2009年度森泰吉郎記念研究振興基金 研究成果報告書

所属: 政策・メディア研究科 修士課程1
学籍番号: 80924188
氏名: 上野太一
Mail: ta1[at]sfc.keio.ac.jp

映像を用いた動作技術向上データベースシステムの実現

 

1. 研究題目変更

 研究題目を「色彩感性分析による感性映像検索エンジンの実現」から「映像を用いた動作技術向上データベースシステムの実現」に変更した.当初「色彩感性分析による感性映像検索エンジンの実現」として研究を進めていたが,映像コンテンツに対する検索要求の問い合わせ言語化など,検索方式の確立に行き詰まった.その折,学外の研究活動に触れ,データベースシステムの機能の豊富さや,データベースシステムの応用領域の広さを認識した.また,学内学外両者の研究活動を進めるにつれ,実空間情報を対象としたデータベースシステムの重要性を認識し,現在に至る.

2. 目的

 研究題目変更後修士研究の目的は,個人の運動動作能力に応じた動作技術向上のための情報提供システムとして、運動動作映像,および,静止画像群を用いた運動動作技術向上のためのマルチメディアデータベースシステムを実現することにある.そのために,今年度研究では運動動作映像を用いて,運動動作映像から動作の時空間情報を抽出し,一動作の時空間メタデータを設計し,複数動作において,そのメタデータ群を運用する手法を提案する.

3. 背景

 運動の学習・指導における課題として,)学習者目付の問題,)指導者流派の問題,)競技特徴の問題がある.)学習者目付の問題とは,運動指導は言葉による説明と模範演技で行われることが多いが,学習者の中には,個人毎の視覚情報の能力差異や,模範演技の注視すべき箇所を理解していないことなどに起因して,模範演技を正しく真似られる者と真似られない者が出現することである.)指導者流派の問題とは,運動学習が演技を真似るという経験に依存するため,指導者の指導方法は,指導者ごとの運動経験や質に大きく依存し,指導者ごとに指導方法が異なるために,学習者は混乱を生じがちであるということである.また,)競技特徴の問題とは,競技ごとの特徴的な動作に生じる課題である.

4. 提案

 運動動作映像から動作の時空間情報を抽出する手法とは,映像中の被写体から首や肩,手首などの関節位置を検出し,映像中における関節位置の変化を,運動動作における動作の時空間情報とするものである.運動者を正面や側面から撮影し,撮影した映像をフレーム毎静止画像に変換し,その複数静止画像から関節位置を検知し,フレーム間関節位置の差分を,関節位置の変化とする.本システムでは,運動動作映像中の関節位置の変化を,全てのフレーム静止画像から関節位置を検知し,首や肩などの関節位置を画像における座標位置を用いて出力し,n番目フレーム静止画像の関節座標位置と,n+1番目フレーム静止画像の関節座標位置を比較し表現する.本システムでは,運動動作映像から抽出した関節座標位置をメタデータとし,複数動作映像のメタデータ群を用いて,時空間情報の計算や相関量計算などの演算処理を行い,運動動作の個人能力に応じた情報提供を実現する.

4. 研究課題

今期研究発表を行い,以下の指摘を頂いた.

·  先行研究との差違を見いだせない.

·  人体は関節や筋肉などが密接に関連して動作しており,正面,もしくは,側面からの動作映像のみでは,動作技術向上に繋がらないではないか.

·  現提案を実現するとして,本システムを用いた上で,運動学習者に対してどのような効果があるのか定かではない.

以上の指摘を受けて,来年度研究に反映させる.また,テーマとした運動動作技術向上に必要な情報を見直すべく,動作映像における情報抽出時の特徴箇所設定や,運動者撮影方式など課題を見直す.

5. 森基金使用用途

 ご援助いただいた基金は主に,パソコン購入費やデータベースシステム関連書籍,剣道技能関連書籍の購入に充てた.森基金からの多大なご支援により、必要な機材・書籍などを取り揃えることができたため、大変有意義で自由自律な研究活動を行うことができた。また,学外の研究活動に参加できたのも,森基金による経済的支援があり,それによる時間的余裕が確保できたためである.心より感謝申し上げる。


2010.02.26