研究課題名:ベルリン市・都市計画構想における想起に関する研究

政策・メディア研究科 修士課程2年(HC)鹿久保

 

本年は修士課程最終年であり、前半に論文執筆に関わるフィールドワークを行い、その調査分析を行った。以下に提出した修士論文の要旨を述べる。

 

 

修士論文題目:

都市計画構想における” Erinnerung (想起) - Palast der Republik“跡地の“Berliner Stadtschloss”再建をめぐる議論の分析と評価 -

 

修士論文要旨

本研究の問題提起は、ベルリンにおける都市開発議論がなぜ東西統一後20年近く経った現在においても活発化されているのか、その原因の解明にある。都市ベルリンは、プロイセン公国の首都、ドイツ帝国の帝都、連合国占領時代、東ドイツの首都、統一ドイツの首都という様々な変遷を経てきた。ドイツ再統一の直後、首都機能が都市ボンからベルリンに移転した経緯のなかで、新たな首都としての都市計画が進められている。この都市計画は、技術面において大いなる議論が行われてきた。それと同時に精神論的議論が並行して続いている。その中核を成すのが、“Erinnerung”(想起)をめぐる議論である。都市開発研究の分野においては、この歴史的な視点、歴史によって培われる個々の記憶という視点があまり行われていない。近年ドイツで注目されている想起の文化という過去の意識を現在にどのように示すのかという議論がある現状から、再統一ドイツの首都ベルリンが向かう方向性の一端としてBerliner Stadtschloss(ベルリン宮殿)再開発議論を取り上げ、歴史により培われる人々の想起という点から問い直しをはかることが本研究の課題である。

研究手法としては、ドイツ連邦議会議事録、およびベルリンの壁が崩壊した1989年から現在(2009年)までの新聞、雑誌記事を対象とした再建議論に関するメディア分析、2008年夏に行った現地でのフィールドワーク調査を用いた。結果的に、それぞれの議論におけるErinnrerungの対象、Erinnerungの用いられる背景の考察から、再建されるBerliner Stadtschlossは旧西ドイツ、旧東ドイツとどちらかに偏った歴史の想起ではなく、未来への想起をもった共有的な想起を含んでいることが明らかとなる。

この再建問題をめぐる議論は、ベルリン市における都市再開発の一事例に留まることなく、共有的な想起の所在を明示することで、首都としてベルリンの発展、なおかつ、ヨーロッパを牽引する中心的な都市としての新たな方向性を示している。