T. pendensにおいて検出された5つの中間体から考え得るプロセシング進行模式図を図2に示す.T. pendensにおけるプロセシングは,殆どの場合まず3’側のイントロンが切断され,その後5’側のイントロンが切断される.そして,両者のイントロンが切り取られてからアンチコドン部分でBHBモチーフが形成されイントロンが切断される.また,このスプライシングの順序には,それぞれのイントロンとエクソン間で形成されるBHBモチーフの自由エネルギーと深い関係があることも判明した.我々のこれまでの研究により,情報学的にもアンチコドン部分のイントロンは両者のイントロンが切り取られることで,初めてBHBモチーフが形成されると予測されてきた.また,tRNA遺伝子を予測した際に算出された3’側と5’側のBHBモチーフの自由エネルギーに注目した結果,両者で形成されるBHBモチーフの自由エネルギーには約4倍の差があることが分かった(Sugahara et al. 2007).3’側が-18.80kcal/mol で,5’側が-4.30mol/kal であったことから,自由エネルギー的に安定している3’側からエンドヌクレアーゼが認識し,イントロンが切り取られるのではないかと考えられる.
P. islandicumで検出された中間体から考え得るプロセシング進行模式図を図3に示す.P. islandicumで検出されたのは,3つのイントロンを介在するtRNA,3’側のイントロンが1つない中間体,5’側のイントロンが1つない中間体,5’側とアンチコドン部分のイントロンがない中間体,そして成熟型tRNAなど,T. pendensでは見られなかった中間体も含まれていた.これより,T. pendensのような厳密な段階的スプライシングは起こっていないと考えられる結果となった.また,P. islandicumにおいても,それぞれの自由エネルギーを比較してみたところ,3’側が-8.10kcal/mol,5’側が-6.60kcal/mol,アンチコドン部分が-13.60kcal/molであった.つまり,自由エネルギーに大差がないP. islandicumではどのイントロンからも切り取られることが可能で,無段階のスプライシングが行われていると考えられる.
我々はこれまで情報学的に新規tRNA予測を行ってきたが,それらが実際に生体内に存在するのか,存在する場合そのスプライシングのメカニズムは理解されていなかった.そこで,今回はイントロンを3つ介在すると予測されたtRNAを対象に,in vivoを中心としたプロセシング中間体を観察する実験を行ってきた.T. pendensとP. islandicumの2種の古細菌を対象に研究を進めたところ,両者で検出されるプロセシング中間体には違いがあり,一方はスプライシングに厳密な順番が存在するのに対し,もう一方では順番のない無段階スプライシングの可能性を示す結果を得ることができた.さらに,スプライシングの順にはイントロンとエクソン間で形成されるBHBモチーフの自由エネルギーが深く関与していることも分かり,これらは事前に行ってきた予備実験とも一致する結果となった.また,通常のスプライシングの決まりに従うと発生しない中間体も数多く検出され,これらが一体何を意味するのか今後検証していきたい.本研究の結果はtRNAの構造が生体内においてダイナミックに変化していることを指示する大変興味深いものとなった.今後さらに研究を続け,生命の起源や進化についても議論をしていきたい.
Marck, C. and Grosjean, H. 2003. Identification of BHB splicing motifs in intron-containing tRNAs from 18 archaea: evolutionary implications. RNA. 9 : 1516–1531.
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