成果報告書

研究題目:自治体と住民との協働実現のメカニズムの探求     

                      政策・メディア研究科1年 谷口由季乃

 

○研究概要とその背景

ブロードバンドも整備され、以前よりも自治体や住民、企業は協働して地域ブランドの展開、商店街活性化など様々な取り組みを行っているが成功事例も少ない。活動の継続という観点から見ると、リーダーがいないグループはなかなか継続性が保ちにくいといったことが現状である。また現在の地方自治体の現状として、財源不足、就労の場がない、町内会や消防団などが住民が参加せず、成り立たない、生きがいを見いだせないなど経済的にも地域の自治という点においても問題が多い。そういった中で、高知県庁では住民と協働しながら積極的にこれらの問題を解決しようとしている。高知県庁では一般的に自治体がコスト削減のために行う給食業務等の委託事業「アウトソーシング推進関連事業」以外に「地域版アウトソーシング事業」というインターネットなどを利用して発注元から離れた場所でも仕事ができるテレワークを利用した事業も行われている。この地域版アウトソーシング事業は生活面での全面的な収入を目的とせず、あくまでも地域住民の地域への関心を高め、新たな活動につなげる、住民のスキルアップのためという視点で設けられている。この事業を高知県内の山間部を中心に大月町、四万十町、黒潮町、安芸市、奈半利町で実施された。結果、奈半利町および大月町では特にいくつかの住民グループが結成され地域振興につながるような商品開発などに発展している。しかしながらそれ以外の地域では地元の政策委員会への自発的な参加まで結びつき、外部発注も行うほど発展した方もいるものの、グループ単位での活動が見られない。本研究では高知県内の地域に同じようにアウトソーシング事業が提供され、テレワーカーという受注側がいるにも関わらず、なぜ新しい活動が起こる地域と起こらない地域が存在するのかを検証することで、どのように地域の問題発見・解決の生成につながるのかを探求したい。

図1

地域

奈半利町・大月町

四万十町・安芸市・(黒潮町)

地域版アウトソーシング事業

地域の自主的な活動

×

地域での自主的な活動=新規事業の個数、経済効果、自治体主催の委員会への参加数、住民グループの個数、住民主体の委員会の個数などを基準として検討中。

 

○研究の具体的流れ

問題意識→事例概要(予備調査)→理論研究(どこに着目するか)→仮説導出→分析→結論(仮説構築)

○各地域の調査結果(抜粋)

a.大月町・b.奈半利町・c.黒潮町・d.安芸市・e.四万十町

 

a.    大月町(大月町アウトソーシング研究会):商工会議所青年部がメインで活動していたが、現在は住民の代表にバトンタッチし、小会議所青年部は窓口としてのみ機能している。当初はテレワーク事業のみを行っていたが、現在はテレワーク事業以外に地域内の住民と連携しながらはちみつの製造や月光桜を使用した製品開発行っている。テレワーク事業については19年度は0回であったものが20年度は1回、21年度は3回と着実に増えている。また平成20年にはホームページ作成、テープ起こしを行った。県以外からの委託事業も請け負っており、道の駅の改装事業など幅広く事業拡大を行っている。グループの代表の女性の方が様々な会に参加しながら営業努力をしているところが特徴的である。またこのグループへ雇用募集の案内が流れることが多くなり、グループのメンバーの中から緊急雇用対策で雇われた人が出てきた。現在は雇用創出の仲介役という役割も担っている。

 

b.    奈半利町(なはりテレワーカークラブ):

<グループができるまでのいきさつ>

奈半利町では200611年から3年間、厚生労働省が実施した「地域提案型雇用創造促進事業(パッケージ事業)」に参加した。この事業は雇用機会が少ない地域で、雇用創造に自発的に取り組む市町村などが提案した雇用機会の創出、能力開発、情報提供、相談などの事業の中からコンテスト方式により雇用創造効果が高いものを選抜し、当該市町村などに対しその事業の実施を委託するものであった。奈半利町では@人材育成事業A雇用機会創出事業B奈半利「よってたかって」事業という3つの事業が行われた。体験観光をコーディネートできる人材の育成、特産品加工の専門家による研修、特産品の販売員、営業担当者、販売に興味のある求職者への研修、料理メニューやレストランにおける接遇等に関する実習や派遣研修、テレワーカーの育成などが奈半利町の住民に向けて行われた。結果自治体のサポートも受けながら雇用創出、産業創出、地域活性化という視点で4つのグループが住民の中から自発的に生まれつつある。1つ目のグループは20062007年にこの事業において実施されたテレワーカー研修の受講者10名により2007年に設立されたなはりテレワーカークラブである。2つ目のグループは2007年、食の達人養成研修、特産品魅力アップスキル養成研修の受講者奈半利町加領郷地区の漁協女性部10名により設立された加領郷女性部(もみた市)である。このグループは地域の安心安全な食を町外にPRし、加領郷地区での販売量を増やすことによる地域の活性化、雇用の拡大を目指している。2009年には地元で毎週日曜・月曜日に開催されている加領郷の「もたみ市」にて惣菜販売を実施しつつ、毎週月曜日には役場でも出張販売を行っている。また毎週日曜日には地域外で毎週日曜日に量販店にて販売を行っている。3つ目のグループは2006年特産品魅力アップスキル養成研修のJA女性部の受講者10名により設立されたなんでも市加工グループである。地域を売り出すために加工品の開発・販売を行っている。その結果2008年には町内外9店舗で奈半利味噌、にんにく酢味噌を販売した。4つ目のグループは体験観光インストラクター研修受講者により設立される予定の奈半利町海洋観光グループである。奈半利町の海岸線及び珊瑚を使った観光に新たな観光メニュー(シーカヤック等)を加えて集客をアップさせることを目的としている。

<グループの活動>

なはりテレワーカークラブは地域の住民に対し、ITを活用した雇用の促進や地域活性化の提案・奈半利町の情報発信に関する事業を実施するという目的で設立され、現在は男性2名、女性6名の計8名が副業的に活動している。当初、この研修に関わった人々は研修訓練は積むもののそれを実際に活かす機会がなく、このままでは訓練を受けただけで成果もなく終わってしまうと感じていた。そのため奈半利町役場地域振興課の柏木雄太氏、川村氏は各グループのメンバーによびかけて、20079月から10月にかけて、他の研修事業を受けて設立されたなんでも市加工グループと連携し、『奈半利の味噌を売り出そう!』プロジェクトが開始した。この奈半利の味噌とは「体にやさしく安心」をもっとうに、なんでも市加工グループの女性が国産材料にこだわった手作りの味噌のことである。このプロジェクトではITを利用して奈半利みその認知度の向上、売上拡大、販路拡大を目的に商品PRの取り組みが行われた。その取り組みとは、なはりテレワーカークラブのメンバーが「奈半利みそ」の良さをアピールした宣伝チラシをパソコンで作成し、高知市内や奈半利町で行われるお祭り、イベントにて配布をすることで商品のPRを行うというものであった。

2007年度の高知県庁が実施している地域版アウトソーシング事業に申請も行い、県庁の事業を受託することとなった。1年目は受注業務数はテープ起こし1件のみで、テレワーカーの育成に力を入れる形となった。2年目からは1年目の実績が評価されるとともに、パッケージ事業を通じてできたネットワークから依頼をしてくれる人、奈半利町役場の職員の方の営業努力もあり受注数が大幅に増加し、17件となった。業務内容はテープ起こしやデータ入力、チラシ制作など様々である。

20095月からは毎月第2、第4土曜日、第3月曜日に奈半利町の幅広い年齢層の住民に向けて「パソコンの図書館」と題してパソコン教室を無料で2時間程度行っており、特に土曜日には毎回遊びに来る子供もいるという。ただ参加者が奈半利町住民のみのため、月曜日のような平日は参加者も少なく、7月からは土曜日のみの開催となった。無料での取り組みのため、この講座に対しての営業に力を入れるメンバーも少なく、大人は有料にするなど今後の対策が必要となっている。

勉強会や話し合いの場についても最初はスキルもなく、研修を受けただけでは厳しかった。そのため23人で集まったり、個人的に勉強を実施した。現在は週に1度、自主的に集まって話し合い、PCスキルアップ等のための勉強会を行っている。元代表方は、以前はパソコンをほとんど利用していなかったそうだが、現在はほとんど毎日メールのチェックを行っている。またこの事業を行っていく中に、スキルがアップしてきているのがわかるそうだ。今回の事業を通し、地域に対しての意識について「なんか地域もすごい停滞しているので、ほんとに特産品なり、発信したいな、という気持ちはすごくあります。で、まあ来てくださったお客さん、あの古い街並みも残ってまして、結構、お客さんも来てくださるんですけど、それが地域の活性化につながってるか、というと、ちょっと疑問なところがありまして、なんか食べるところだったり、お土産だったり、なかなかないんですね、現実。そういうものと、こう連携した動きになったら、すごくいいのになって、いつも思います。」と変化があったことを語ってくれた。経営などマネジメントについての知識もほとんどなく始めたこともあり、勉強会を通じてその必要性を感じ、今後知識を補う努力をしていくそうである。なお他グループの加工開発、販売の活動に感化されたなはりテレワーカークラブのメンバーは地元の機械製糸企業と共同で繭を利用した工芸細工の販売製作を開始した。

 

c.     黒潮町:ほとんどの人がテープ起こしのみをしている。メンバー内に障害者の方がおり、今回のテレワーク事業をきっかけにして、外部から仕事を受注したり、町内の委員会などに参加したりと、少しずつ地域のために活動し始めた。ただしエージェント的役割を果たすリーダーがまだ育っていない。2人の方にインタビューを行った。一人目は女性の専業主婦の方で今年に入ってNPO法人で働き始めた方。二人目は障害をもたれている男性の方である。役割分担についての質問などを行っていく中で、お二人の共通認識として「テレワーカーはエージェントの方からいただいた仕事を行うのであって、自分たちが営業を行ったり、テレワーカー内での仕事の割り振り、発注者とのやり取りを行うなど役割分担決めて行っていくものではないのだろう」という部分があることがわかった。以前はエージェントが呼びかけて勉強会を実施していたが、最近は行っていない。

 

d.安芸市:特にまとめる役割、住民をひっぱる役割の人が存在していない。

e.四万十町(高知テレワーククラブ):NPO法人のメンバーの方がサポートを行っている。その方がテレワーカーの割り振りも行いまとめている。特に地域活動への参加といった変化はないが、新しいテレワーカーを受け入れるための機会を、NPOが行っているビジネス研修の講座などを通じて作っている。受注数は少ないものの、一度仕事を発注してもらうと、その後も継続して同じ人から発注してもらえることが多い。四万十町議会の議事録がその例である。常にグループ内でのレベルアップのために仕事のレベル(例:テープ起こし→校正)をアップさせるなど、とりまとめの方が工夫している。またワーカーさん同士が自発的に連絡を密に取り始めたというのも特徴的である。また高知県内にメンバーが点在していることもあり、フェイストゥフェイスでの勉強会が難しいが、とりまとめ役の方は必ず年一度テレワーカーに自分のスキルの確認をしてもらうとともに、自分達グループの成果報告書の作成も行っている。またグループ内事業を通して気がついたことをメールでやりとりし、とりまとめ役の方が資料を作り、メンバーでそれをブラッシュアップさせて、マニュアルのようなものを作っており、わからない時には自己判断をせずにとりまとめ役の方やメンバーに伝えるように言っているという。

 

 

○具体的な取材スケジュール

Phase1  20097月末

・高知県庁職員にヒアリングを行い、高知県内のアウトソーシング事業の情報の整理

→アウトソーシング担当者の方へのヒアリング

→今までのアウトソーシング事業の資料調査

→その他アウトソーシングおよび協働事業に関しての情報収集

 

Phase2  20101月末

・1月22日〜26日 大月町・高知県庁・四万十町・黒潮町に取材

内容:エージェントの関わり方の違い、サポートの仕方の違い、テレワーカーの方の意識の違い、フェイストゥフェイスの頻度といった点を中心に文献調査とともに以前取材を行った奈半利町との違いを検証し、図1における地域の自主的な活動の有無につながる要件を見いだす糸口としたい。また高知県庁では品質管理をされている方に詳しい管理の仕方を調査する。

 

Phase3  20102月末

高知県における自治体アウトソーシングのケース執筆

題名:高知県アウトソーシング事業

テーマおよび内容:テーマは高知県庁の事例を通して自治体と住民の協働方法、本事業の経済的効果以外の効果、住民の自主性創出の方法である。高知県庁のアウトソーシング事業のいきさつ、概要、特徴、課題について県庁職員の方、サポートに入った方のインタビュー、提供資料を基に執筆している。また奈半利町のアウトソーシング事業のいきさつ、概要、特徴、今後の課題についても記載している。

 

※取材前には必ず文献調査を行い、効果が出ている地域とそうでない地域の違いの要素の視点探求をしている。

 

○今回の調査結果

県職員は年1度必ずエージェントやテレワーカーに向けてヒアリングを自主的に実施している。ヒアリングでは必ず地域版アウトソーシング事業の目的、自分達の業務がどのように生かされているのか、またアウトソーシングを行った各課の担当者からの声を伝えている。特に地域版アウトソーシング事業においては単価が安く、テレワーカーからも不満の声が出やすい。こういった意見にも、「県庁からの外部委託である地域版アウトソーシング事業で生活を行うことは無理です。元々そういったことを想定して作られていないんです。本来お金を支払ってスキルを身につけるところを、自宅でしかもお金を得ながら、スキルを身につけられるということを忘れないで欲しいんです。」と根気強く伝えている。また一定の割合でのエージェント料をとって下さいと呼びかけていても、単価が安いことや、テレワーカーに少しでも多くの配分をと考えるエージェントは、必要経費以外ほとんどもらえず、ほぼボランティアのような状態の地域も少なからず存在する。県庁の取り組みとしては、ヒアリング、エージェントへのアドバイスなど、どの地域においてもおおむね共通している。ただし奈半利町には役場職員が、大月町には高知県の地域支援企画員が積極的に情報収集やアドバイザー、メンバーの相談にのるなどのサポートに加わっているところがまず大きな要素といえる。

また大月町や奈半利町といった地域には、加工品の製造という新たな事業分野の拡大を行っている。ここで特徴的なことは、両地域ともグループが結成され、テレワーク事業の経験をしばらく積んだ後、メンバーの中に地元の資源に目を向けそれを生かしていく動きが起こり、その話題を相談できる場がすぐ近くにあるということである。奈半利町の加工製造の話も勉強会の中から生まれている。

個々のエージェントによってエージェント料の割合、役割分担の割り振り方、勉強会の開催の有無などがバラバラであるとともに、それがテレワーカー内の意識にばらつきをもたらしていると考えられる。四万十町の事例と黒潮町の事例を見比べてもわかるように、黒潮町では自主的な勉強会、反省会を行っておらず、スキルアップのための事業分野拡大にも取り組んでいない。ところが四万十町では仕事のレベルのアップによる質問事項の増加、マニュアル作成、年1度の自分のレベル確認などを行い、テレワーカー同士の意見交換の頻度が高いと言える。これは自主的な活動が生まれている奈半利町にも当てはまる。奈半利町のグループも頻繁に勉強会を開いている。四万十町と意見交換の手段は異なるが、グループ内で@グループおよび自己分析を行うことA今後への対策を検討することを自主的に行っている。例えば以前は経営の視点が全くなく、発注された仕事を行うだけであったが、勉強会といった意見交換の場において、経営や営業の知識習得の話題が出始めており、自分たちの課題の検討と次回への自主的な活動に繋がっている。そういった点で住民の自主的な動きという点では意見交換の頻度が要因であると言える。

ここで注意しなければならないのは、四万十町のグループが奈半利町や大月町と環境が似ており、仕事に関しての意見交換など自主的な活動には結びついているが、地域の活動にまで目を向けていない点である。四万十町と大月町、奈半利町との一番の違を見ていくと、リーダーの方が転勤族であるため、高知県内の様々な地域にメンバーが存在しているため、電話やメール以外ではフェイストゥフェイスですぐに相談できる場がないという点が異なっている。またサポートとして自治体の職員が関わっていない。そういった点で同じ地域内でのグループであるという点とヒアリングを行う職員以外にサポートする人がいるという点が大きな成功要素といえる。

今回の結果を通して、まず言えることは地域の自主的な活動が活発なところは@自治体の職員が積極的に情報収集やアドバイザー、メンバーの相談にのるなどのサポートに加わっているA地域内グループが存在しているBグループ内の意見交換頻度が高い(メール、電話、勉強会など)Cメンバーの中にテレワーク事業経験者がおり、その人が発起人となって事業分野の拡大を行っているということである。

各地域を上記要素に当てはめていくと、大月町および奈半利町は@、A、B、C全て当てはまっている。四万十町はBのみ、黒潮町はAのみである。他の要素も今後調査をしていく中で明らかにしていきたい。