2010年度 森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

高解像度テクスチャと3次元構造情報を有したコンピュータモデル生成法の研究
森田正彦
慶應義塾大学 政策・メディア研究科 後期博士課程3年


1. はじめに   2. 研究内容と成果   3. おわりに  

1. はじめに

「外殻の形状情報と高精細でフォトリアリスティックなテクスチャ情報、および内部の構造情報を有した小型実物体の3次元コンピュータモデルを短時間に生成可能とする」ことが本研究の目的である。現在解像度の高い3次元コンピュータモデルは、一部の高度な技術を取得したCGクリエーターが多大な労力をかけて作成するため、時間・資金と必要とする。本研究プロジェクトでは実物体から高解像度のテクスチャ情報・3次元形状情報を取得する手法、および計測装置を開発することで、誰もが高解像度の3次元コンピュータモデルを作成することが可能となることを目指している。 本研究は、これまでに試作した複合照明型3次元画像計測装置、前年度開発した3次元画像計測トータルシステム、透過・拡散係数測定装置を用いて、実際にコンテンツ制作を行いながら、制作に必要なツール、ソフトウェアの開発・整備を行うと共に、より高臨場感を有した内部構造情報の取得を目的とした基礎実験を行う。具体的には下記の2つの課題に取り組む。


2. 研究内容と成果
2.1. 展示・デモソフトウェアの開発

2つの博物館の特別展に本研究成果によって生成された3次元コンピュータモデルとそれを用いて作成された立体映像コンテンツの提供を行った。 展示概要を下記に示す。

タイトルムシってこんなに面白い!!
「大昆虫博」~日本人と虫たちの深く長い歴史~
http://www.dai-konchu.jp/
会 期2010年6月22日(火)~2010年9月5日(日)
会 場江戸東京博物館 1階 展示室
〒130-0015 東京都墨田区横網1-4-1
JR総武線両国駅西口徒歩3分、都営大江戸線両国駅A4出口徒歩1分
都バス: 錦27・両28・門33・墨38系統、
夢の下町観光路線バス「都営両国駅前」下車徒歩3分
主 催公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都江戸東京博物館、読売新聞社、ヒーローズエデュテイメント、東映
共 催財団法人 日本科学技術振興財団
後 援 文部科学省、環境省、NHK、東京都教育委員会、千葉県教育委員会、埼玉県教育委員会、神奈川県教育委員会、群馬県教育委員会、栃木県教育委員会、茨城県教育委員会、山梨県教育委員会、GTF
展示協力 NPO法人むしむし探し隊(養老孟司、奥本大三郎、池田清彦)、やくみつる、 名和昆虫博物館、兵庫県立歴史博物館、海野和男、東京大学 先端科学技術研究センター 神崎亮平、 工学院大学 工学部機械システム工学科 鈴木健司、STU研究所 小檜山賢二、慶應義塾大学マイクロ アーカイビング プロジェクト
タイトルふしぎ!「昆虫パワー」
ムシから学ぶテクノロジー!!
http://www.konchu-power.com/
会 期2010年7月17日(土)?8月31日(火)
会 場名古屋市科学館(愛知県名古屋市) 名古屋市中区栄二丁目17番1号
主 催名古屋市科学館、中日新聞社、中部日本放送
後 援 愛知・岐阜・三重各県教育委員会、JR東海、名古屋鉄道、近畿日本鉄道、愛知県私学協会、愛知県子ども会連絡協議会、愛知県私立幼稚園連盟
展示協力 名古屋市環境局、名古屋市交通局、大阪市自然史博物館、豊橋市自然史博物館、名古屋大学博物館、飛騨高山茶の湯の森美術館、兵庫県立人と自然の博物館、三重県立博物館、慶應義塾大学マイクロ アーカイビング プロジェクト、(独)農業生物資源研究所、名和昆虫館博物館、(財)つくば科学万博記念財団、アルナ輸送機用品(株)、三光合成(株)、(株)CSKシステムズ、JAXA、東海エアサイクル会、(株)バンダイ、平成プロジェクト、明治乳業(株)、(株)養蜂研究所、(株)ライトニックス、大崎茂芳(奈良県立医科大学)、大場信義(大場蛍研究所)、大場裕一(名古屋大学)、奥田隆(農業生物資源研究所)、神崎亮平(東京大学)、菊池耕生(千葉工業大学)、木下修一(大阪大学)、倉西良一(千葉県立中央博物館)、小檜山賢二(STU研究所)、近藤聡太、鈴木和子、鈴木健司(工学院大学)、東城幸治(信州大学)、中松豊(皇學館大学)、西川正之、橋本典久、船曳和代、柳沼利信(名古屋大学)、山岸健三(名城大学)、ユカワアツコ 他(順不同、敬称略)

2.2. 生体内部の色・透過・拡散情報計測のための基礎実験

自然界にはガラス、植物や生物など半透明な性質を有した物体も数多く存在する。 これらの半透明物体をリアルに表現するには、透過・屈折などといった半透明物体が有する光学的な特性を考慮する必要がある。 CG(Computer Graphics) の分野では、これらの半透明物体をリアルに表現するための議論は古くからされており、 光線を追跡することで光学特性のレンダリングを可能とするレイトレーシング法や、物体を微小拡散面の集合体としてモデル化した ラジオシティ法の提案によって基本的な概念はほぼ確立されたと言える。 最近では実装面からこれらの手法を解説した話題も一般的となり、さらにはより複雑で多くの光線を処理するための手法として フォトンマッピングが提案されている。これらの研究成果により、実写に迫るリアルなレンダリング画像を生成することは技術的に 可能であるとさえ言われてきている。
その一方で前述のレンダリング手法に必要とされる光学特性のパラメータを実物体から計測する手法については、 統合的な解決策はいまだ見出されておらず、各々のパラメータ測定に特化した手法が提案されている。 本研究プロジェクトでは、紙のような薄い実物体を対象とし、 図1 に示すように距離d に応じて背後にある像をぼかしていくような現象をCG上において再現するための、 半透明物体の色・透過率・拡散率を計測するための手法、および装置を開発した。 具体的には半透明物体上の点をある面積を持った領域と捉え、光度、光束、照度、輝度を用いて光を図2に示すような正透過、拡散反射、吸収で モデル化したものであり、図3に示すような、距離に従った透過拡散現象の再現に成功している。

森田正彦,齋藤達也,小檜山賢二:「IBMRによる半透明物体の測定法、および表現法」,電子情報通信学会,画像の認識・理解特集号, Vol.J90-D, No.8, pp.2094-2104, 2007.

本研究は、前述の透過・拡散モデルを生物資料へと適用するための基礎実験として、キュウリの切片について透過・拡散パラメータの計測を行った。 下記に計測データを示す。
キュウリ(白背景) キュウリ(黒背景) 白背景 黒背景
推定結果を下記に示す。
透過率 specular transmission diffuse reflection diffuse transmisson


3. おわりに

森泰吉郎記念研究振興基金研究助成金の支援の下、2件の展示協力と透過・拡散計測の実験を行った。 展示については、夏休みということもあり、子供から大人まで非常に多くの方に楽しんでいただけたように思える。
展示にあたり御協力をいただきました企業・団体の皆様にこの場を借りて、厚く御礼申し上げます。

透過・拡散計測では、資料を1.5mm以下の厚みで作成することができなかったため、今後はより薄い切片の生成法について研究を進める必要がある。