成果報告書 2009年度秋学期

 

極地方における可動性仮設建築の開発と研究

 

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士2

渡部玲士 (ワタベレイジ)

 

 

要旨:

 

建築の持続可能性への追求は近年、建築分野において主要な問題となっている。このような持続可能性実現のためには特に建築のプロセスに焦点をあてたデザインの考察が必要となる。建築のプロセスとは構成材の生産と加工から運搬、建設、解体から廃棄までを含めた構造物としてのライフサイクルのことである。仮設建築とは一時的に必要とされる構造物で、その時々の目的に合わせて利用される需要の高い建築方式である。比較的短命で建築のプロセスが簡明であるため、本研究では仮設建築の開発から建築のプロセスとデザインについて検証する。

 

一方、地球の気候変動の影響により、ヒマラヤ山脈に点在する氷河湖はその貯水量が増加し、拡大が進んでいる。決壊して大きな被害をもたらすことが懸念されているため、これら氷河湖の観測調査は緊急性が高い。その実現には建築のプロセスが考慮され、また仮設性のある建築物が必要となる。本研究では、ヒマラヤの氷河湖観測における仮設建築の開発を通じて建築プロセスとデザインの関係性を分析し、そして仮設建築としてのデザイン指標を考察する。

 

本研究では、まず氷河湖観測に求められる建築の仮設性を整理し、デザインの決定に影響する要因を抽出した。ここから建築のプロセスを分解し、建築物の成立のための3つの要素として、「運搬性」「作業性」「転用性」が明らかになった。そこで、この3つの要素に基づいた仮説としてのモデル提案を行った。

次に、ネパールでのフィールドワークとヒアリング調査によってこのモデル提案を評価した。ここで得られた知見から各要素の内容を分析し、デザイン指標を確立した。これらをもとに、3要素の相互関係、建築プロセスとデザインの関係性について考察した。また本論から得られた知見の実施設計への適用性を示した。

 

以上の分析、提案とその評価から確立したデザイン指標及び考察から、建築の仮説性、建築の利用目的と期間の設定からデザインを考えることの重要性を示すことができた。本論で得られた知見は、建築をどのようにして造るかというプロセスの重要性を理解する一助となり、また建築の持続可能性の追求にも寄与するものとなる。

 

 

 

モデル提案

 

 

 

1: 運搬性優先モデル

 

 

 

2: 作業性優先モデル

 

 

 

 

3: 転用性優先モデル

 

4: デザイン指標の分析