2009年度 森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費・博士課程) 研究助成金報告書

              

研究題目: スポーツにおける集団を対象としたチーム評価尺度の提案

 

                             

                  慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 後期博士課程2年

                                                   竹村りょうこ(ryoko62@sfc.keio.ac.jp)                                                                                      

 

 

研究目的

 

本研究の目的は、スポーツにおける集団を対象とした評価尺度を作成することである。社会生活を送る上で誰もが集団に所属するが、多くの人が経験するスポーツ集団を対象とすることで、スポーツと社会性のつながりを明確にする。スポーツ集団に所属することによって獲得できる能力を尺度化することにより可視化していく。集団種目であるバスケットボール、サッカー、野球等と個人種目のテニス、卓球、水泳等におけるチームの捉え方の違いも結果から考察する。また、競技レベル、集団(部活動)経験の有無、男女差からも分析し、現状を把握するとともに、スポーツ集団所属経験から得られる能力を獲得する環境作りの提案につなげる。

第一に個人がチームを評価するチーム印象評価尺度を作成する。所属するチームを個人がポジティブに評価しているかを判断し、チーム所属の有意性を測る。第二に、スポーツチーム・コンピテンシー尺度を作成する。OECDが出したコンピテンシーの定義と選択のプロジェクト(DeSeCo)で定義されたキー・コンピテンシーの考え方をスポーツに置き換えることによって、広く汎用性のある尺度を作成していく。それにより、スポーツ集団に所属することで得られる能力を、スポーツで遭遇する場面に置き換え、具体的な行動と共に能力を分析する。尺度による可視化により客観視することで、自身やチームの現状を把握し改善することができるものとする。

 

 

研究背景

 

現在までの集団を対象とした先行研究をみると、1970年代から1980年代後半にかけて盛んに集団研究が行われていたが、近年では集団を対象としたものがほとんどみられないことがわかる。1941年に「成員が集団に魅力を感じ、積極的かつ自発的に集団にとどまろうとする程度のこと」と定義された集団凝集性がLewinによって概念化された。その後、日本では運動部のモラール調査(丹羽・竹村,1967)、運動部員の集団成員性検査(丹羽・竹村,1967)が作成され、集団の魅力、集団への価値づけ、集団への忠誠、集団への同一化が項目から得られる主要な因子とされている。また、Sports Cohesiveness Questionnaire((Martens,Landers and Loys ,1972)Multidimensional Group Cohesion Instrument(Yukelson,Weinberg,and Jacson’s ,1984)では、Quality of teamwork,Unity of purpose,Attraction to the group,Valued roleが主要な因子とされ、その後日本向けに作成されたスポーツ集団凝集性質問紙(阿江,1986)では、メンバーの親密さ、チームワーク、目標への準備、魅力、価値の認められた役割という主要因子で構成されるという結果となった。チームワークがメンバーの親密さとチームワークと二分化されたことから、日本ではチームワークは技術的な要素で解釈されていることが認められ、既存の尺度との差異として説明されている。その後、Group Environment Questionnaire (Widmeyer,Brawley and Carron, 1985)が作成され、比較的近いものとしては日本でチーム心理診断テスト(SPTT)が日本オリンピック委員会スポーツ医・科学研究報告(猪俣他,1991)によって作成されているが、近年では集団を対象にした研究はないこと、個人が集団の印象を評価した研究、キー・コンピテンシーの概念から考案された研究もないことから、本研究が今後の集団研究への新たな活性化へのアプローチとなることを期待している。

 

 

研究内容

 

T.予備調査

  対象:大学体育会運動部員 男子70名 女子50

  期間:20099月〜12

  種目:サッカー、ホッケー、硬式テニス、軟式テニス、卓球

  内容:アンケート調査(28項目/61項目/自由記述)

 

 

研究成果

 

予備調査実施に向けて調査票を作成するにあたり、心理学専攻の指導員2名、スポーツチーム経験を持つ指導教員、実際にチームに所属している学生等8名でのブレインストーミング法等により項目作成を行った。また、キー・コンピテンシーの概念を元にスポーツチームの現場に置き換えた項目を作成した。

150以上の作成された項目より、尺度を説明できると考えられる28項目/61項目を予備調査として実施した。

 

   [項目の精選手順] 

1.平均値による回答の偏向、相関係数、項目−全体得点相関 による項目削除

2.標準偏差による天井効果、フロア効果による項目削除

SPSSによる因子分析(主因子法、プロマックス回転)

3.累積寄与率の値による判断

スクリープロットによる因子数判断

因子負荷量による項目の削除

4.いくつかの因子にわたって高い負荷量を示す項目を除いての再因子分析

すでに削除した項目を含めての再因子分析等、因子分析の再考

 

精選した項目を元に因子分析をした結果、チーム印象評価尺度は20項目4因子構造で説明ができるものとなった。第1因子は集中力がある、良い緊張感がある等の項目からなる成熟集団因子が抽出された。第2因子は愛着がもてる、充実感がある等の項目から所属感因子とした。第3因子はポジティブである、感情がある等の項目からなり、充足感因子とした。第4因子は誰に対しても平等である、思いやりがある等の項目からなり、配慮因子とした。α係数は第1因子.909、第2因子 .897、第3因子 .759、第4因子 .775であり信頼性については十分な値であった。

 

スポーツチーム・コンピテンシー尺度においては、23項目4因子構造となった。第1因子は自分の存在を抑えてもチームの為に行動できる、裏方に回ってサポートできる等の項目からなり、忍耐力獲得因子とした。第2因子は、相手の立場に立って考えることができる、後輩を思いやることができる等の項目からなり、思慮深さ獲得因子とした。第3因子は、自由に意見が言える、役割の違いによる温度差がない等の項目からなり、相互自律性獲得因子とした。第4因子は適度な範囲で互いを批判することができる、間違いを指摘し合えるという項目からなり、批判的思考因子とした。α係数は第1因子.873、第2因子 .892、第3因子 .885、第4因子 .831であり、信頼性は十分であった。これら4因子はキー・コンピテンシーの概念を説明できるものである。今後は項目数の再考を行い、本調査に向けて調査票を作成する。

 

 

今後の研究

 

予備調査分析結果から項目の精選作業を行い調査票を完成させる。因子を構成するそれぞれの項目数をそろえていくため、新たな項目も作成していく。尺度の妥当性を検証するため、被験者チームの構成等、指導者または被験者自身から回答を得るフェイスシートを作成していく。本調査に向けて質問項目の10倍程度の被験者に調査を実施する。集団種目、個人種目の大学体育会運動部に所属する学生500名程度に依頼し調査を進めていく。

本調査を行った後、スタナイン得点を求めグラフにする等、可視化をすることにより被験者自身、指導者、チームに対してフィードバックをするまでを研究とする。

本研究では、社会に出る前の期間であることチーム集団に所属している両方の視点から大学生体育会運動部員を対象にしているが、本研究の成果は多様な集団に対して汎用性のあるものになると期待される。