森基金研究成果報告書

――20世紀以降の日中関係の発展動向についてのインタビュー調査――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慶応義塾大学

政策メディア研究科

修士課程2年

王海寧

80825552

calmsea@sfc.keio.ac.jp

2009226

 

 

 

 

 

 

はじめに

先学期に提出した森基金申請書に基づき、今夏期休業期間を利用し、中国北京へ行き、インタビューを中心とするフィールドワークを実施した。計画書提出後、また指導教官と詳しく相談した上で、研究の方向性を若干修正した。今回のフィールドワークもその修正後の研究計画に基づき、実施されたものである。

本報告書においては、夏休みから2回にわたり実施してきたインタビュー調査内容について詳しく報告する。

本研究は2000年以降の日中関係の発展動向を分析し、とりわけ中国政府が対日外交を設定するときに政策決定要因を見出そうとする。そのため、2005年日本対中円借款終了を事例として取り上げ、中国側が円借款終了を受け止めた内部政策決定のプロセスを解明しようと思う。今回のフィールドワーク主に政府関係者と学術者に絞り、インタビューを行った。

本稿は第一章にて本研究の研究概要、第二章にて研究概要に基づき2回にわたり実施されたフィールドワークをインタビュースケジュール、インタビュー内容報告、また成果まとめごとに述べ、最後おわりにてフィールドワークを実施することにより得た成果やインタビュー調査手法についての感想を述べることにした。

 

一、研究概要

研究テーマ:

日本対中円借款終了を巡る中国側の政策過程分析――20042008――

 

研究内容:

本研究は20世紀以降の対日関係の発展動向の全般を把握し、その中で特に日中友好関係のシンボルとして位置付けた「対中円借款」の終了を考察事例として選択し、胡錦濤政権時の外交政策の影響要因を考察しようと試みる。

 

研究目的:

本研究は2005年決定された日本対中円借款終了に対する中国側の反応を政策過程分析の視角から分析を行い、胡錦濤政権時の外交政策決定の新たな影響要因を見出したいと試みる。

 

研究背景:

20世紀以降の日中関係

一方、21世紀に入って、日中関係は国交正常化以来かつてないほど複雑な状況を直面している:小泉元首相の靖国神社参拝により両国国交は国交回復して以来、初めての一時的な中断となった。小泉政権以降発足した安倍政権は就任直後すぐ中国を訪問し、20064月胡錦濤中国国家主席と「日中共同プレス発表」を公表し、これを契機として、両国の首脳による頻繁な訪問を展開してきた。

●円借款終了:

2000年に入り、中国は「オリンピック招致成功」、「WTO加盟」など国際社会への参与が頻繁になり、経済も急成長を遂げた。円借款の終了はこの中国の台頭する時代に決定した。中国は控えめな反発と批判をし、「見送り」の姿勢を取った。

⇒日中関係の悪化している時期に円借款が終了するのは中国政府にとって望ましい話ではない。中国は「見送り」の姿勢を取るのは当時の中国直面している国際情勢と関係があると考える。それは、まず2004年、東シナ海における中国の天然ガス田の開発をめぐる「資源」と「領土」の論争、それから2004 年再選を果たした陳水扁総統はこれまで提唱し続けてきた「台湾独立」政策を更に推し進めたことである。このような問題をうまく解決できるかどうかは、日本との関係がその鍵となる。

一方、近年中国国内では円借款に対して賛否両論が存在している。まず、財務省をはじめとする実施部門では、これまで円借款を自らの財政の一部として使い、今後とも継続すべきだと主張する。その一方、共産党中央のシンクタンク部門では、今後対等な中日関係を構築するため、円借款をはじめとする資金面の協力が慎重に受けいれるべきだと主張する。

●中国の政策決定システム:

胡錦濤政権は、早期段階で江沢民の派閥を排除し、独自の「親民」路線を展開した。また、「政治体制改革」を行い、これまで党が各官僚組織を監視するために設定した「党組」と「対口部」を廃止し、政治局活動報告を公表した。

⇒もちろん、中国は一党独裁の体制は変わらない以上、本格的な民主は実現できない。だが、中国における権威主義が従来の垂直化から水平化に変化し、政策決定に参与するアクターが拡大しつつある。

 

問題意識:

上記の分析をもとに、本稿は以下の問題意識を提示する。

党中央と官僚組織の意見の相違がいつ、どうやって生まれたのか。その影響要因は何であるのか。

党中央と官僚組織のこういう関係が今後の日中関係の政策決定にどんな影響をもたらすのか。

 

研究手法:

本研究は主に文献調査と関係者に対するインタビュー調査を中心に進めようと考え得る。

●分析枠組み:

上記の分析から分かるように、中国が外交政策の意思決定は従来と大きく変化した。とりわけ、政治改革に伴う官僚組織の役割の増強により、意思決定のプロセスを複雑させた。本稿は円借款終了を事例とし、「外交部」、「財政部」、「国家計画委員会」(国家発展改革委員会)[1]の三つの官僚機関と党中央の意見対立とお互いの認識のギャップを明らかにしたい。

 

仮説:

1、「外交は内政の延長線」というように、中国の外交政策の変更は国内の政治改革と関係がある。

2、円借款の存続という問題をめぐる官僚組織と党中央の意見の相違が、中国民主化発展のプロセスの中で必然な出来事である。

3、資金面での協力ではなく、技術協力が今後の日本対中協力の主軸になることは、中国の党中央が想定する対等で、互恵な中日関係という発展方向に相応しい。

 

 

二、フィールドワーク調査内容:

以上の修士論文の研究計画をもとに、今年の夏休みから私はインタビュー調査を中心とするフィールドワーク調査に積極的に取り組んだ。合わせて2回実施した。そして、第一回目は中国政府実務者を中心として展開し、その報告は以下の通りである。

 

1回目:

1、スケジュール

2009822日 中国北京外交部訪問 (資料収集)

2009825日 中国北京対外友好協会(資料収集)

2009827日 商務部訪問

200992日 中国共産党中央対外連絡部訪問

200994日 中国中共中央政策研究室 Wさんにインタビュー

 

2、内容報告:

●商務部訪問:

商務部とは:

中華人民共和国商務部は、中華人民共和国国務院に属する行政部門であり、経済貿易を管轄する。2003に元国家経済貿易委員会の貿易部門と元対外経済貿易合作部と合併して成立した。北京の東長安街2号に本舎がある。日本の旧通商産業省(経済産業省)にあたる役所である。

インタビュー対象:

商務部 陳寧処長

 

27日の朝、これまで中国の一番活動力で有名な商務部を訪ね、商務部の陳寧処長が対応してくださった。陳寧処長のご紹介を拝聴いたして、商務部の日常仕事の状況が分かった。とりわけ、日本対中ODAについて、円借款、技術支援、無償援助のそれぞれの中国側の対応省庁を紹介し、中国のこれまでの日本対中援助に対する態度を表明した。とりわけ、「対中ODAの資金調達は日本政府だけの力ではなく、一般国民の税金が大きな役割を果たしている。だから、中国政府として、日本の国民一人一人からのご協力を感謝している」と強調した。この話から、中国の政府レベルでは「国民税金」に対する認識が深まっている傾向が見える。この傾向があってはじめて、国内においても、政府が国民の意見を聞くようになり、政策作成のときに「民に役立つ」という意識もあるようになったのではないかと私が考える。

そして、「日本対中円借款の再開」という問題に対して、陳寧処長が日本側の対中円借款を打ち切りということに対して、中国政府が十分理解しているが、やはり現在中国の経済状況、また日中関係のこれからの考慮に基づいて、今後特定の分野において、再開する可能性について両国の政府レベルで検討し、コミュニケーションをとった方がいいのではないだろうか、と指摘した。

 

●中国共産党中央対外連絡部訪問

中国共産党中央対外連絡部とは:

中国共産党中央対外連絡部(略称:中連部)は、中国共産党の党外交を推進する直属機構であり、1951年設立された。王家瑞が現在部長を担当している。

インタビュー対象:

中国共産党中央対外連絡部 李軍研究室主任

 

9月2日の午後中連部の李軍研究室主任を訪問した。きれいな会議室、高級なお茶、また会議中に出したおいしいコーヒーなどで、「さすがに中国共産党」というイメージがあった。この前訪問に行った商務部のイメージと違い、李主任の話し方と質問に対する答え方もより慎重で、保守的であった。

この区別を説明するため、前訪問した商務部と比べながら、述べたいと思う。たとえば、商務部と中連部で、同じOECD加盟について質問した。商務部の陳寧処長はOECDが国際支援において、とても重要な役割を果たしている。中国は従来からOECDとの交流を重視している。ただ、中国の現段階の他国支援は、DACメンバー国と違い、まだ先進国が発展途上国を支援するレベルに達さなく、ただ発展途上国同士の助け合いのレベルにと止まっている。だから、現段階でまだOECD加盟しない。

一方、中連部の李主任が、我々共産党の意見として、OECDは「金持ちのクラブ」であり、発展途上国の中国として、まだOECDに加盟する資格がないという点を強調した。たとえ、今後OECD加盟しようとしても、せめて十数年の努力が必要と主張している。

以上のように、同じ問題に対して、同じ結論があったとしても、見方が違うということが中国政治の特徴として、今後さらに勉強する意義があると思う。

また、日本対中円借款の再開に対しても、中連部は環境問題が日中両国にとって、とても重要な問題で、円借款の再開は検討すべき方法の一つだと意見を表明した。先ほどの商務部の陳寧処長の「望ましい」の口調との違いから、共産党が中国の絶対なる「領導機関」としての立場が感じられる。

 

●中共中央政策研究室:

中共中央政策研究室とは:

中共中央政策研究室は中国共産党に直接付属し、共産党の主要シンクタンク組織として政策作成の面で大きな役割を果たしている。日常的に主に中央政治局のために政治理論を研究し、それに基づき政策を作り、更に政治文書の作成も担当する。

インタビュー対象:

中共中央政策研究室 W氏(本人からのお願いで、名前を省略させる)

 

94日昼W氏と会食し、食事中主に円借款の終了を巡る中国側の議論、また終了後の日中関係についてお話を聞いた。

            円借款評価

円借款がこれまで中国経済発展に対する貢献について、高く評価した。

(1)日本対中円借款は中国に巨大な資金を提供し、中国の経済発展を促進した。それに、初期の段階で先進な技術を持つ日系企業にとって大規模な投資のチャンスを提供した。

(2)対中円借款はこれまで日中友好のシンボルとして重要な役割を果たした。とりわけ日本政府が支援してきたプロジェクトがインフラ整備など大きいものが多く、国民の生活上昇に大きく貢献し、民間から大きく評価される。

(3)円借款提供する前にすでに援助プロジェクトを決定し、いわゆる「目的明確な資金」を提供することである。この事前計画という性格を持つ円借款が発展途上国にとって、とても効率の高い資金といえよう。

一方、円借款は中国だけではなく、日本にとっても大きな利益をもたらした。

(1)日本政府の対外資金協力の原則は、開発途上国からの要請があって初めて開始されるという「要請主義」である。外国政府から要請された案件リストの中で、どんな案件を選択し、または排除するかは日本政府の自由選択に委ねられている。対中円借款は同じ原則に適用され、円借款を提供することで日本自らの国益を反映する。例えば、第一次円借款はエネルギー関連を重点分野として設定し、また現在環境問題に特化し、いずれも間接的に日本自身に利益をもたらした。

(2)中国は経済発展のスピードが速く、円借款の返還率もほぼ100%である。中国のこのような高い返還率が日本にとって、円借款を供与するに伴い発生したリスクを軽減し、日本にとって良性な資金循環となった。

勿論、日本側の心配も中国では実際ないわけでもない。

例えば、円借款が地方政府に行くと、なかなかその具体的な使い道を把握しにくい現状である。特に現在汚職の問題が深刻化し、乱用される危険性はやはり存在している。

            円借款終了後の日中関係

W氏の分析によると、今後の日中関係は政治面で著しい成長が見られない一方、経済面での発展が大変期待できるのではなかろうかと言った。

まず政治関係について、以下の分析を行った。2005年円借款終了の時、日中間が東シナ海の油田開発、釣魚島(日本名:尖閣諸島)の帰属などをはじめ、両国の間で多くの問題を掲げている。これらの問題が2005年当時の中日関係に大変大きな悪影響をもたらした。一方、2006年安倍政権期、中日両国は政府レベルで積極的に接近し、とりわけ2006年中国北京で「中日共同声明」を発表されたのは両国がこれまで冷え込んだ政治関係を改善しようとする姿勢を示した典型例として取り上げてもよろしいであろう。このような政府レベルの接近の姿勢にもかかわらず、民間レベルではこれまで積み重ねた不信が存在し、更に拡大化する傾向も見え、政府が期待されるほどの友好の雰囲気が構築できるのはまだまだこの先のことであろう。そのため、民間レベルの関係改善が今後の中日両国政府の長期的な任務として取り組む必要があると指摘した。

一方、経済関係について、これまで円借款は規模が大きいため、輸出入貿易と並び、日中経済関係発展の促進に大きな役割を果たした。2005年円借款が終了すると日本側が決定し、中国側が残念と思いながら受け止めたが、今後の民主党政権期に再開することを期待している。そして、中国側自らの日中関係の分析にも基づき、W氏が「今後とりわけ環境問題に特化した円借款が再開することに決まっている」と強調した。

 

3、成果のまとめ:

今回のフィールドワークは共産党のシンクタンク二部門とODA実施一部門でインタビュー調査を行った。それぞれの利益の相違が存在するため、同じ日中関係とりわけ円借款に対して、違う意見を主張することが見える。そのため、今回のフィールドワークの成果も単なる日中関係についての中国側の見方を見出すだけではなく、中国の官僚組織の意見対立の傾向を発見することも挙げられると思う。

基本的に中国の公式見解では円借款の終了が日本側の一方的な決断で、中国側はそれについてとても残念だと思い、再開することを期待している。ただその理由として、以下の違いが見えてくる。商務部を代表とする実施機関では財政の一環性を保つため、円借款が別の形で再開すべきだ主張する一方、中共中央政策弁公室と中連部は外交政策の面、とりわけ日中友好の象徴として継続すべきだと主張する。また、東シナ海の油田開発や、尖閣諸島の主権問題など外交問題を抱えている両国にとって、円借款の終了も極めて敏感な問題となり、そのせいか、両国の間でうまくコミュニケーションが取れなかったことは大変残念だった。このようなことが今後起こらないよう、今後の日中関係を考える際、両国はもっと慎重で、誠実な態度を取るべきだろうとも指摘した。

 

 

第2回目 

1、スケジュール

20091123日 中国北京外国語大学 日本語学部 邵建国先生訪問

20091125日 中国社会科学院 日本語研究所 Gさん

 

2、内容報告

●中国北京外国語大学 日本語学部 

北京外国語大学とは:

1941、抗日軍政大学第三分校ロシア文学部を母体に延安外国語学校として設立し、現在でも外交官倍出する。

インタビュー対象:

北京外国大学 日本語学部 学部長 邵建国先生

 

①  円借款に対する日本側の主張――5つのアクター

邵先生は日本の対中円借の態度款を分析する際、5つのアクターを注目すべきだと指摘した。それは、政治家、官僚、財界、有識者と一般輿論である。それぞれの主張が違うため、日本国内でも大きな円借款の終了に対して長く議論した。それは森政権期から財務省をはじめ、各省庁がそれぞれ勉強会を開き、対中円借款見直しの議論を展開したことを見ると分かると思う。そして、この五つのファクターについて、政治家の中では中華脅威論を主張した人が多い一方、有識者や財界の中では継続すべきだという声が少なくない。その理由として、有識者は大学先生の方々が多く、今後の日中関係を発展するには円借款は依然としてかけてはならない柱として、重視すべきだと主張し、財界では、多くの企業が中国に進出するため、良好な日中関係が望んでいる。その中で、円借款は日中友好の重要なシンボルとしてこれまで日中友好関係構築するのに大きな役割を果たしたので、続くべきだと主張する。

②  20世紀以降の日米中関係

日本側の変化

邵建国先生の分析によると、小泉政権期と安倍政権期の対中関係が大きく異なった理由として、当時の日米中関係を分析すると分かると指摘する。まず、小泉政権期に、日米安全保障条約が更新されることなど、日米同盟が一層緊密化している傾向がある。また、小泉政権時代では、国内のことを優先的に考慮し、より国民の利益を反映できる政策を取り上げつつあった。靖国神社参拝もこのような背景のもとで発生したと言えよう。このような政策をとることで、小泉首相の国内での支持率を高め、いわゆる当時の日本にとって安定した国内外の環境を整った為、対中強硬の方針をとることができた。

一方、安倍政権期から国際情勢が大逆転し、元々中国は「テロとの戦い」に対し、強力な支援を申し入れた。中国は国連安保理決議1373に賛成し、有志連合によるアフガニスタンでの戦いを支援、タリバン駆逐後のアフガニスタンの復興に15000万米ドルの資金を提供し、米中両国は9-11事件直後、テロ対策について話し合いを始めたという背景もあり、2005年以降中国の経済発展のスピードが加速し、中国もまもなく世界最大の外貨準備高を持ち、世界最大の米国債保有国となった。こういう背景の元、米国は積極的に対中接近を図った。安倍政権と麻生政権にとって、このような不安定な国際状況もあり、更にこの両政権自体は小泉首相のように国内での高い支持率をもらえなかったこともあった。いわゆる国内外とも強くないので、中国と韓国に妥協せざるを得ないこととなった。

中国側の変化

中国にとって、2005年を境目、国際状況も大きく変化した。2005年以前、小泉政権の時、中日関係が靖国神社のことを始め、大きく冷え込んでしまった。2004年、東シナ海における中国の天然ガス田の開発をめぐる論争が、政治的にすでに緊張している日本と中国の関係をさらに緊張させた。とりわけ、議論されている油田は両国が領有権を主張し、大きな外交問題になっている釣魚島(日本名 尖閣列島)からそれほど遠くないところにあるため、政治的緊張さを複雑させる。それに、同年再選を果たした陳水扁総統はこれまで提唱し続けてきた「台湾独立」政策を更に推し進め、中国にとって深刻な状況となった。日米接近の背景もあり、上記のこの二つの問題をうまく解決出来るかどうかが、日本はその鍵を握っていると言っても過言ではなかろう。だから、当時中国は円借款終了に対しても「見送り」の姿勢を撮った。

一方、2007年以降、米国経済の衰弱化が始まり、また台湾では親中派の馬英九が大統領として選出された。これにより、中国が直面している国際状況は日本と大反対で一気に危機状態から安定状態へとシフトした。中国もこの時期から円借款再開のことを提起し始め、積極的な外交を展開し始めた。

以上述べたように、日中関係を考察する際、常にアメリカと言う要素を無視することができない。そして、アメリカと言う要素を視野に入れることにより、更に台湾をはじめとするアジア太平洋地域の諸問題が日中関係を影響するという事がわかるだろう。

 

●中国社会科学院 日本語研究所

中国社会科学院とは:

中国社会科学院は中華人民共和国の哲学及び社会科学研究の最高学術機構であり、総合的な研究センター。研究所31、研究センター45、研究者4200人を擁し、中国政府のシンクタンクとして大きな影響力をもつ。また世界80ヵ国のシンクタンク、高等研究機関200余りと日常的に交流する。国務院直属事業単位である。19775月、中国科学院の哲学社会科学学部を基礎として設立された。一部研究所は中国科学院時代から存在する。初代院長は胡喬木、第2代院長は馬洪、第3胡縄、第4李鉄映、現任院長は陳奎元である。

インタビュー対象:

社会科学院 G氏(本人からのお願いで、名前を省略させる)

 

Gさんは主に対中円借款における中国国内の意見対立と円借款終了後の日中関係の発展方向について紹介してくださった。

          円借款に対する国内の意見対立

まず、中国政府の公式見解として、まず前回の中連部の方のお話と同じように、基本的に中国の経済発展に大きく貢献したと指摘する。しかし、中国経済発展への促進度について、以下のように例えた:初期の段階で、日本の円借款は中国の経済発展にとって「雪中に炭を送る」のような役割を果たし、2000年以降は「錦上に花を添える」のような資金と位置づけられた。この変化の理由は、まず言うまでもなく中国自らの経済発展としてあげられる。また、もうひとつ重要なのは2000年以降日本の円借款供与方式は従来の5年間分一括供与から毎年供与という方式に変えた。この供与方式の変更により、中国は円借款を自らの経済発展の財政計画に組み込まれるという従来のやり方ができなくなり、中国にとっては「使いにくい」資金となった。異常の二つの理由に基づき、中国の円借款に対する公式見解が変わってきたとG氏は主張する。

しかし、実際中国政府内部での考え方は必ずしも公式見解その通りではないとも同氏が指摘する。財政部、商務部など実際円借款の実施を担当する部門では、これまで使ってきた円借款がなくなったことに対して、とても残念だと思う一方、共産党のシンクタンク部門ではやはり慎重な態度をとるべきではなかろうかとも主張する。その理由は、円借款を代表とする資金面の援助はやはり数字データとして実際に残り、とても客観的で説得力のあるもので、中国に対する影響力も他の技術支援などより遥かに大きい。だから、今後中国はこのような間接的な影響を避けるため、資金援助を慎重に受けるべきだと主張する。こういう官僚組織と共産党の意見の相違は、やはり胡錦涛政権期に積極的に「政治体制改革」を行い、これまで党が各官僚組織を監視するために設定した「党組」と「対口部」を廃止し、官僚組織を活性化させた結果の一つである。今後このような傾向が更に発展して行く可能性があり、中国の政治過程を分析する上で大きな意味を持つ。

          円借款終了以降の日中関係

円借款の終了は日中関係に大きな影響をもたらさなかった。ただ、両国は円借款終了のプロセスの中で、これまでの想定してきた日米中関係が大いに変化し、それは円借款終了後の両国関係の構築に大きな影響を与えた。それは具体例として、民主党政権にまた提起された「東アジア共同体」構築のことである。なぜかというと、日本は東アジア共同体を積極的に提起することで、アメリカを警告のシングルを出し、牽制しようと思う。一方、中国は日中関係が緩和している現在を利用し、東アジア共同体の構築の中で東南アジアと関係改善を図り、今後アジア地域でリーダシップをとることを準備する。この両国の考慮に基づき、近い将来日中関係は大きな進展を遂げないが、悪化する心配もおそらくないのではなかろうか。

 

3、成果のまとめ:

第二回のフィールドワークは主に中国の学術界の方々をメインにインタビュー調査を行った。前回の実務者のインタビューと比べ、今回は主にそのような結論が出された理由と背景について、詳しく話を聞くことができた。これはとても重要だと思う。

具体的にまとめると、まず、日中関係を観察する際、アメリカの役割を無視できない。

そして、円借款の終了は日中関係の今後の発展に大きな影響を起こらない。一方、そのプロセスの中で日中の考え方の変化が今後のそれぞれの外交理念に大きく影響を及ぼすことが否定できない。

 

 

おわりに

今回のフィールドワークは夏休みから2ヶ月かけて実施し、大きな成果を遂げたと考える。

まず、自分の研究について、実務者と学術者の先生の方々の生の意見を直接聞くことができて、自分のこれまで持っていた疑問を解決でき、また想定した仮説を検証できた。

そして、インタビューの方法についても、二回にわたるフィールドワークの中で習得できた。特に、如何にして相手の警戒心を解除し、また限られた時間の中で、内容の豊かなインタビューを行うかについて、いろいろと勉強できた。

今回のフィールドワークの実施により、自分の研究に大きく示唆をもたらした。今後また引き続き調査することを計画している。その成果を修士論文に反映していただきたいと思う。



[1] 従来は日本の対中ODAは、外交部にとってみれば日本の「友好と協力の象徴」であり、財政部にとっては重要な外貨調達減であり、国家計画委員会にとっては五カ年計画遂行のために必要な原資であった。(関山本引用)