研究成果報告書 2009年度(平成21年度)

 

地域密着型認知症対応介護施設のための設計クライテリアの明確化

−長浜市田根地区をケースとして−

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科

環境デザイン・ガバナンスプログラム

学籍番号80424088

池田 佳應

 

 近年、高齢化に伴い認知症高齢者が増加している。特に過疎村落部では、高齢化率が全国平均を20年程度先行しているといわれ、認知症高齢者の問題も深刻化している。2006年の介護保険法改正で新設された「地域密着型サービス」は、利用者が住みなれた地域からできるだけ離れずに生活を続けていけるよう、市町村の権限で事業者を指定し、市町村が必要な整備量を定めるサービスである。かつての1箇所集約型大型施設ではなく、自宅と近い環境の小規模な通所介護や共同生活介護施設での介護が必要とされている。

 そこで、本研究は、第1に既往研究で明らかになっている、認知症対応施設の設計に関する要点について整理し、その実態と問題をあきらかにし、第2に地域で生まれ育った高齢者がもつ、家らしさの意識をインタビューと古民家の調査から明らかにした。

 その結果、地域の人々の経験して来た空間を明らかにすることが安全な空間をつくる前提になることが明らかになった。また、家の利用状況から普段の生活において利用する空間と利用しない特別な空間があることが分かった。このことにより、施設での自発的に利用される空間に差が出る可能性を踏まえて計画しなくてはならないことが明らかになった。そのような経験してきた空間と介護士が望む環境がバッティングを起こす可能性があることから、介護士と施設の運営方針にあった建築計画が望まれる。

 本研究は、「地域密着型認知症対応介護施設のための設計クライテリアの明確化」と題し、滋賀県長浜市田根地区をケースとして介護施設利用者である地域住民が経験して来た物理的環境と生活様式の結びつきを明らかにすることから「家らしさ」を把握し認知症ケアに必要な環境を設計する際の要件をまとめた。

 認知症対応施設の環境支援指針の既往研究を整理することで8つの目標が、一見、両立し得ない矛盾する目標を含んでいる点が重要であることが明らかになった。

自発的な活動を継続できるかは、介護士の能力や運営方針によっても左右されることが既存施設での観察とインタビューによって明らかになった。異なる方向性の目標が両立している環境こそが認知症高齢者ケアにとって重要であることが分かった。

 民家の実測調査から物理的な地域性を発見し、インタビュー調査によって生活の変遷と現在の生活の現状を把握し以下のことが分かった。

 

1)欠かすことの出来ない建築的特徴

・田の字プランで間の大きさは6帖から12

・入り口から奥への段階的な空間構成

・壁がなく家全体の融通性の高い構造

・規模の拡大方向は桁方向

・ドマとダイドコ上部の十字の梁

・奥に進むにつれて高くなる床

 

2)南側の空間で生活をしていない。日常の生活圏は北側が中心であること。

 

3)ガス、電気、上下水の整備に伴い、設備の変化、農機具の変化と呼応するように、シモであるドマ空間が改修されていた。

 

4)江戸時代から現在まで技術的な更新と設備の変化によって田舎建ち民家が一般的になったが、余呉型、田舎建ち両方に共通した平面構成と間のヒエラルキーは今も尚引き継がれている。家の利用状況から普段の生活において利用する空間と利用しない空間があることが分かった。

 

在宅介護の現状調査からは以下のことが分かった。

1)地域の人々の経験して来た空間を明らかにすることが安全な空間をつくる前提になること。

 

2)地域住民が経験してきた空間(生活の継続性)と介護側が望む空間(安全と安心)が必ずしも一致しないという問題点を含んでいる。

これらの調査から得られた知見を整理することで地域密着認知症対応介護施設を設計する際に必要なプログラムの注意点を明らかにした。