アジア大陸におけるインターネット構造の解析

研究概要

インターネットの構造や成長を把握するために、インターネットのトポロジを解析することは有効な手段である。ネットワークの接続関係を示すトポロジは、本来地理的な位置とは独立であるが、それを構成する機器やケーブルが存在している以上、実際には地理的あるいは物理的な制約が反映されている。世界中を接続しているインターネットは、各国にとっての重要な情報インフラであることから、その構成は自国の政策ポリシ、国際関係、宗教といったを色濃く反映されていることが考えられる。このような地理を考慮したインターネットの論理網の解析には、地理的な情報を含んだトポロジの把握が必要となる。

本研究は、様々な研究機関によって計測された、現在までのインターネットの計測データを用いて、過去から現在までの地域のインターネットの発展を推測する。特に、アジア地域に注目し、アジアの各国のインターネット構造を明らかにし、違いの比較をおこなう。ここでは、多地点からの traceroute データ、すべてのDNS名前空間、BGPのフルルートデータを基に、クラスタリングにより特定地域のトポロジを抽出し、アジアの AS レベルのトポロジ構造を AS Core Map を用いて表現する。

地域レベルのインターネットトポロジ解析手法

解析手法については、[2]の論文に記載されている。 本研究では、多地点から計測されたtracerouteデータを用いた大陸レベルのASトポロジの計測手法を検討した。tracerouteデータは、CAIDAのSkitterプロジェクトが計測したデータと、ワシントン大学のiPlaneプロジェクトが収集したデータを組み合わせて用いた。次に、すべてのDNS名前空間データは、ISC (Internet Systems Consortium)が収集しているデータを利用している。BGPのフルルートデータは、RIPE/NCC, Routeviews, Arinが計測しているデータを組み合わせて利用した。本手法は、tracerouteデータを基に直接接続されたAS間の情報を抽出し、AS間の遅延情報や接続拠点の地理情報を用いて、直接接続されたAS間の地理情報を推測する。そして、地域ごとにAS間の接続をクラスタリングすることで、大陸レベルのASトポロジ構造を明らかにする。

地域レベルのインターネットトポロジ解析手法

アジアにおけるASランキング

本手法を用いて、2004年から2010年までのアジアASの接続出次数の多い順にランキングを解析した。なお、本結果は解析途中のため、結果の評価はまだ完了していない。

2004年から2010年のアジアのASランキング

過去の解析: 地域レベルのインターネットトポロジの解析

以下のイメージは、本研究の提案手法を用いて解析したアジア大陸とヨーロッパ大陸におけるインターネットのトポロジ構造を表す。本研究により、今まで解析が困難であった物理的な地域内のインターネット構造の解析が可能になる。

Resional AS Core MAP (Asia) Resional AS Core MAP (Europe)

次の図は、大陸ごとのASトポロジのクラスタごとに、AS間の接続の出次数を用いた補累積分布関数(CCDF)を表す。図中のAllは、全大陸を含めたASトポロジの出次数を表す。大陸ごとのASによる出次数が、それぞれべき乗則に従う共通点が見られ、それぞれの大陸には、接続が集中するハブASが存在することが明らかになった。

出次数による補累積分布関数を用いた大陸ごとのASトポロジを比較

今後の課題

本研究では、今までインターネット全体のみを対象に解析されてきたASトポロジに関して、アジアに注目してASトポロジの推測する手法を提案し、実際のtraceroute情報を用いて大陸ごとのASトポロジの推測をおこなった。

また、今後はエジプトにおけるインターネットの遮断時のデータを用いた評価をおこなう。

過去の研究により、大陸レベルのトポロジの比較により、大陸ごとのトポロジがベキ則に従う類似点とそれぞれの大陸ごとのハブASの役割の相違点を明らかにした。また、現在の手法は、国、大陸ごとのトポロジを対象としているが、将来的には、国、都市ごとのASトポロジを解析できるよう研究を続けていく。本研究により、それぞれの地域からASトポロジを把握し、地域間におけるASトポロジの比較が可能になる。

研究成果報告

国際会議の参加

2010年に行われた3rd CAIDA-WIDE-CASFI Joint Measurement Workshop[3]で発表を行った。カリフォルニア大学、韓国KAISTの学生と研究の意見交換を行った。

参考文献

[1] 3rd CAIDA-WIDE-CASFI Joint Measurement Workshop
http://www.caida.org/workshops/wide-casfi/1004/
[2] On inferring regional AS topologies
http://portal.acm.org/citation.cfm?id=1503376