研究課題名:「魅力ある」多機能都市を作るための都市デザイン研究
-東銀座を調査研究都市として-
研究者氏名:馬場由佳
所属:政策メディア研究科 修士過程1年
「魅力ある」多機能都市を作るための都市デザイン研究 成果報告書
キーワード:アーバンデザイン ワーク&ライフバランス 稠密都市 多様性 多機能
研究のケーススタディ『東銀座』を対象とした「東京都市再生研究」
1. 研究の背景と目的
近年の都市東京は超高層のひしめく高密な、魅力や快適性に欠ける「無秩序な都市空間」が存在する。私は現代の都市東京に必要なのは「多機能の集積した多様で魅力的な都市」だと考えている。
現在東京は世界でも例を見ない程様々な機能が高度に集積しており、今や東京の近未来の都市像は「多機能集積」であることが絶対条件であるといえる。本研究は、「魅力ある多機能都市を作るための都市デザイン研究」を、特に人が生活する「ワーク&ライフバランスの視点から、中央区「東銀座」を対象地として研究を行っていくものとする。
2. 研究の意義
今までの地区を用途別でゾーニングする都市計画手法ではなく、人々が快適かつ利便的な生活をする(ワークライフバランスを充実させる)ための多機能複合都市計画手法を用いる。ある統一感を持たせながら、その都市の特徴を持たせる『特徴のある魅力的な高度集積型の多機能都市』を提案したい。
具体的には「東銀座」を対象地として「伝統文化芸能」、「今日的な機能」(大型商業、オフィス、都心居住等)という要素を含むデザインの方針作りに取り組む。こうした「東銀座らしさ」の要素をキーワードとして作成した「都市デザイン提案」は「東銀座らしい」特徴のある多機能かつ多用途の都市デザインが可能になる。
3. 研究の方法
本研究では、現代の日本社会に必要とされる新しいワークライフバランスのとれた新しいライフスタイルに見合う「東銀座らしい」都市デザインルール作りの提案をすることを目的としケーススタディとして『東銀座』に実際の「魅力ある多機能都市を作るための都市デザイン提案」を行う。
・研究の具体的な計画
「東銀座」をケーススタディ対象地として、
ア. 地区のフィールドワーク調査。(伝統芸能、料亭、大型業務施設等)
イ. 周辺地区(銀座、築地、月島など)のポテンシャル調査。
ウ. 東銀座の特徴が分かる地区計画(高層住宅・大型業務施設の集積・通りに対する構え)考察。
エ. 東銀座らしいライフスタイルを踏まえた都市再生提案。
4. 対象敷地の分析
(ア) 東銀座の近年の動向
歌舞伎座の建て替えが2010年4月より行われる。この建て替え計画では歌舞伎座を劇場とオフィス棟を兼ね備えた『東銀座』を大きく変容させる計画と成ることは間違いない。
そこでまちとの調和を図る『東銀座らしさ』を保った大規模再開発を東銀座三丁目中心に総合設計計画を行う提案の必要性が感じられる。
写真1:現在の歌舞伎座の姿 図1,2:2013年に竣工を予定される新歌舞伎座のイメージ図
(ソース元:
tenu.at.webry.info/ 200709/article_16.html) (左:2009年1月31日発表「銀座産經新聞より」
右:2009年11月17日発表「産経ニュースより」)
(イ) 東銀座が持つポテンシャル
・東銀座の日本伝統文化芸能
東銀座は、地区自体が『歌舞伎座』、『新橋演舞場』を初めとする「日本の伝統芸能の発信地」であり、その周辺には『高級料亭』、『花街』が広がる日本古来のエンターテイメントの中心地である。
・東銀座の土地のポテンシャル
東銀座は隣に高級商業地「銀座」を、またその先には「丸の内」、「霞ヶ関」という業務地区(『ワーク』)を控え、背後には、「築地」、「月島」を持つ『ライフ』を楽しめる絶好の地である。
(ウ) 人々の生活の変化(ワークライフバランス)
現在、女性の既婚率が下がり又結婚平均年齢も4歳(1970年2005年度比較)も上がった。この社会的背景から少子高齢化や、子供を設けず夫婦共に収入財力があるニューリッチ層が年々増えている。そして、その多くのニューリッチ層がアフターファイブ後の「ライフ」を満喫できる新都心居住に注目している。また一方夫婦での子育てのために就業後の時間をプライベートに費やしたい家族も多く存在する。そこで、アフターワークのプライベートな時間を有意義に過ごすことが出来る「『東銀座』のもつ土地のポテンシャル」を活かした設計提案を行う
5. 東銀座への都市再開発提案
■都市再開発提案コンセプト
(ア) 新歌舞伎座の開発に合わせ『東銀座』を再生する
(イ) 歌舞伎座の利用者をきっかけに『東銀座』を再生する
(ウ) ワークライフバランスがとれるまち『東銀座』を提案する
東銀座がもつポテンシャルの「最高の商業都市の後背地」である点、「最高の業務都市に近い」点、そして「ライフを充実させる都市が近い」点また東銀座自身も「伝統文化芸能」がある点を最大限に生かした、『ワークライフバランス』の取れた都市再生提案を行う。具体的な『東銀座』への設計提案を以下に記す。
■具体的設計提案
(ア) 『東銀座らしさ』をテーマとした低層二階建ての瓦屋根建築によって全体を構成
(イ) 高層棟配置により新歌舞伎座と融合したまち並みづくり
(ウ) 低層部に商業施設や飲食施設の配置により回遊性を生む
(エ) にぎわい空間に繋がる拝殿を中心とした広場を設け、より『東銀座らしさ』を強調
(オ) 地上30mラインを創りまち並みの景観に統一感を出す
(カ) 総合設計手法により700%強の容積の確保 高密な土地利用が可能
これらは、「ワークライフバランス」が取れる『東銀座』の都市再生には必要な計画提案となっている。「新歌舞伎座」の登場をきっかけに『東銀座』は大きく変容の時を迎える。これを見込んで、『東銀座』に職住近接機能を高密に集約させ、周りとの調和を考慮した。高層部に居住施設、下層部に回遊性が生まれるような商業施設や飲食施設などの複合機能を持ち合わせた空間の提案を行い、今まで閑散としていた東銀座に「にぎわい」をもたらす提案となっている。
動線計画では今まで銀座から歌舞伎座、歌舞伎座から銀座と成っていた人の流れも本計画によって活性化された『東銀座』に人の流れを引き込む計画になっている。
そして、伝統や歴史を重んじる『東銀座らしさ』を強調すべく、1615年より銀座三丁目に祀られている宝珠稲荷神社をそのまま残し、新たな拝殿を設けた。そして、その拝殿を中心とした広場の設置により、これを取り囲む「人のにぎわい」の創出を目的とした計画がなされている。
図3,4,5,6:東銀座再開発提案(上からコンセプト1,コンセプト2,平面図(地下1階・1階・2階)、平面図(中層階・上層階)、立面図)
6. 総括
現在衰退している日本の伝統文化芸能が豊富である東銀座は、最も「日本らしい」魅力的な都市に成り得、かつ海外の観光客に向けた「観光都市」としてのポテンシャルを持っている。又「銀座」という住所が付くという利点から「起業家」からオフィスビル立地の注目も多いことがわかった。ニューリッチ層が注目するワークライフバランスのとれた新都心居住地としての「東銀座」がポテンシャルの高い大人の都市になり得る。本都市計画提案をすることで新しい都市東京の「魅力ある」多機能都市を作るための都市デザイン」の研究が東銀座をケーススタディとして研究出来た。