2008年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成金報告書

 

 

枯草菌を用いた新素クモ糸タンパク質の生産

 

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科

修士課程1 鈴村 寛昭

学籍番号: 80824727

 

要旨

 

 本研究では,バクテリアを用いた汎用的な高性能バイオ繊維の大量生産手法の確立を最大の目標として掲げている.第一のマイルストーンとして,特殊なバクテリアを発現宿主とすることにより,最も強靭な自然繊維であるクモの糸のタンパク質を低コストで且つ大量に生産しようと試みた.バクテリアを用いたタンパク質の生産系では遺伝子の高効率な発現制御とタンパク質の高純度な精製が必要不可欠であるが,これまではそれらに高価な試薬や多大な時間的,作業的コストを費やさなければならなかった.そのため現状ではバクテリアによるタンパク質の汎用的な大量生産手法が確立していない.しかし,本研究ではタンパク質の発現宿主に特殊なバクテリアを用いることにより,高価な試薬を全く用いることなく,且つ時間的、作業的コストを大幅に削りつつ,遺伝子の高効率な発現制御とタンパク質の高純度な精製を実現した.

 現状ではタンパク質の生産コストを大幅に減らすことに成功したが,未だにその生産量は工業化のレベルには遠く及ばない.本研究の成功は生産コストそのままに如何にしてタンパク質の生産量を上げられるかにかかっている.バクテリアを用いたタンパク質生産において、高いタンパク質生産量をマークしている研究は軒並み高菌体濃度になるまで培養が行なわれている.一方,本手法では高価な試薬を用いる代わりに菌体増殖に伴う培地の成分変化を利用して遺伝子の発現制御を行なっているため,通常培養では,遺伝子発現誘導の前に菌体濃度を高めることが非常に困難である.

 そこで特殊な培養手法を採用した.この培養手法は上記タンパク質生産手法を用いても,高い菌体濃度を維持したまま遺伝子の発現を行なえるのでタンパク質生産量の著しい増加を望める.遺伝子の発現制御と発現量を確認する為のレポーター遺伝子としてGFP(Green fluorescent protein: 緑色蛍光タンパク質)遺伝子を用いた.その結果,従来の手法と比較して約2倍の遺伝子発現効率を示し,本培養手法がバクテリアを用いたタンパク質生産において有用であることが分かった.

 

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