2009年度 森基金研究報告
政策・メディア研究科 修士課程 菅原 圭

 

ユビキタス環境におけるカレンダーの活用方法の研究

 

研究課題

ユビキタス環境の実現においては、常時提示され続ける、常時ネットワークにつながり続けることを前提としたアプリケーションのデザインがより重要になってくる。カレンダーは日常的な生活支援コンテンツであるが、まだユビキタス環境を前提とした場合のデザインや活用はされていない。本研究では、そのような環境を前提とした場合のカレンダーのあり方を検討し、アプリケーションとしてのアイデアを実装し、評価する。

レポートの内容

本レポートは次の 2 つから成り立っている。

前者では、本研究の基盤となるカレンダーシステムの機能実装について述べた。後者では、動的に変化する日付の配置表現についての検討を行った。

 

周期性を排したカレンダーによる日常的な情報提示環境の提案と開発

概要
これまでのカレンダーは日付の配列が周期的で、フォントの大きさもすべて同じであり、それらを自分で意図的に操作することができなかった。これは紙ベースのカレンダーではもちろんだが、Webベースのカレンダーでも同様であった。


本研究では、日ごとの重要度は個人によって違うという発想のもと、日付の配置と大きさを操作できるカレンダーを提案・開発した。自分にとって重要な日は大きく表示し、似たような予定がある日はクラスタリングしておくといったような使い方を想定している。


機能
 機能としてはWebから情報取得を行いカレンダーに反映させ提示するものが主となる。取得する情報としては、天気・予定・イベント情報・写真・地図・株価などが取得できる。
この他には、日付を擬人化させて他のユーザーのカレンダーとコミュニケーションをとれるような仕組みが実現できる。このような機能を使用した結果として、思い出支援や発想支援、コミュニケーション支援につなげられるようなシステムを目指していく。。

操作方法
本提案はタッチパネルによる操作を前提にしたツールである。これはユーザにとって日常的な情報提示環境となることを目指したシステムにしたいからであり、そのためには直感的な操作性が高い入力インタフェースを用いるのが理想と考えたからである。

システム
システム概略は以下のようになっている。


日付の大きさと配置を変更できるベースシステム"beingCal"(注:のちに KaleidoCalendar と名称変更)をシステム基盤として、この上に必要な機能を追加していく。
 開発はプロトタイピングを Processing, 本実装を Adobe Flex で行っている。

課題
機能の開発に終始してしまい使い方の具体的提案や有用性の評価まで踏み込めなかった。これからは取得した情報をいかに有効に提示していくのか、その方法を人間の生活シナリオを踏まえた上で探っていくことが課題である。

 

カレンダー上で動的に変化する日付配置の表現

背景
一般的なカレンダーにおける日付配置は、曜日を軸として周期的に整理されたものであり、このデザインを前提としてうえでカレンダーの活用がなされてきた。しかし、今日のコンピュータやウェブ環境でのカレンダーの表現や活用を考えたとき、従来の画一的な日付配置の在り方を逸脱した、より多様な表現が可能になるのではないかと本研究では考えた。そうした日付配置の表現を模索することで、分かりやすい配置パターンの発見や、より便利なカレンダーの使い方を提案・実装することが目標である。

KaleidoCalendar
KaleidoCalendar とは、本研究を推進するために作成したカレンダーの基盤システムである。ここでのカレンダーとは月間カレンダーを指す。本システムでは、カレンダーの日付に対して位置と大きさの 2 つの自由度を設け、ユーザがそれらを任意に設定できるようにしてある。これにより、ユーザは各々の日付に対して大きさとその配置を自由に動かして、カレンダーの日付配置をデザインしなおすことができる。

コンピュータによって表現されたカレンダーはアナログのカレンダーとは異なり、そのデザインや構造を動的に再構築し続けることが可能である。動的なカレンダーでは、例えば日付にルールをプログラムすることで刻々とその構造を変化させることや、日付に重み付けを行うことによって、ユーザの生活に合わせた個別化されたカレンダーのデザインが可能になる。

カレンダーをネットワークとして捉える
カレンダーの構造を、曜日以外の軸を用いて整理したときに、どのような秩序が作れるのか、どのような日付群の表現が可能か模索した。構造を考える際に、考え方としてネットワーク構造を参考にした。カレンダーの日付をネットワークにみなして考えた。


カレンダーにおいては、ノードは日付、リンクは時間の流れに相当するものとして見なすことができると考える。このような捉え方をした場合、通常の日付配置のパターンはimg6のようになる。日付が順に結び付けられていく場合、これは Linear型のネットワークであると考えられる。img7では、日ごとに重みを設定し、最も重みが大きい日を中心に据え、重い順にリンクを結んでいった例を表現したものである。重みが同じ複数の日は、より日付が近い日にリンクするというルールを設定した。この場合、Rhyzome型のネットワークになると考えられる。img8は、1つの日付が多重のリンクを持つ場合に予定を表すラベルを使った2部グラフとして表現した例である。この他にも、似たような予定や周期的に出現する予定はクラスターとして考えることができる。



ネットワーク構造にはそれぞれ特徴があり、構造ごとに適した使い方や日付配置の仕方があるのではないかと考える。例えば、基本的な構造ではLinear型は日付の順序性を保つのに向く、Ring型はクラスターの表現に向く、Star型は中心を強調したい場合の表現に向く。構造ごとの性質や使われ方は今後さらに深く調べていく必要がある。

その他の並べ方
特にネットワーク構造には捉われずに、日付配置を表現した例を挙げる。



日付の順序は完全に保たれていなくてもよいが、無秩序にバラバラでも分かりにくい。何かしらの軸やメタファを持って、ほどよい日付のばらつき感を持った表現を模索している。ここに挙げた例ではカレンダーがどのように動的に振る舞うのかは考えていないが、日付の動的な振る舞い方がコンピュータ上でカレンダーを使う面白さにつながっていくと考える。

 

今後の課題

より具体的な使い方の検討が必要であり、有用性の評価においては実際に生活のなかで長期的に使ってみることが重要であると考える。



---2009年度 森基金研究報告---