開発途上国の建設支援における国際的分業に関する研究―コンゴ民主共和国アカデックス小学校の事例を通して―
旧題目 大学研究室主導による設計施工業務に関する研究
政策・メディア研究科2年 桑原寿記
修士論文 梗概文
開発途上国において日本の建設技術者は、戦後賠償という形でのアジア諸国におけるインフラ整備に始まって、20世紀後半には政府開発援助という形で多くの実績を挙げてきた。しかし、90年代半ば以降、政府開発援助において主流だった政府主導による建物を建設・提供するだけの開発途上国支援は高コストで、持続力がないことを指摘されるようになった。この問題を踏まえて、政府開発援助の体制にも変化が見られ始めている。これまでは契約相手を日本企業に限定している無償資金協力制度が建設事業において中心であったが、NGOとの協力を支援する草の根無償資金協力などの比重が高まっている。NGOによる支援は、現地労働力を積極的に利用することで低コストを実現し、現地の技術を利用して設計施工しているために持続力も高い。だが、技術の差や文化の違いから工期が大幅に遅れたり、または頓挫してしまったりすることも少なくない。こうした状況に陥ってしまうのは、支援側の日本による設計・施工協力が、現地施工環境の特性を把握せずに建設を進めようとしたからである。
本研究では設計者・施工者として筆者が取り組んできた「コンゴ民主共和国アカデックス小学校設計建設プロジェクト」での設計施工過程を主な研究対象とする。2009年8月に現地で小学校校舎の施工を行い、計6棟の校舎のうちの最初の1棟目が竣工し、9月には開校して実際に授業が始まっている。対象敷地は水や電気などのインフラの整備が進んでなく、建材も少ないため、日本と比べると施工環境が限定的である。我々は建物の持続性を獲得するために現地の材料や技術を使用しているのだが、そのため現地での施工はこの限定的な条件の下で進められた。本研究は設計・施工の一連の過程を追うことで、コンゴ民主共和国における設計・施工の乖離とその要因を明らかにし、国際的分業が必要とされる現地労働者参加型の設計施工の指針を提示することを目的とする。これは日本が海外支援を進めていくうえで広い意味で実際に役に立つ知見にもなると思われる。
本修士論文は序論、本論、結論から成る。序論ではこれまでの開発途上国における日本の建設業・国際援助を概観し、本研究が開発途上国において注目している現地労働者参加型の設計施工が必要となった背景をまとめる。この序論により、本研究の意義と目的を明確にする。
続く本論では研究対象のコンゴ民主共和国アカデックス小学校における設計・施工過程を詳述し、計画と実施の乖離とその背景の検証、他の建設支援の事例との比較を行う。本論の構成は「プロジェクトの計画:設計案の作成」、「プロジェクトの実施:現地での施工実施」、「プロジェクトの検証:計画と実施の乖離の考察」、「プロジェクトの比較:他事例との比較と提案」の4段階から成る。前半のプロジェクトの計画・実施では、当該プロジェクトの計画・実施過程を詳述し、計画と実施の乖離を抽出する。プロジェクトの検証では、抽出した計画と実施の乖離をもとに二つの検証を行う。一つは計画と実施の乖離を要因ごとに分類し、その要因と「構法」「日コ間の情報伝達方法」「メンバー・工具」などの施工実施状況との因果関係を考察する。もう一つは計画と実施の乖離の要因に応じた対応方法を、実際の施工過程をもとに考察する。最後のプロジェクトの比較では、プロジェクトの検証で得られた知見をもとに事業形態に応じた国際的分業への提案を行う。
結論では、「開発途上国の建設支援における国際的分業がなぜうまくいかないのか。」「開発途上国の建設支援における国際的分業にどのような態度で臨むべきなのか。」「開発途上国の建設支援における国際的分業には何をもたらすことができるか。」の3つの質問に答える形で、開発途上国の建設支援における国際的分業が他の建設と何が異なり、実現される建築にはどのような可能性があるかをまとめる。