2009年度森泰吉郎記念研究振興基金活動報告

 

政策・メディア研究科 修士課程2

柏國芳80825747)

 

 

 

研究テーマ:日本における新華僑社会について

一、研究概要と目的

 本研究は、グローバル化時代と共に日本において、近年増えている外国人移民が現地の住民とどのように共生しているか及び日本社会のあり方と変遷に関する研究である。焦点を当てるのは、1978年の改革開放開始以後、中国大陸より来日し、新華僑・華人となった人々は、異国である日本社会において、共生を如何に模索してきたかを考察することにある。具体的な事例としては、近年形成されつつある池袋にある新華僑コミュニティにおける現況の考察を通じ、どのように日本社会へ溶け込むのかを明らかにする。

国内人口が減少し、経済力維持の面等において海外からの移民を受け入れざるを得ない日本社会が、今後如何に外国人に対応すべきであるかの模索を試み、更に日本の対移民政策において政策提言を行うことを目的とする。

二、問題所在

1. グローバル化が進むと共に日本社会の変化

 米国、カナダなど欧米諸国においては、優秀な人材確保のため、移民政策を国家戦略と位置付け、行ってきた歴史がある。特に米国は、留学生などの受け入れを通じ、世界各国より優秀な人材を得ることに政策的重点を置くことで、多方面における国家規模での成長に大きく寄与してきた。それに対し、日本は長期に渡って移民の受け入れが極めて少なく、外国人の居留においても厳しい制限がなされてきた。

 しかし、グローバル化の進展に従い、外国人に対する規制や制限は、国際化進展の面においては障害となる。日本においても、戦略的な人材獲得の為外国人留学生の日本での就職を、排除的な姿勢から奨励へと移行しつつある。また、近年著しい少子高齢化要因より、労働力不足を補うための外国人労働者導入も、議論の焦点となっている。海外からの移民(特にアジア諸国からの移住者)問題は、経済力維持の面における国家戦略、及び移民増加が及ぼす日本社会への影響両面において、より一層大きな焦点として浮かび上がることになるであろう。本研究において、在日移民史において長い歴史を持つ華僑、特に「新華僑」の動向を検証することより、上記問題意識を考察していきたいと考える。

2.近年形成している池袋にある新華僑コミュニティについて

2005年12月末に、日本における外国人登録者数すなわち在留外国人人口は2,011,555人であった。これは日本の総人口の1.6%に相当する。国籍別にみると、朝鮮、韓国人が最も多く、次に中国人となっている。にもかかわらず、中国人の増加する勢いより見れば、近い将来、外国人の中で最多となる見込みがあると言われている。日本国内で在留中国人が最も多いのは東京都であり、さらに2001年には東京都の在留中国人人口が初めて在留朝鮮、韓国人口を超えた。

  以上の資料を踏まえ、日本社会に起きた外国人移民、住民に関する問題を研究する際に、東京都における中国人のニュ―カマー一ズ(いわゆる新華僑)団体の形成とそのコミュニティのあり方に焦点を置きたいと思う。この中には近年形成されつつある池袋にある新華僑社会がよく注目を浴びるであろう。なぜなら、以下の三点が形成の原因であると考えられている。@歴史的背景、A行政・民間を軸とした日本社会の支援、B来日中国人の自助努力。特に2007年以降、池袋で中華街設立の計画が立てられているが、現地住民の反対などの原因でいまだに実現できない状態である。さらに2009年9月26日に「池袋事件」が起きたため、日本社会で外国人移民や住民などの問題が再び取り上げられるようになった。

三、本研究新規性

本研究は、80年代後半から出現した新華僑(ニューカマーズ)が、それまで存在してきた華僑・華人社会に如何なる影響を与えてきたのかを考察した上で、移民政策の転換点にある日本社会における共生問題を検討するものである。事例として、近年形成されつつある池袋にある新華僑コミュニティや華人団体の結成の動向についての考察することより、ミクロな視点より全体像把握に努めたいと考えている。

四、活動報告

2009年7月   池袋、横浜における華僑コミュニティに現地住民への聞き取り調査

2009年8月   中国北京大学大学(華僑華人研究センター)へ資料収集を行い、

           専門家との意見交流

2009年10月  神戸における華僑コミュニティに現地住民への聞き取り調査

           国立国会図書館関西館への資料収集

2010年1月  長崎における華僑コミュニティに現地住民への聞き取り調査

五、成果と感想

 本研究の主要事例として池袋にある新華僑コミュニティの現状と動向を考察したいとしたが、他の華僑華人社会にも訪ね、現地の住民と意見交流した上、よりマクロ的な視点で考察することができた。北京大学華僑華人センターで、いろいろなよい意見とアドバイスをいただき、本研究には多くの示唆を与えた。

 森泰吉郎記念研究振興基金「研究育成費」のおかげで、2009年の研究活動は順調に行われた。有意義な結果がでたと思う。誠に有難うございました。