2009年度 森泰吉郎記念研究振興基金報告書

景観生態区分を用いた時系列分析による過放牧に対する植林地の影響性評価

慶応義塾大学 政策・メディア研究科 修士課程

大場 章弘

概要

 本稿では,砂漠化の原因の最も大きな要因の1つ,過放牧の問題について取り上げる。過放牧の生じる地域では,放牧地や植林地,農地といった土地利用が主であり,これらの土地利用配分や運用を環境容量や経済的な観点から適切に設定されることが,過放牧解決にとって重要である。本テーマでは砂漠化対策の重要な施策の1つである植林政策によって放牧可能な土地面積が減少し,放牧密度の上昇を招くような影響があるのではないかという観点を取り扱っていた。しかし,実際に過放牧問題を解決するためには,放牧地・植林地の土地利用区分設定の話だけでなく,その利用方法である質的な観点,すなわち過放牧の根本である現地の放牧生活を改善する策を講じることが重要である。そこで本稿では,砂漠化防止の末端主体である村落を対象に,土地資源を面的に把握できる景観生態区分を作成し,その区分ごとに,放牧可能な家畜頭数を意味する牧養力と,家畜の放牧に対する向き不向きを意味する放牧適性を評価し,土地の特性に基づいた持続可能な放牧活動の方法を提示することを目的とする。

 

1.ホルチン砂地の過放牧に関する研究

 砂漠化の対策が急務である地域として,中国内蒙古自治区のホルチン砂地が挙げられる。この地域の砂漠化の原因としては過放牧の要素が強い。その対策方法としては政府の現在行っているプロジェクト,または今後ボトムアップ式のアプローチで対応していくためにはプロジェクトの持続性が欠かせないため,長期間のプロジェクト実施するためには適切な土地利用への転換を専門家の指導の元に実施していくことが重要であることを述べた。適切な放牧活動を行うためには,まず現在ある草資源を持続的に利用していくための方法を考えることが前提条件である。これについて山中(2008)は,対象地域に合わせた生産システムを理解することが欠かせないと述べており,以下ではまず現場の生産システムを捉えるところから始める。

ホルチン砂地の村落は,行政範囲が決まっているため,それぞれの放牧できる草原が限られている。農家はこれらの放牧地でヤギやウシを放牧するが,家畜頭数を増やすことで収入を増大させたいというインセンティブが先行し,草原を輪換して放牧を適正な容量に抑える余裕はほとんどない。それ故,このままでは牧畜生産を増やすことは困難で貧困からの脱皮も期待できない。この悪循環が過放牧によって砂漠化が止まらない最大の原因である。

この悪循環を断ち切り,砂漠化の根本的な解決を図るために,草原の過剰な利用を控えながら,利益も上げられるような方法を考えることが求められる(厳,2008)。そのために,実行性の高い末端行政区域である村落を対象として,土地資源の調査と,土地生産力の評価,それに応じた土地適性の評価を行い,既存の土地生産性を高める,または土地適性に合わせた家畜の配分を計画することが重要である。草原において土地生産力は,家畜が好んで食べる牧草の生産力とみなすことができる。また,土地の放牧利用に対する土地適性の評価を放牧適性評価と称することができる。よって,ホルチン砂地の過放牧を捉えるために,以下では牧草生産力と放牧適性評価について述べる。

 

(1)牧草生産力

草原では地形や水分条件によって植物が不均一に分布する。また人間の土地利用も牧草の空間分布を影響する。そのため,乾燥地・半乾燥地における牧草生産力の評価に関する多くの研究は衛星画像を使って牧草分布の実態や影響要因を考察している。主な事例として,秋山ほか(1985)のLandsat/MSSを用いた重回帰モデルによる牧草生産力の評価や,池田ほか(2001)のIKONOSマルチスペクトル画像を利用した植生指数による単回帰モデルでの評価が挙げられる。しかし,これらの事例は衛星画像の解像度,すなわち画像セルを単位とした評価にとどまっており,土地利用の改善を念頭に,操作しやすい空間単位への集約や行政単位への当てはめは行っていない。

草原の空間不均一性を考慮して,土地の牧草生産力を評価することはすなわち,牧草の種組成と環境要因との関連を解析することである(日本草地学会,2004)。そのために生物の分布データに対応した地形や土壌などの自然立地要因や人為要因をパッチで捉えることが望まれる。これはForman and Godron(1986)が定義した景観生態学的手法であり,乾燥地・半乾燥地の研究にも広く用いられている。景観生態学的手法では衛星画像などの面的データを使ってパッチ,すなわち評価区分を作成するが,客観的な結果を得るためには研究の対象範囲,実用的操作単位となる評価区分,使う元データの精度(最小セル)といった3つの要素を慎重に考慮することが重要である。

この景観生態学的手法の概念による区分を用いて牧草生産力を評価した事例として,塩見ほか(1991)は牧草量の空間分布と経時的変化から牧草量の評価モデルを作った。Xiangming et al.(1996)は,内蒙古自治区興安盟のTumugiを対象に主な植物群落ごとに1981年から1990年までの各年における最大牧草生産力を評価し,それぞれ降水量や気温,土壌条件との関係性を検証した。Bin et al.(2004)は中国内蒙古自治区全土を対象にNOAA衛星のAVHRRセンサを用いて牧草生産力を1kmメッシュの単位で計算し,各気候でわけた牧草区分と,過放牧度を5つにわけた放牧区分から牧草生産力の評価を行った。これらの3つの研究事例は対象地域が広域であり,評価区分や最小セルの設定が植物群落から1kmメッシュまであり,土地利用改善への実用性を考慮されたとはいえない。放牧草地の適切な利用を実現するためには,土地所有者である村落範囲において,過放牧の実態を反映した景観生態区分を捉え,各区分の特性に適した牧草生産力の評価が不可欠と考えられる。

 

(2)放牧適性評価

放牧適性評価とは,土地の放牧に対する向き不向きを判断するための評価を意味する。向き不向きを判断するには,対象スケールに応じた適切な指標の選定が必要である。そこで,まずスケールを広域,中域,狭域の3つにわけ,評価対象地を各スケールで乾燥地の放牧適性評価を行っている事例を挙げる。スケールが広域のものでは,Oba and Kotile(2001)Hassan and Gufu (2009b)が挙げられる。Oba and Kotile(2001)100km四方を対象に,放牧行動,土壌水分,気候から100km四方を対象に景観生態区分を作成し,区分ごとに牧草ポテンシャル指数,放牧圧力指数,経済的・伝統的放牧使用の割合,手入れの割合といった指標を用いて放牧適性を評価した。Hassan and Gufu(2009b)はケニアのカラレ山における放牧地50km四方を対象に土壌条件,植物の生物多様性,ライントランセクト法による家畜の行動といった3つの観点から景観生態区分を作成し,区分ごとに環境指標となる植物種の出現頻度を調査して放牧適性を評価した。

スケールが中域のものではOba and Kaitira2006),Hassan and Oba2009a)が挙げられる。Oba and Kaitira2006)は350kuを対象に,牧草種と牧草量の変化傾向をそれぞれ算出し,放牧適性を評価した。同時に,土地に対する家畜種ごとの放牧適性を評価することができ,同時に放牧適性という指標と各説明変数に相関があることを示した。Hassan and Oba2009a)は,10kuを対象に,土壌・植生・土地利用の3つの特徴から景観生態区分を作成し,区分ごとに嗜好性の高い牧草種の優占度と遷移度をそれぞれ算出し,これらから放牧適性を3種の家畜ごとにそれぞれ評価した。

スケールが狭域のものではMuhammad(2007)による評価であり,宮崎大学の実験地を対象に植物の特徴を放牧行動と植物の高さ層をライントランセクト法によって分けて景観生態区分を作成し,それぞれ牧草の消費量,消費率,乾物重,生体重,家畜密度をそれぞれ2003年から2004年にかけての変化を定量的に算出し,それぞれの算出結果から放牧適正を評価した。

以上から,既往研究で放牧適性の評価に使用した変数をスケールごとに整理する。まず,土壌条件は広域から狭域まで広く使用されている。50km四方スケールから狭域を対象とした研究では,植物種のような細かい調査を必要とする変数を利用している。また,狭域では定点での植物遷移や牧草の消費量など,時系列での調査が必要な項目が使用されている。そのため,村落スケールのような中域スケールでは,放牧適性評価には土壌条件や植物種を使い,より細かい調査を行う際には植物遷移や牧草消費量などを使うことが考えられる。

そこで,村落の過放牧を止めるために放牧形態を改善するといった目的を村落スケールで達成するためには何を変数として用いた放牧適性評価を行うべきなのかを具体的に考える。カナダのブリティッシュコロンビア州庁の報告書であるThe Health Safety and Reclamation Code for Mines and British Columbia(BC Ministy of Energy and Mines, 2003)では放牧適性評価で適性がある場所というのは,適切な植物種が使用され,植生の生産性が高く,植生が自立的に再生産する場所を指すと定義しており,これらを評価した上で,放牧地に対して家畜の配分決定を意味する放牧適正化を行うべきであるとまとめている。Gizikoff(2003)は実際にこの概念に沿って半乾燥地における放牧適性評価に必要な要素・変数を整理および検討し,土地の放牧利用における改善計画を行う方法をまとめている。したがって,目的を達成するための放牧適性評価を行うためには,放牧の適切な植物種,牧草生産性,牧草の自立的な再生産性を評価することがまず重要であると考えられる。

上述で中域スケールに使用された変数から考えると,適切な植物種とは,すなわち牧草種を指すことから,牧草の個体群の評価で対応できる。牧草生産性は,牧草量の評価で対応できる。放牧地における植生が自立的に再生産することは,Gizikoff2003)は上記の既往研究でも使用事例が多かった土壌特性を対応する変数として挙げたが,ここでは植生の維持であることに焦点を当てて考える。日本草地学会(2004)によれば,植生の維持は植生変動すなわち遷移を的確に把握して遷移の方向性や機構を明らかにすることで有意義な情報となると述べている。吉川ら(2003)は,降水量の年々変動によって植物生産の低下や植物生態系の衰退などの反応が半乾燥地では起こりやすく,大規模な牧畜業では降水量の変動に合わせた家畜頭数の調整が行われている,と述べている。

よって,このように牧草の種組成や量,遷移などの特性を一年単位で捉えるのは複雑であるため,これらを複数年でとらえることが重要と考えられる。そのため,牧草の優占度,牧草量,遷移度の変化傾向を総合的に評価することで放牧適性評価を行う。そこで,本研究では,牧草の優占度と牧草量,牧草の遷移度の変化度を総合する指標の作成を開発して適正化に必要な質的な視点を捉えられる放牧適性評価を行う。

 

1.3 本研究の目的と学術的な位置づけ

1.2から,村落の放牧活動の改善を提案するために行う牧草生産力と放牧適性の評価には,景観生態区分が重要である。景観生態区分の作成の実現可能性は,利用できる空間データの精度にゆだねられることが多い。これまでの研究事例は当時の衛星画像の解像度に制約されるものもあった。また,IKONOS衛星の撮影画像のような高解像度画像もあったが,高価なため広く応用することは困難である。そこに2006年から運用開始したALOS衛星(だいち)のPRISMセンサは解像度が2.5mと高く,地形データの生成に優れ,また,安価で入手できることから,上述した問題に対して解決の可能性をもっている。この可能性を具体化するためには,末端行政区域である村落を対象範囲に,景観生態学的手法を適用することは最も効果的であると考えた。そこで本研究は,次の4つを経て目的を達成する。@村落範囲においてALOS/PRISMの画像を用いて景観生態区分を作成することである。A現地調査データと合わせて牧草生産力の評価を行うことである。B放牧適性評価を行い,放牧適性の変化を捉えてその変化の原因を明らかにすることである。Cこれらの牧草生産力の評価と放牧適性評価の結果を踏まえて,それぞれの区分の特性に即した土地利用の適正化方法を提案することを本研究の目的とする。

 

2.村落の土地資源とその捉え方

 半乾燥地の村落の土地資源には,畑,樹林,草地,水源,砂丘などが一般に考えられるが,本研究では牧草生産力の評価を行うため,まずは草地に着目する。

2.1 牧草生産力と牧養力の評価

2.1.1 牧草生産力の評価

放牧草地において適切な再生産が維持されるための家畜収容力を指標化したものを牧養力と呼び,単位面積当たりの牧草量すなわち牧草生産力と,家畜の要求量から求められる。家畜による植物の単位面積当たり被食量(g/u)は,日本草地学会(2004)によると,次の式(1)のように表される。

(1)

 

ここで,採食量は家畜1頭が1日あたりに採食する植物の乾物重,放牧頭数はある面積における放牧している頭数,草地面積は牧草の被覆する面積,放牧日数はその土地の放牧開始から評価日までの放牧日数である。

 被食量と牧草量の関係は図3のように表現できる。f(t)は単位面積当たりの牧草量を示しており,tは暦の月を示す。(A)は採草地の場合で(B)は放牧地の場合を示し,その差分αが被食量を示す。植物は生長するため,北半球では図3のように牧草量が夏に向けて生長し,ピークとなる重量の曲線が描ける。放牧を行っている場所では生長途中で食されることから,(B)の曲線を描く。一方,採草地のように生長途中で家畜による被食作用がない場合は(A)の曲線を描く。例えば,同じ場所を(A)と(B)の場合で同条件下の利用を行った場合,理論上αが被食量となる。これを応用し,α(b)にし,これ以降の再生力を考慮しなければ,年度内残りの放牧期間をかけて(b)量の全牧草が被食されることになる。

また,式(1)草が十分に豊富な状態で,食べつくされないことを前提にしている。しかし,砂漠化地域ではこの前提は殆ど成り立たず,土地によっては食べつくされ,可能被食量がゼロになることが十分に考えられる。これらのことから式(1)において被食量すなわち,年内の可能な被食量を現存牧草量とみなすことができる。同時に放牧頭数を単位面積あたりの牧養力,すなわち単位面積当たり放牧可能な牧畜頭数と置き換えられる。以上から式(1)は次の式(2)に置き換えて考えられる。但し,放牧日数は年内残存の放牧日である。

  (2

1 採草地と放牧地の牧草量比較

2.1.2 放牧適性評価

1.2から,放牧適性は植物種の優占度,牧草量,遷移の各指標を経年変化で指標化することで評価する。

1)優占度の変化度

優占度は群落を構成する植物間の優劣を総合的に示す尺度であり,最もよく使用される算出式として嶋田・沼田(1965)によるSDR法があるが,時系列において相対的な比較をすることに適していない。そのため,山本ら(1995)による式(3)である拡張積算優占度(E-SDR)を用いて評価することが望ましい。

3

C’=被度数 H’=草高

比数とは,最大値を1としたときの割合であり,被度比数はある植物の被度/同区分における被度の最大値で算出される。草高比数も同様に算出される。しかし,E-SDRの取りうる値は0から1であることから,そのまま利用することは牧草種どうしの計算を行うなど,変化の度合いを算出することには向いていない。そのため,沼田(1966)による考え方を適用し,以下の算出式(4)を用いて各植物の優占度を算出することが求められる。

 (4

 これにより,牛・ヤギが好んで食べる植物種を牧草とし,牧草種ごとの(4)を各年度の各景観生態区分で総和してSDRnとし,次の式(5)で年次の変化度(C-SDR)を評価することが可能である。

  5

SDRn=評価年次のSDR

SDRn+1=評価次年次SDR

 

2)牧草量の変化度

牧草量の変化度を評価するにあたり,景観生態区分ごとの単位面積当たりの牧草乾物重(牧草量)を求めることで,1年単位で変化度HIC(Herbage Index Change)を式(6)で評価することが可能である。

 6

 

Hn=評価年次の牧草量(g/u)

Hn+1=評価次年次の牧草量(g/u)

 

3)遷移度の変化度

 Numata(1969)は草地植生の遷移が進行するにつれて植物種の生存年限が長くなり,逆に退行するにつれて植物種の生存年限が短くなり,1年生植物が多くなっていくことに着目し,草地植生の遷移h軸上の位置を指数化して,式(7)に示す遷移度(DS)を評価できる。

 (7

l=種の生存年限(生活型)

d=種の優占度(SDR

n=種数

v=植被率(100%を1

 これによって1年単位の変化を表す変化度(C-DS)を式(8)で評価できる。

  8

 

)放牧適性変化指数

 式(5),(6)(8)の結果を総和し,年間の放牧適性の変化度合を表す指数GSCI(Grazing Suitability Change Index)を作成する。ただし,Okuda and Numata(1975)によると草本種どうしの変遷では遷移するにつれて遷移度が高くなるが,最頻値を超えてヨモギ属などの木本種などが群落に混ざってくると,遷移度が下がる。しかし,木本種・半灌木種は基本的に家畜が嗜好性をもって食さないため,本研究における放牧適性では値をそのまま用いることが効果的であると考え,考慮しないこととした。

これにより,ある年度間において放牧利用の適正がどう変化したかを指数化することが可能となる。その為,正と負でその傾向がプラスかマイナスかを知ることができ,その値の大きさで変化の度合いが読み取れる。これによってn年と,n+1年またはn+2年あるいはそれ以上における2年間をiとすると次の式(9)が成り立つ。

GSCIi = C-SDRi + HCIi + C-DSi/ 3  (9)

式(9)は,牧草優占度,牧草量,遷移度の各変数の変量を正規化したものの総和であり,各変数の取りうる値は-1から1であるため,3で割ることでGSCI-1から1の値をとる。この式(9)を用いることで,各景観生態区分の放牧適性の変化を評価でき,かつその度合いを見ることができる。また,各指標の関係と式(9)を導く流れを表1にまとめる。

1 放牧適性評価の方法

2 放牧適性評価の解釈

 

 また,式(9)によって放牧適性評価の解釈の方法を表2に示す。放牧適性変化指数を決定する変数のうち牧草種が「多」い「少」ないの2通り,牧草量が「大」きい「小」さいの2通り,植生遷移の方向は「回復」傾向か「劣化」傾向にあるかの2通りあり,3変数の組み合わせは合計8通りある。これらの組み合わせを表2の基準で放牧適性の評価が適性有である「好適」,適性無である「不適」に分けた。また,その度合いは放牧適性変化指数で-1から+1の間とすると,表2のような関係になる。牧草種優占度の傾向が「多」く,牧草量の傾向が「大」きく,植生遷移の方向が「回復」方向であって,かつそれぞれの度合が最も大きかった場合,放牧適性変化指数は+1をとる。逆に,牧草種優占度の傾向が「少」なく,牧草量の傾向が「小」さく,植生遷移の方向が「劣化」方向であって,かつそれぞれの度合が最も大きかった場合,放牧適性変化指数は-1をとる。

 

2.1.3 問題の所在

牧草生産力および放牧適性の評価のみに着目した既存の研究は,式(2),(9)を利用することで評価できる。しかし,土地利用計画での運用を念頭においた場合,牧草生産力の評価では式(2)の左辺である単位面積当たり可能放牧頭数を評価区分で集約して評価することが求められる。また,牧草生産力と放牧適性の評価で共通する事項として,評価区分に関しては,次の点を考慮することが不可欠となる。

まず,調査地点における空間と時間の代表性である。式(2),(6)の変数である現存牧草量は,現地調査で得た植生データを用いることができるが,この調査地点を決定する際,現存牧草量がどこまでの空間を代表するかの問題がある。現存牧草量が同質の空間において調査を行うことは不可欠であり,この空間を調査の事前に評価区分として作成し,区分を代表する各地点で調査することが要求される。

次に,評価区分に関わらず調査の時期を考慮することが求められる。図3における(a),(b)がt月時の現存牧草量,すなわち年間最大牧草生産力である。これを式(2)に適用すると,単位面積当たりの牧養力を計算することができる。そこで,調査を行う際には,年間最大牧草生産力となる時期を選ぶことが求められる。

最後に,牧草生産力における放牧日数である。ある土地における年間の放牧日数は,その土地によってバラつきがある。集落から近く,一年中放牧している土地もあれば,集落から遠く離れ,または柵を設置し,年間で半年しか放牧しない土地もある。式(2)の変数のうち放牧日数については,この放牧形態を区分して値とすることが求められる。

 

2.1.4 景観生態学的アプローチ

2.1.3で挙げた評価区分の問題は,次に述べる景観生態区分のアプローチで対応できる。その流れを図2に示す。景観生態区分の作成方法としてZonneveld (1995)は土地条件の諸地図をオーバーレイする方法を述べており,Turner et al.(2001)は,区分を構成する土地条件として気象,地形などの非生物要因,自然植生などの生物的相互作用,人間の土地利用を列挙しており,対象地域の特徴に応じて必要な諸地図をオーバーレイすることで,景観生態区分図を作成する。

景観生態区分図を作成する際,対象範囲の設定によって必要なデータが異なる。本研究の対象とする村落スケールの場合,非生物的要因や生物間要因,人間の土地利用といった要素を諸地図化するには,解像度の高い衛星画像が要求される。ALOS衛星のPRISMセンサで撮影された画像は進行方向に対して前方視,直方視,後方視の3方向の同時撮影を行うことで細かな地形データを作成することが可能な他,2.5mと解像度の高い画像を提供するため,撮影時期が調査時と一致していれば,求められる景観の構成要素を判読し,抽出することが可能である。

以上の方法で作成された評価区分ごとの牧草生産力の合計は対象地域全体の牧養力となる。各景観生態区分の牧養力の評価は各区分の,樹木以外の植生である草地の土地被覆(以後,草地被覆)ごとに式(2)を適用し合計を取る必要がある。つまり,以下の式(10)となる。

 (10)

ここで,草地被覆の面積は2.5m解像度のALOS/PRISM画像に対する土地被覆区分から集計することができる。

 また,景観生態区分ごとの牧養力評価,放牧適性評価は,それぞれ土地の放牧に対する量的,質的な基礎評価に位置づけられる。牧養力評価はどこで何頭飼うことができるのか,放牧適性評価は放牧に対して適した場所・適さない場所はどこなのかを示す。景観生態区分は,それらを見える化するための方法である。これらの評価結果は,現在ある牧草を持続的に利用し続けられるために,現在の放牧生活を適正化するための定量的な根拠として位置づけられる。

 

2.2 データの準備

1)土地被覆分類

2.1.4の考え方に沿って式(10)の草地面積を求めるために,2006814日付のALOS衛星PRISM直下視撮影画像を用いて土地被覆分類を行った。土地被覆分類の教師データは2006731日から812日までのフィールドワークで取得したものを採用した。対象となる都西村では砂地,塩性地,潅木林,ステップ,湿性草地の組み合わせによって土地被覆が構成される。データ処理では砂地,塩性地,灌木林,ステップ,湿性草地の5つを分類した。しかし,湿性草地は厳密には農地と湿性草地という2つの被覆から構成されるため,農地の生産力が過剰評価になってしまう。そのため,上記に農地を加えた6つの区分で土地被覆分類図を作成した。

砂地は土壌が砂で構成される被覆であり,塩性地はアルカリ性の土壌の被覆である。潅木林は灌木・半潅木類の植物の被覆である。草密地は夏季に人や家畜に触れらない,草高の大きい草本の被覆である。農地はトウモロコシやソバなど,農作物の被覆である。雑草地は草密地に比べ,砂地の草地や放牧地など草高の低い草本の被覆である。これらの特徴から,農地と雑草地と草密地を草地被覆として式(10)に面積を適用した。

2 景観生態区分図と全体の流れの関係

2)現地調査

景観生態区分・DEM(地形モデル)・土地被覆分類の図面作成,放牧適性変化指数・牧養力評価に必要なデータを現地調査から取得した。現地調査データは,2006728日から812日,2007831日から93日,200897日から910日の期間の調査で得たものを用いた。2006年の調査時では事前にASTER衛星のVNIRセンサによる2004911日撮影画像を用いて草地,樹林地,農地などの地域における代表的な土地被覆をカバーするように調査地点を計画し,作業量を見積もった。2007年以降は作成した景観生態区分ごとに2006年で調査した地点を代表点とし,調査を行った。

このうち植生調査では図3に示すような1uのコドラートを設置し,そこの植物種,植生の階層構成と構成の割合である被度・群度,各植物種の草高を調査した。また,植物種ごとに地上部を切り取り,袋に詰めた状態で生体重を計測し,その後乾燥させて乾燥重量を計測し,景観生態区分ごとの現存量に利用した。さらに,植生調査の結果を集計する際に必要な牧草種を,調査時に出現した全植物のうち陳・賈(2002)を参照して牧草種とそれ以外に分類した。また,同書を用いて植物の生存年限である生活型を植物種ごとに調査した。

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3 現地調査で使用したコドラート

地形調査ではマジェラン社製GPSProMark)を使用して植生調査区域周辺最大200m四方範囲にわたって地形を測定した。衛星画像を見ながら村落を縦に区切るように歩いて調査を行うライントランセクト法で,地形の変化がある地点でGPSを用いて緯度・経度・標高を記録した。ALOS/PRISMによる地形計測の精度が5m前後である(田殿ら,2007)点を考慮して,本調査で利用したGPSの測定値を地上基準点として使用するのは妥当であると考えた。村落内で合計268地点のプロットをとった。

地上参照のうち,土地被覆調査では地形調査の地点と同じ地点で調査を行った。調査の内容は,調査地点の土地被覆が砂地,塩性地,潅木林,ステップ,湿性草地,農地の6つの被覆のうち,どの被覆であるかを記入した。また,同地点で景観生態区分の特徴である区分要素を確認した。

放牧調査では,衛星画像を参照しながら現地住民へのヒアリングを元に集落からのアクセスとして,どれくらいの時間がかかるのかを調査した。また,同時に年間の放牧日数をヒアリングし,一年でどれくらいの日数で放牧がおこなわれているのかを調査した。

これらの調査項目と本研究で使用した指標・モデルの関係を表3にまとめた。上述でまとめた調査項目を大項目(大分類)と小項目(詳細分類)に分け,それぞれ調査した結果をどのモデルまたは指標に使用したかをで表現した。

 

3 調査項目と本研究で使用した指標・モデルの関係

3)採食量

(10)における家畜の採食量については,日本草地学会(2004)よりヤギ1頭あたりの要求量すなわち1日の食量を1,600gとして採用した。

3.景観生態区分図の作成

3.1 対象地域の地理的特徴

 本研究の対象地域である内蒙古自治区ホルチン左翼後旗阿古拉鎮都西村はN43°17′〜 N43°21′,E122°42′〜 E122°47′に位置し(図4),行政面積38.9ku,人口255人,世帯数54戸である。村の南部に都西湖という東西2,800m,南北1,000mの湖がある。集落は湖の北岸,背後に高さ30mの砂丘が東西に横たわる。湖水がアルカリ性のため,水源としての利用はない。また,近郊の大きな都市として通遼市まで約70km,カンジカ市まで約80kmの位置にあり,普段買うことのできない大きな買い物は数時間かけてこれらの都市まで移動するが,若者や仕事をもつ人だけで,それ以外は滅多に移動しない。

200711月に行った現地幹部へのインタビューによると,村の総面積は約3000haであり,内訳は放牧地約1900ha,畑約190ha,樹林地約670ha,採草地約50ha,湖約400haとなっており,土地の半分以上を放牧に利用している。放牧地は村の背後にある砂丘あるいは湖畔の低地を利用する。村の北部にホルチンの代表的原景観の1つとみられる灌木林が広がり,ニレ,アンズ,ヤナギの灌木や亜高木が点在する。林間は豆畑に開拓されていることが多い。

収入形態は農業が4割,牧畜が6割を占める。年間一人あたり総所得は5000元,純収入は1,000元で,村の含まれるホルチン左翼後旗の中でもとくに貧しい。村全体ではウシ800頭,ヤギ3,000頭を保有している。

4 対象地域

5 都西村の景観生態システム

3.2 景観生態区分の作成

厳(2008)によると,ホルチン地域の自然条件は土壌の水分条件によって左右され,さらに土壌水分は地形と密接に関係しているが,一方で人間の土地利用は基本的には土地の自然生産力によって形成され,集落からのアクセスによって利用頻度が決められる。これらの要因が相互に影響して土地景観が構成される。

都西村は図7に示す通り,水源−村落−低地(田・畑)−放牧地(固定砂丘・移動砂丘)によって土地の景観が構成されていることから,景観生態区分は土壌水分と密接に関係する地形区分,土地利用を形成する自然生産力,放牧強度を決定するアクセシビリティという3つの条件で行った。

1)地形区分

地形データはALOS/PRISMの進行方向に対する前方視・直下視・後方視の同時撮影画像からDEMDigital Elevation Model,標高モデル)を作って対応した。その際,2006731日から812日に行ったフィールド調査の位置データを地上基準点とした。基本手順はALOS/PRISM3方向視画像について,それぞれ同じ点を地上基準点として採用し,地形データを生成した。

生成した地形データに対し,現地調査の結果を参考にALOS/PRISMの画像を目視しながら対象地域の地形特徴を砂丘面,砂丘間低地,湖畔中位面,湖畔低位面の4つに区分した。

2)自然生産力

対象地域の自然生産力は放牧地や採草地,農地などの土地利用によって表れる。これについて,2006814日付のALOS/PRISM直下視データを用いて画素の濃淡分類を行い,これを基準にして模様等を目視によって分類し,土地利用区分図を作成した。  

ALOS/PRISMはパンクロ画像のため,現地の植生を白黒の濃度で表現している。この特性を活かして草地という区分だけでなく草高や密度によって異なる放牧地と採草地を区分した。以上より,採草地,放牧地,農地,樹林地,その他の5つに区分した。その他は居住地や植林地など,牧畜に利用されない区域を表す。

3)アクセシビリティ

 村人の生活行動は大きく居住,耕作,採草,放牧,採薪に区分でき,水源・住居を中心に展開されている。生産性が高く,活動頻度が高く,労働強度の大きいものは集落の近くにある。集落から離れ,標高が上がるにつれ,家畜の放牧頻度や畑の作物も耐乾性の強い豆などへ変化し,潅木などが増大してくる。このようにして,土地条件と人間活動によって土地景観が形成されているため,対象地域の土地を集落からの距離によって近隣部,中距離部,遠距離部の3つに区分した。集落から出発して近隣部は約徒歩30分以内で到着し且つ毎日の活動の拠点となる箇所,遠距離部は徒歩で1時間半以上かかり且つ年間の利用がまばらな箇所を区分し,その間を中距離部とした。

 

4 景観生態区分と各区分の関係(上)と凡例(下)

テキスト ボックス: 【地形区分】1:砂丘面,2:砂丘間低地,3:湖畔中位面,4:湖畔低位面.
【土地利用形態】1:-採草地,2:放牧地,3:農地,4:灌木林,5:植林地.
【アクシビリティ】1:近隣部,2:中距離部,3:遠距離部.

4)オーバーレイによる景観生態区分の作成

地形区分と土地利用区分とアクセシビリティの3区分をオーバーレイし,作業効率を重視して,その境界を目視でトレースした。その際,外枠の境界線は村落行政区界に合わせた。景観生態区分名では「−潅木林」とした区分に対し,土地利用形態が採草地となる箇所については,景観上は潅木林であるが,下草を採草し,家畜に食べさせていることから,当該利用形態として区分した。

以上1)から4)に示した方法に沿って作成した4つの地形区分と5つの土地利用,及び3つのアクセシビリティの区分を重ね合わせた結果,都西村の景観生態区分は表4,図6に示す23の区分になった。また,表4の凡例は表4下に示すとおりである。

6 都西村の景観生態区分


4.牧養力と放牧適性評価

4.1 景観生態区分ごとの牧養力評価

2.1.4の分析方法で,各区分における牧養力を評価した。実際の牧畜において,年内残りの放牧日数を全て放牧地,採草地で放牧に使っているため,式(3)において放牧日数を183日として計算を行う。しかし,輪牧を行うことで牧養力がどれほど増加するか仮想的に見てみることも重要である。そこで,仮に輪牧を行った場合のβ1パターンを輪牧有,現状の放牧形態である輪牧を行わないβ2パターンを輪牧無として,2つのパターンに分けて牧養力を評価した。輪牧を行う際は,年内残りの日数を半分に分けて輪牧を行うことが現実的であり,このことから仮として輪牧が可能な景観生態区分の放牧日数を90日とした。この輪牧有で90日とした区分を選択する条件として,アクセシビリティが近隣部で土地利用は放牧地の景観生態区分,すなわち,放牧圧力が高く,単位面積当たりの牧草生産力が低い区分とした。

しかし,90日に放牧日数を減らした分,残りの90日は別途,放牧に必要な牧草量が必要になる。そこで,放牧日数を0日とした区分と植林地の景観生態区分を残り90日分の放牧で補間的に放牧する区分(以後,輪牧有補間区分)とし,牧養力の評価を行った。

以上を区別し,輪牧有補間区分を表7下に,それ以外を表7上にまとめた。また,考察に必要のない景観生態区分,すなわち居住地は表から除いた。

表中,優占植物は集計された各景観生態 区分で優占する植物の種類である。また,各景観生態区分には草地被覆の面積が集計されている。全植生乾物重の平均,牧草乾物重の平均は原単位を用いて各景観生態区分における草本被覆の面積に対して計算した。以上の単位面積の牧草生産量と放牧形態を組み合わせて,それぞれの利用条件下において,式(10)からヤギの放牧可能放牧頭数を算出し,主な土地利用形態ごとの合計を表7上の最後の行にまとめた。また,輪牧有補間区分の合計を表5左下,輪牧有の牧養力の差分を表5右下にまとめた。

 

4.2 村全体の過放牧の実態

4.1で述べたとおり,村の現在の家畜放牧頭数はウシ800頭,ヤギ3,000頭である。通常,ウシはヤギの約5倍の植生を摂取すると言われていることから,ヤギ7,000頭分を所有していることになる。

しかし,表7に示しているように村全体の輪牧無時における牧養力は放牧地と採草地の合計として5753頭しかない。一方で,農地の牧養力が5306頭ある。つまり,放牧時以外に多くの不足分を農作物から補っていることと,放牧地と採草地への放牧圧力が高いことがわかった。また,2.3.3の景観生態区分の条件で輪牧を行えば牧養力は7204頭あり,現在の7000頭分を養える。但し,輪牧を行うためには残りの放牧日数90日分を同等の牧草生産力で補わなければならない。そこで,輪牧有補間区分の牧養力を評価したところ,1704頭あり,輪牧有の場合に必要な牧養力の1451頭(輪牧有から輪牧無の差分)を253頭上回る結果となった。よって仮に輪牧を行ったとしても土地の放牧に対する容量は限界に近い程,現状は過放牧であることが定量的に示された。過放牧の結果は放牧形態に依存するため,輪牧を行わない現状の土地の牧草生産力が持続不可能であることを示している。

牧草の生産力は当該年度の自然・社会要素などの外部要因,あるいは調査時期に左右されやすい。この分析結果が調査年度の個性なのかそれとも複数年の傾向をしめすものになるかについてそれぞれ降水量,家畜頭数の統計資料を用いて考察する。これらのデータはそれぞれ対象地域に最も近い,通遼気象局カンジカ鎮点の降水量観測データと,対象地域を含むアグラ鎮の牧業基本調査の家畜頭数データを利用した。

7は年間の降水量を1960年から2000年まで10年ごとに,2000年から2007年までを1年ごとに平均値をとり,月別のデータをグラフにまとめたものである。グラフから読み取れるように,1960年から1990年では7月に,2000年以降は8月に降水量のピークを迎え,9月と10月には乾季を迎える。共通点として,7月までに降水量がピークに達していることがわかる。すなわち,8月が牧草生産力の最大であり,9月以降は植物の再生が見込めないことが読みとれる。本研究は8月に調査を行っており,取得した生物量は最大生物量であったことが裏付けられた。
 また,図8は村を含む上位行政地区の家畜頭数のデータであるが,大畜はウシ,ロバ,ウマ,ラバ,ラクダの合計であり,小畜はヒツジ,ヤギの合計を指す。どちらも2000年以降例外なく増大している。特に小畜は2000年度の7倍以上に増大しており,本論文で算出された家畜収容力,および明らかにされた村の過放牧状態は,妥当であると言え,同時にこの結果は2000年以降,慢性的な傾向であると考えられる。

 

5 景観生態区分別の牧養力評価



7 降水量の変化

8 家畜の推移

 

5.植生遷移からみた半乾燥地草原の放牧適性の変化と原因の評価

5.1 景観生態区分ごとの放牧適性変化指数の算出結果

2.1.2の方法に従って,景観生態区分ごとに2006年,2007年,2008年の優占植物とそのSDR(%),バイオマス量,遷移度をまとめ,式(9)による評価を2006年から2007年,2007年から2008年,2006年から2008年の変化として表6にまとめた。バイオマス量については,参考として牧草量と牧草以外の植生量の総量である全植生量を掲載した。また,2.1.2 4)の方法に従って,GSCI2006年から2008年の値を算出し,算出結果を6区分し,アクセシビリティとの関係を図9,地形との関係を細かく見るためにDEMと重ね合わせ,図10とした。最後に,牧養力との関係を明らかにするために牧養力の結果をオーバーレイし,図11とした。

6 景観生態区分ごとの各指標とGSCI

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス:  
図9 景観生態区分ごとの放牧適性変化指数とアクセシビリティ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス:  
図10 景観生態区分ごとの放牧適性変化指数とDEM

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス:  
図11 景観生態区分ごとの放牧適性変化指数と牧養力


5.2 牧養力と放牧適性変化指数の関係

 表5で牧養力が高い区分と低い区分として挙げた区分を放牧適性変化指数の結果にオーバーレイしたものを図11とした。牧養力の低いとされる4つの区分のうち西部砂丘以外の3つの区分は放牧適性が不適変化であり,表5では牧養力の低い区分はアクセシビリティが近距離または地形が砂丘面である,土地利用が放牧地の景観生態区分となっている。このうち,アクセシビリティが近距離の放牧地という条件は放牧適性変化指数も同様に低いため,放牧利用に向かない場所ということができる。しかし,地形が砂丘面の土地利用が放牧地である区分は放牧適性が好適変化の傾向が大きかった西部砂丘と東部砂丘があることから,地形面からみて放牧適性変化指数と牧養力に関係があるとは言えない。

 牧養力の高いとされる区分は地形区分が湖畔面またはアクセシビリティが中距離部かつ地形区分が砂丘間低地である,土地利用が採草地の区分を条件とした。図17から,アクセシビリティが中距離部かつ地形区分が砂丘間低地の土地利用が放牧地という条件は放牧適性変化指数が高いが,地形区分が湖畔面という条件は真逆の結果であった。

 以上から,放牧適性変化指数と牧養力は,景観生態区分の構成条件が一部で一致するが,全て一致はしないため,放牧適性変化指数と牧養力に関係はないと言える。したがって,牧養力の高い場所が必ずしも放牧適性変化指数が高くなるとは言えず,適性のある場所の中にも牧養力の高い場所と低い場所があり,適性のない場所の中にも牧養力の高い場所と低い場所があることがわかる。

 

5.3 植生遷移からみた半乾燥地草原の放牧適性の変化と原因の評価のまとめ

本節では,放牧適性変化の傾向を定量的に明らかにし,その原因を景観生態区分とDEMを用いて考察した。その結果,村の放牧地・採草地問わず,土地の放牧利用が不適性の傾向にあること,その原因は集落との相対的な地形差が低く,かつアクセシビリティが近い場所での放牧利用頻度が高いことを代表とする,放牧地の不均質な利用であることが明らかになった。また,放牧適性が好適な場所にも牧養力の高低があり,不適の場所も同様に牧養力の高低があることがわかり,次節ではこれらの結果を踏まえて土地利用の改善について提案する。本節からは後述する地形条件と輪牧柵の条件について有益な情報を出すことが可能である。

 

6.土地利用の適正化に向けた検討

6.1 土地利用転換の条件設定

本研究では牧養力と放牧適性変化および原因の評価を行い,放牧の移動距離が短くて地形差の少ない集落周辺に集中した放牧形態が今後,持続的に放牧を行えなくなる危険性を示唆した。本章では,これまでの本研究で明らかにした景観生態区分ごとの牧養力と放牧適性変化の特徴を生かして,放牧形態を改善し,土地利用の適正化に向けた検討方法を提案する。具体的には,土地利用転換の検討を行う方法をとる。土地利用転換とは,ある区分における土地利用形態を別の土地利用形態に変えることである。

 まず,土地利用転換を提案するための条件を整理する。まず,表7では,景観生態区分ごとの牧養力を定量的に評価した。この結果では,容量が限界に近いが,輪牧を行うことで村の7000頭分のヤギを収容できる可能性を示唆した。次に,表8では牧草の変化に着目して,放牧適性が経年でどう変化するかを変化の傾向を分析・観察した。その結果,放牧適性が好適変化であった区分の特徴はアクセシビリティと集落からの相対標高に依存することがわかった。

以上の結果より,土地利用の転換に必要な条件のうち本研究の結果を用いて提案が可能な条件は@牧養力の合計が7000頭を超えるように輪牧区分を設定することA放牧適性の変化の傾向に合わせた土地利用に転換すること,といった双方を満たすことである。

段取りとしてはまず,5.で放牧適性が好適変化であった景観生態区分を使ってAの条件を満たすことを最初に行った。Aで指す放牧適性変化に合わせた土地利用とは,放牧適性変化が好適変化を示す土地は放牧,そうでない土地はそれ以外の土地利用とすることである。それ以外の土地利用については,まず,現実性を考えて,すでに植林が実施されている植林地,農地は現状のままとした。次に,放牧適性変化が不適傾向でかつ牧養力が低く,人為的な土地の回復を図ることが必要と考えられる区分は植林地とした。これらの条件に含まれない土地はすべて採草地とした。

 次に,放牧適性が好適変化であった区分で輪牧が可能になるように,上述で放牧地とした区分のうち輪牧区分を年間の上半期と下半期の2つに分けた。その際の条件としては,次の2つがある。1つ目は,牧養力が輪牧時の合計で7000頭を上回ること,具体的には7000頭から採草地分4662頭分を差し引いた2338頭を輪牧区分の合計が上回ることである。2つ目は輪牧をした場合と輪牧をしなかった場合の牧養力の差分が,残りの輪牧区分の輪牧時牧養力の合計値を上回ることである。これは4.2.1で述べた際と同様,下半期の放牧中は上半期が禁牧であることを考慮して,放牧前後の90日間を同等の牧草生産力で補うためである。

 

6.2 砂丘面の放牧地と湖畔面の柵管理

 以上6.1.1で挙げた条件を満たし,導き出された土地利用改善の提案は図12と表7に示すとおりである。この際,提案の現実性を考慮して転換後の土地利用として,表7では3つであった土地利用に植林地を加え,4つとした。その結果,表7と比較して,表9の牧養力合計において輪牧をした場合が約150頭減少,輪牧をしなかった場合は約80頭増加,採草地においては約400頭増加,輪牧した場合の補間に位置付けられる区分の合計は約420頭減少した。要するに,現在の村の所有家畜頭数ヤギ7000頭分で放牧を行った場合,牧養力の観点だけで考えれば,現状の過放牧は悪化しないものの,4.2.1で考察した結果より容量は限界に近い提案となる。しかし,放牧適性が好適変化の傾向にある区分,すなわち砂丘面(地形区分が砂丘面と砂丘間低地)のみが輪牧に利用され,不適変化の傾向である区分,すなわち湖畔面(地形区分が湖畔低位面と湖畔中位面)は全て放牧地以外の土地利用として柵を設ける管理(採草地,植林地,農地)がなされるため,放牧形態の持続性は高いと考えられる。そのため,本提案を忠実に実行すれば,現在の過放牧状態を防ぎ,持続可能な放牧形態へ改善することが可能である。

 ただし,放牧頻度に関しては注意を払うことが重要である。図12で輪牧区分とした景観生態区分は,図からうかがえるように特に牧養力が高いわけではなく,上述のとおり容量全体としても限界に近い。そのため,放牧する際には村内で放牧の分散を義務づけ,連日同じ景観生態区分で村中の家畜を放牧しないように条例化するべきである。また,南東部雑草地の景観生態区分は,牧養力が最も高いにも関わらず放牧適性は不適変化であり,5.2で述べたように利用頻度を高めることがさらに放牧適性を不適変化させる可能性がある。そのため,採草地についても同じ場所での過剰な摂取や採草後にヤギを大量放牧させることのないよう,しっかりと管理する必要がある。

 

7 土地利用の改善提案時における牧養力


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス:  
図12 土地利用の改善提案

6.3 土地利用の適正化に向けた検討のまとめ

本章では,土地利用の適正化に向けた検討として,景観生態区分を用いた具体的な土地利用の転換方法と,土地利用の方針を述べた。土地利用の転換については,放牧適性評価によって明らかになった放牧適性の変化傾向を考慮した最適な放牧地を選定し,その中で牧養力内で放牧が可能であるかどうかを検討した。その結果,持続性の高い放牧形態を定量的な分析結果を用いて提案することができた。また,土地利用の方針としては農業か牧業,畜舎か放牧の選択を行い,農業兼業から牧業主体へ,畜舎ではなく放牧へといったことが,経済収入の見込みと牧草生産力の持続性の観点において重要であることを指摘した。また,最後に景観生態区分の特性に合わせた播種の検討も行った。

以上を実現するためには,現在の日帰りで行っている放牧生活を改善することが重要である。村落北部を放牧しながら移動するためには,アクセシビリティ分析の遠距離設定でわかるとおり日帰りで集落まで帰ることは困難である。今後村落の方針としてこの輪牧区分を適用する場合は,テントを使って,あるいは宿泊小屋を設置するなどして23泊するように放牧生活を改善することが求められる。

本章でまとめた提案を忠実に実行すれば,現在の過放牧状態を防ぎ,かつ現在村で所有している家畜頭数を維持し続けることが可能である。

おわりに

本研究では半乾燥地域の村落で利用可能な,景観生態区分,牧養力,放牧活動の適正化が一貫して議論できる過放牧対策の方法を確立した。この方法は,景観区分による牧草の量的な把握と,放牧適性変化指数による牧草の質的把握と,空間分布の格差による適正化を一体化したものでこれまでの研究になかった新規性を有する。同時に,低価格で入手可能な国産ALOSデータと,現地調査データと,村の放牧形態の観察を組み合わせたもので,世界のどこでも適用可能である。

具体的には,衛星画像と現地調査から半乾燥地の村落における土地条件を区分できる景観生態区分を作成し,各区分で放牧可能な家畜頭数である牧養力,および家畜の放牧に対する向き・不向きを意味する放牧適性の変化を評価した。牧養力の評価結果,現在,村の放牧状態は過放牧であることが定量的に明らかになった。放牧適性評価の結果では,村の放牧形態が持続不可能であることが定量的に示された。また,変化を左右する原因は,集落からのアクセシビリティと,集落との相対的な地形差が大きく影響していることがわかった。この分析結果から明らかになった結果をもとに,土地利用改善案として,土地利用転換図を作成した。その際,作成した放牧適性の変化傾向を基盤におき,牧養力内で現在の家畜頭数を放牧できるように輪牧区分を作成した。実現方法には現在の日帰り放牧では村落北部のアクセシビリティが遠距離の場所で放牧できないため,23日宿泊型の放牧生活へ改善することが求められる。これら全ての分析の結果,現在の放牧活動を続ければ過放牧が進行して村落で飼育可能な家畜頭数が減ってしまうが,本提案を受け入れた場合,現在村落で保有している家畜頭数を維持し続けることが可能である。

今後の課題としては,この結果を現地で活動しているNPOや政府・農家にフィードバックして,実施可能性を検証することが今後の課題である。また,今回は現存の牧養力内での適性評価と適正化提案に過ぎないため,保全優先の過放牧対策になっている。そのため,村の発展要望には対応できていない。村の収入を上げるためには牧養力を高めて家畜頭数を増やすか,家畜の付加価値を高める技術を導入していく必要がある。

本提案は,実際に都西村の村長や植林地を管理しているNPO法人緑化ネットワークへ提案する。まずは分析結果と提案をどのように感じ,受け入れられるかどうかが壁であるが,もし受け入れられた場合,継続的に牧養力や放牧適性の変化を評価し,砂漠化面積の減少が見られるかどうかなど,モニタリング調査を行っていくことが重要である。

 

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