MANEMO++ for Extensible MANET Global Connectivity
(MANEMO++: 次世代モバイルアドホックネットワークを実現するアーキテクチャ)

政策・メディア研究科 博士課程
田崎 創

はじめに

本研究では、移動体ネットワークと既存ネットワークの相互接続を容易にす るアーキテクチャ Floating Ground Architecture (FGA) を提案する。FGA で は、既存インフラ部分と移動ネットワークとの間に論理レイヤ Floating Ground を挿入し 1) 簡易導入、2) 移動ネットワーク (NEMO) における経路最 適化を実現する。更にきめ細やかな接続エリアの提供を可能とする経路制御手 法 3) Extended MANEMO Tree Discovery を提案する。FGA により、アドホック ネットワークのような過酷な状況下においても IP 接続性を最大限活用できる ようになり、社会生活の一部となったインターネットの信頼性を向上させる事 に貢献する。

提案手法概要

本章では提案手法 Floating Ground Architecture (FGA) について、説明する。
図1: Floating Ground Architecture 概要。
図1中、Floating Ground はアクセスネットワーク(インフラストラクチャ)と、 ユーザ領域(移動ネットワーク)との間に、論理的に追加されるネットワークを示す。 Floating Ground には 2 つの役割がある。 1 点目は、簡易導入のために変更をすることのできないアクセスネットワークへの、 配下の移動ネットワークを単純化した構造として見せることである。2 点目は、 MANET 内の階層的なアドレス割当を回避し、全てアクセスネットワークへ直接 (同一ネットワークにて)接続可能な、仮想空間を提供することである。 本研究では、この Floating Ground の考え方を利用し、経路最適化手法 NAT-MANEMO を提案した。また、論理ネットワーク構築のための経路制御プロ トコル Extended MANEMO Tree Discovery を提案した。

提案アーキテクチャ実装を Linux システムを対象として行い、ns-3 を用いた シミュレーションにて評価した。シミュレーションは、Linux で動作するソフ トウェアが ns-3 上でも動作可能となるよう、エミュレーション機能 Direct Code Execution を利用・改版しながら実施した。

実装評価

本研究では NEMO 経路最適化手法である NAT-MANEMO [1] の実装を, Linux net-next-2.6 カーネル (http://git.kernel.org/?p=linux/kernel/git/davem/net-next-2.6.git Aug 19 2010 version を利用) を用い IPv6 アドレス変換機能と経路最適化を実現した。また、経路制御プロトコルとして Extended MANEMO Tree Discovery を Zebra (http://www.zebra.org) ソフトウェアの拡張として実装した。更に、NEMO 機能を USAGI-patched Mobile IPv6 for Linux (UMIP) (http://umip.linux-ipv6.org/ Jul 7 2010 version を利用) と Linux net-next-2.6 カーネルを利用し、経路最適化を実現した。 これらの実装物をネットワークシミュレータ ns-3 上で利用し、図2のような、 実験ネットワーク上で評価した。MR はモバイルルータ、HA はホームエージェ ント、MNN は移動ネットワーク内のノード、AR はアクセスネットワーク内のルー タ、CN はインターネット上のノードをそれぞれ表す。
図2: 実験ネットワークの構成。
まず、全 MR が移動をしない状態で、MNN より CN へ送信される ICMP Echo パケットによる Round Trip Time (RTT) の計測と、1024 バイトのパケットを UDP にて 10Mbps で送信した時の CN におけるスループットとを計測する。この実験を RTT 計測は5000 回、スループット計測は 5 回繰り返した。実験は NAT-MANEMO と通常のNEMO で冗長経路が発生する場合とを実施した。 表1はその結果を示す。この表より、提案手法による経路最適化により、 遅延(RTT)は小さく、帯域(スループット)も高い結果が得られ、 期待された動作をしていることが確認できる。
RTT (ms) スループット (Kbps)
NEMO 503.70 (± 38.71) 167.28 (± 1.08)
NAT-MANEMO 171.71 (± 35.64) 191.01 (± 1.15)
表1: MNN と CN 間での経路最適化の影響。 (±) は標準偏差を示す。
次に図2において、矢印で示すような移動により MR0 がその接続点を AR0 からAR1 へと変更する際に発生するハンドオーバにおいて、通信が断絶する時間を 計測することにより、ハンドオーバに要する時間の評価を実施する。図3 は、 その結果を示す。通常の NEMO の場合は 6 秒で終了するハンドオーバが、 提案手法においては 9 秒要している。これはハンドオーバ時に、 EMTD による経路制御メッセージにて、Floating Ground 再構築が行われるためである。 この結果は、NEMO の手法として、経路最適化による通信パフォーマンスと、 ハンドオーバ時間とのトレードオフが必要であることを示している。
図3: ハンドオーバ実験の結果。RTT 値が 0 以下のものは、パケットロス により通信が断絶していることを示す。

まとめ

本研究ではマルチホップネットワークを用い、インターネット到達性の拡大を実 現する機構Floating Ground Architecture の提案を行った。Floating Ground (FG) という新しい論理レイヤを導入し、簡易導入が実現可能となった。また FG の考え方を、Extended MANEMO Tree Discovery という経路制御プロトコルとして 提案し、またNEMO における経路最適化手法 NAT-MANEMO を提案した。提案手法 EMTD は、解析的・シミュレーション・実証実験を通しノード数規模性の検証をし た。また経路最適化提案は既存手法と比べ、既存仕様への修正範囲を最小限にと どめ、アクセスネットワークへの影響を低減した提案を実現した。 本研究の提案する Floating Ground Architecture は、これまでのインターネッ トの堅牢という特性と、それと要求が異なる移動ネットワークの特性の両立・混 在を実現し、新たなアプリケーション・サービスの機会を向上させることが可能 とした。

参考文献

  1. Hajime Tazaki, Rodney Van Meter, Ryuji Wakikawa, Keisuke Uehara, Jun Murai. NAT-MANEMO: Route Optimization for Unlimited Network Extensibility in MANEMO. Journal of Information Processing (To Appear), 2011.