1.生物指標による都市河川のコリドーとしての機能性とその連続性の評価に向けた研究

資料

研究概要

 都市河川が生物の生息地・移動経路としてどのような機能を果たしているのか明らかにすることを目的とする。神奈川県横浜市柏尾川を研究対象地として、都市河川が生物の分布に果たす役割を明らかにし、その他の都市緑地も加えた都市のエコロジカル・ネットワーク計画構築を目指す。今年度は、指標生物としてトンボ類を採用し、分布状況と河川構造、特に水際と護岸の形状(エコトーン)などの空間構造(ハビタットタイプ)との関係を明らかにすることを第一の主題とし、生息空間のモデリングを行うとともに、都市河川のハビタットとしての機能性を調べることにする。加えて、次年度以降は上記の調査データを基に、環境の連続性を評価するための手法を考案していく。

研究の目的

 都市河川がコリドーとしての機能を果たしているのかを検証することは、エコロジカル・ネットワークの形成には必要不可欠である。生態的移動空間としての機能を検証するにあたって、連続性の評価が欠かせない。現状の都市河川は、一部では本来の自然環境が残されていたり、近・多自然型工法による整備がされていたりするものの、護岸・河床整備が全面的に行われており、均質な構造が連続していない。そこで当研究では、指標種にトンボ類を用い、生物の生息状況と河川の構成要素から分類するハビタットタイプとの関係性を明らかにし、都市河川の持つ生息・移動空間としての生態的機能性を検証とその改善計画を提示することを目的としている。 

 当研究の二段階の目標が挙げられる。①:連続した河川空間において、トンボ類の生息状況とハビタットタイプの関係性から、トンボ類の環境の選好性や各々のハビタットタイプの特徴を明らかにする。②:①の情報を基に分析やシミュレーションを行い、河川の生態的空間の連続性を評価するための手法・指標の構築を目指す。これらを踏まえて、現状の問題点の抽出を行い、その改善案をハード(空間)とソフト(制度、アクテビティ)の両面からの提示をしていく。今年度は①段階の達成を目指す。

 

研究・調査の方法

 当研究では、神奈川県横浜市の南西部を流れる柏尾川流域を対象とし、生物の分布情報を指標に河川空間とその連続性の評価を行う。

調査対象地

 柏尾川は、藤沢市との境界を流れる境川の支川であるが、「横浜市水と緑の基本計画」において「水と緑の回廊軸」に指定され、ひとつの流域として捉えられている。柏尾川は、多くの部分が市街地を流れており、源流部も谷戸や住宅地、海岸段丘による丘陵地と様々なタイプがあることから、当研究における対象地として適した河川である判断した。今回は、柏尾川本川と、本川に対して河川次数が1次の河川にあたる阿久和川、平戸永谷川、舞岡川、いたち川、関谷川を対象とする。

ハビタット調査

 GPS等の位置情報から100mごとに連続的に区切り、それぞれの対象区のハビタット分類を網羅的に行う。分類については、護岸(エコトーン)の形状、傾斜の角度、川幅、水面・水際の植生・緑被率、抽水構造、周辺土地利用、河床形態、 河床もしくは周辺の止水環境の有無等の項目に基づく。
 川幅およびに河床面積は、都市計画基本図(1/2,500白地図)と航空写真、GISなどを用いて算出を行う。護岸の傾斜角度、高さ、 植栽部分の面積、植生の高さなどの測定には、レーザー距離計(Nikon レーザー距離計 550AS) を用いる。それ以外の植生や水質といった項目については、現地調査を実施して取得する。

トンボの分布調査

 調査対象区において、最も河川に近づける場所でラインセンサス法を実施する。左右両岸100mにかけて、水域側、域側それぞれ幅5~10mの範囲を対象とし、出現個体の同定およびに計数を行う。調査の努力量を均一にするために、一定の歩行スピード(100m/5分)を定めることとする。肉眼による確認が困難な場合、適宜、双眼鏡等を用いることとし、目視による同定が困難な場合、もしくはその場での同定が難しい場合は、捕虫網で捕獲して持ち帰り図鑑を用いて同定を行う。調査中に個体を確認した場合には、ハンディGPS(GARMIN )により、確認場所の位置情報、種名、個体数などを記録する。
 調査実施は、2009年6月〜2009年11月の期間内に、初夏・盛夏・初秋の3タームを予定している。これは、トンボ類の多くが初夏から初秋にかけて活動することに起因する。 実施時間帯は、前日に目立った降雨がない、晴天もしくは薄曇りの日の10時~16時までとし、概ねトンボ類が活動する天候・時間帯を選択している。

分析手法

 都市河川の生物生息空間としての機能性を明らかにするために、調査で得られたデータを基に分析を行う。生物生息情報と環境の関係性を取り扱う分析手法やビオトープ空間を指標化する手法は、数多くの既往研究で取り上げられ、様々な事例が提示されてきている。これらを参考に、当研究における最適の手法を選択し、分析を試みる。

 

調査・研究スケジュール

生物相(トンボ)調査
1.初夏(実施済み)
2.盛夏(実施済み)
3.初秋(実施済み)

ハビタット調査
1.植生調査(実施済み)
2.水質調査(2010年1月下旬~2月中旬)
3.空間・構造調査(2010年1月下旬~2月中旬)

 植物が繁茂する時期である初夏~盛夏にかけて、植生調査を行った。水質調査は、概ねトンボ類の産卵が完了し、羽化が始まる前までの期間の実施を主に考えている。トンボ類は幼生時期を、秋季~冬季の水中で過ごす種が多いことに起因する。季節変化が考えられない、河川構造や空間については、生物相調査等が完了後の実施を予定している。
分析・まとめ
 現在調査データの整理を行っており、今後分析に入る。分析の結果をもとに、まとめ・報告書の作成を行い、次年度の研究に向けた計画の提示を行う。

 

調査(通年)の結果

初夏の調査で記録された種

ハグロトンボ
ヒガシカワトンボ

アジアイトトンボ
アオモンイトトンボ
セスジイトトンボ
クロイトトンボ
シオヤトンボ
シオカラトンボ
オオシオカラトンボ
ショウジョウトンボ
コシアキトンボ
アキアカネ
ナツアカネ
マユタテアカネ
マイコアカネ(同定中)
ノシメトンボ
ウスバキトンボ
ギンヤンマ
クロスジギンヤンマ
オニヤンマ
ヤンマ科SP
(同定不可:ネアカヨシヤンマ?)

 今年度の調査において、調査地全域で記録された種は21種で、うち一種は同定中、である。—
 ハグロトンボはほぼ全域に出現し、止水性とされるオオシオカラトンボは、比較的幅の狭い水路での出現が多かった。また、セスジイトトンボは、沈水植物の有無というミクロな環境に左右されていることが伺われる。
 夏期以降はトンボ科の仲間が増えてきたが、アキアカネ以外の種の出現個体数はさほど多くない。