2009年度 森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費・博士課程)研究助成金報告書

 

研究課題:アジア諸国の交通インフラ整備が与える経済効果の研究

 

慶應義塾大学 政策・メディア研究科 博士課程1

柴田 つばさ(wings@sfc.keio.ac.jp


 本年度の活動報告の概要                                    

本年度は,本来の研究目標である『研究課題:アジア諸国の交通インフラ整備が与える経済効果の研究』に必要なアジアの交通データの収集・整理等を行ったが,それ以上に,修士論文で構築した『日本の全国9地域間産業連関モデル』の再開発により多くの時間を費やすことになった.

修士論文では,経済産業省で作成されている1965年から2000年までの長期に渡る全国9地域間産業連関表のデータをベースにモデルを構築し研究を行ったが,そもそも,それらのデータは,保存形式が紙ベース・磁気テープという扱いにくい形式であるだけでなく,非常に高価ということもあって,地域間産業間の詳細な相互依存関係をみることができる有効なデータであるとされながらも,あまり利用されずに経済産業省に眠っていたものであった.修士の研究活動では,それを数カ月かけて手作業でパソコンにいれ,計量経済分析に載るように整備し,そこからさらに交通インフラ(高速道路・高速鉄道・航空機)の利便性を表現する指標を独自に作り上げ,交通インフラ整備を考慮したモデルを構築したのであった.

修士論文完成後,これらの研究成果を発信してみたところ,35年に渡る豊富な時系列データと,それを用いながら独自に考案した交通評価指数を組み込むという新たな試みに対して,私自身が想像している以上に大きな反響があった.その中で,いくつかの貴重なアドバイスやコメントをいただくことで,モデルをさらに精度の高いものへと開発する必要性を感じることになり,本年度は修士で行った研究を引き続き行うことになった.

以上のように,本年度は,修士で構築したモデルの更なる開発に力を入れることになったが,それにとどまらず,それらの成果を国内学会で発表したり,論文執筆をしたりと,社会へ発信することも心がけ,研究活動をおこなった.具体的な活動は下記のようになる.

 

本年度の国内学会発表・その他の活動

 20091012日(月):日本地域学会 第46(2009年度)年次大会発表

配布資料レジュメ: jsrsai'09_1.pdf

配布資料パワーポイント:jsrsai'09_2.pdf

 2009111日(日):環太平洋産業連関分析学会 第20(2009年度)大会発表

配布資料レジュメ: papaios'09_1.pdf

配布資料パワーポイント:papaios'09_2.pdf

 20091123日(月)〜24日(火):慶應義塾大学SFC ORF2009ポスター展示発表

展示ポスター:orf'09_1.pdf orf'09_2.pdf

 


 本年度の研究内容                                

 ここでは,今年度において,実際にどのようなモデル開発を行ったかを報告する.

1) 経済データ実質化の見直し

修士論文で用いた産業別デフレータを再度見直し,より精度の高いものに変えた.そのため1965年から2000年に至る全国9地域間産業連関データもすべて変える必要があるので,再度,実質データをつくり変える作業を行った.

 

2) 交通効果の評価指数の再考察

高速交通機関を利用した際の利便性を評価する指数に,さらに現実的な要素を加えため,様々なアプローチを試みた.

 

3) 交通機関の代替性の考慮

これまで単に交通の効果をモデルに組み込むことだけを考えてきたが,それだけでは,モデルのパフォーマンスにおいて不具合が生じた.その原因を追及したところ,交通の代替性が考えられていないことが問題になっているということが明確になった.よって,それらを表現するのに適した定式を考えた.

 

4) シナリオ分析

交通と経済の関係の歴史的検証をするために新たなシナリオ分析を行った.


  次年度の研究に向けて                                 

 以上のように,本年度は,国内を対象としたモデル構築に多くの時間を費やすことになってしまい,博士論文に必要なアジア諸国に関する調査・研究に十分な時間を割くことができなかった.しかし,このことは,決して博士論文のための研究から遠ざかったという意味ではなく,また,研究の進度が遅れてしまったということでもない.今年一年の研究活動で得られた様々な成果や展望は,アジア産業連関モデル構築にすぐに応用できるようなものが少なくない.次年度では,これらの経験や知識を最大限に生かし,アジア経済の大規模モデル開発に着手してゆきたいと考えている.

また同時に,全国9地域間産業連関モデルは,経済計量モデルとして非常に有益なツールであるので,今後も,少しずつ整備し,何らかの成果を築きあげてゆきたいと考えている.