が参加したことがきっかけでJAうごが西又氏に依頼した。デザインは稲穂を手にした市女笠の美少女に、羽後町の象徴である「梅」と「うぐいす」(絵ではメジロ)をあしらったデザインになっており、超美麗なイラストを米袋から切り取って、原画により近いかたちで楽しめるように印刷した袋の表面を和紙でコーティングした、高級感あふれる仕様になっている。

市場価格よりも500円以上高いにもかかわらず、9月末にホームページで予約受付を始めると問い合わせが殺到した。 JAうごの年間販売量は13-14トンだが、わずか2ヶ月余りで約32トンを売り上げた。購入者の9割は20-30歳の男性であったため、JAうごでは「普段は米をたかないだろう」と思い、袋の裏においしい炊き方を載せたところ、「おいしかった」と感想がメールで寄せられたほか、年間契約する人もいた。

・いちご

JAうごは11月には西又氏に依頼して、オリジナルイラストが印刷されたパッケージの「いちご」を販売した。一箱15-20粒ほどの大粒のいちごで、価格は1890円にした。一日に100箱売れる盛況ぶりだった。

・焼酎

JAうごは西又氏に依頼して、オリジナルイラストがラベルに印刷された焼酎を販売した。町内の酒販店4軒が販売した本格焼酎「花嫁道中」(720ml入り1300円)。 10月に1000本限定で発売し尽きないに完売した



■大阪府日本橋

大阪府日本橋界隈は「東の秋葉原、西の日本橋」と呼ばれるほどの、電気&オタク街である。この日本橋も近年、活気が薄れつつある中で商店街・行政が共同で日本橋界隈の活性化を目的として 2009年1月から「日本橋プロジェクト」ととして活動している。

この日本橋プロジェクトの公式キャラクターとして「音々(ねおん)ちゃん」が生まれた。いとうのいぢ氏が音々ちゃんのイラストを担当した。現在のところグッズはコーヒータンブラーのみであり、まだ発売していない。

成功要因分析

一つのキャラクター、一つのストーリーに対してどれだけの背景(バックグラウンド)を持てるかが、人々に受け入れられるかどうかのポイントとなる。その背景を構成する要素として3つあげる。 @イラスト作家のネームバリューもあるが、Aのようにコラボレーションする対象商品自体の商品としての質もあげられる。また、Bのようにキャラクターと商品と地域の関係性がないものに関しては、消費者は反応しない。

■イラスト作家のネームバリュー

両方の施策でイラストを担当しているイラスト作家はすでに2次創作業界では有名なイラストレーターであり、彼ら自身のファンが今回の初期購入者であったと思われる。地域活性化以外の商品などでも萌えキャラクターを起用した商品があるが、有名イラストレーターによるイラストの入った商品の売れ行きが良い。


■商品の品質

イラストなどにつられて買う人は多いが、商品自体の品質が良くなくてはリピーターを創出できない。「あきたこまち」も「いちごも」元々は商品としての質が良いのだが、中々売れずにいたものであった。商品としての質が高いことで、イラストでつられた顧客をリピーター化させることができる。


■商品・イラスト・地域の関係性

商品・イラスト・地域の関係性がない、もしくは強い商品ほど発展していく。萌えキャラクターを使った商品はいくつも出ているが、その中で売れている商品とそれほど売れていない商品に分かれる。それらを比較してみると、売れている商品は商品とイラストの関係性が強く、ストーリー性がある見られる。あきたこまちの場合は「あきたこまち」自体がすでに大和撫子をイメージする名前であり、イラストも大和撫子をイメージしたものである。その上、細部のデザインで羽後市の花や鳥をあしらっているため、非常に商品とイラストの関係性が強く出ている。


今後について

現在、千代田区と共同して、千代田区で萌えキャラクター企画を計画している。この企画では千代田区の花であり、これからのシーズンの花である桜をイメージした萌えキャラクターがイラストされたゴミ袋を販売、配布する。現在は調査方法について検討している。

おわりに

本研究は今後、「萌えキャラクター」を活用した地域活性化、商品作りがさらにされていく中で、より質が高く、地域活性化を図るための指針の一つになれば幸いです。この研究のために協力していただいた多くの方に感謝するとともに、実験に必要な資金を提供してくださった森基金に感謝の意を述べさせていただきます。本当にありがとうございました。