研究課題名:環境NPONGOの活動支援に向けたWebGISの開発と運用実現性の評価

 

大場章弘

政策・メディア研究科後期博士課程

 

Subject: Development of WebGIS and Evaluation of Operational Feasibility for Supporting Activities of Environmental NPONGO

 

Akihiro OBA

Graduate School of Media and Governance, Doctoral Course

 

Abstract

 

Environment NPO and NGO that works on environmental problems exceeding border and race's frames are increasing. It is important to visually manage activity information on each group by using the geographic information to execute an environmental practice continuing. For that, whether the organization can introduce the load few as a matter of routine is a problem for that the technology and on business of information management. The present study attempted this problem and the solution was attempted by making development and the business of the WebGIS tool a manual.

 

KeywordsWebGISEnvironmental NPO/NGOSupporting ActivitiesInformation management system

 

1.    はじめに

 

環境問題は現在,地球温暖化問題など,国家として,かつ国家間で政策や方向性を取り決める時代になり,国境や人種は関係ない.このような政府の取り組みとは異なり,古くからこの問題に着目し,世界各地の現場レベルで環境問題に取り組むNPONGOが年々増加している.環境問題は単年のプロジェクトでは解決しないため,持続的な活動が不可欠である.そのためには,まず,地理情報の管理が重要である.環境活動団体は現地で活動する際に,例えば,植林活動を行っている団体なら植林地のデータ,生態系保全活動団体なら保全区域の情報など,「位置とそこの状況」という地理情報が関わることが多い.地理情報が管理されていなければ,モニタリング評価に信頼性が乏しくなり,寄付者への報告不備等で団体自体の継続が資金運用の面で滞る.

地理情報を管理する際,データの内容,閲覧の方法は団体の活動内容によってその内容が異なる.そのため,活動団体に合わせてシステムを柔軟に対応できるように構築することが求められる.位置情報取得や図形描写およびその情報管理の方法は,地理情報科学では共通基盤があり,その上で各自応用して対応する.その開発には,地理的な活動情報の管理と共有は専門知識と技術が必要だったが,2005年のGoogleMapsのサービス開始からWebGISが急速に普及し,オープンソースとその開発ノウハウがWeb2.0によるブログ等のWebコンテンツ増大によって普及したこと,およびエンドユーザがWeb上の地図から書き込む技術の開発によって,技術的な壁は低くなってきた.しかし,環境NPONGOにとって未だ敷居が高く,低コストの導入は難しい状況にある.

しかし,情報管理運用体制の不備が課題である.少人数で構成されるNPONGOの日常業務は現場での活動が主であり,管理に必要な時間を割けない.したがって,仮にシステム導入を行ったとしても,運用に至るまで機能しない.

したがって上述の3つの問題点から,NPONGOの持続的な活動,および活動効率改善に向けて,地理情報管理の技術と業務をこれらの組織の日常業務に,いかに負担を少なく導入することができるかが問題の本質である.

このような問題を背景に,これまでWebGISによる地理情報管理ツールの開発を試みてきた1)2).その結果,プラットフォームの開発は実現したが,実際のNPONGOの日常業務へ導入し,有効性を探る段階には至っていない.そこで本研究ではプラットフォームを環境NPOの実業務に導入できるようにマニュアル化し,団体の業務改革を行うことを目的とする.その際,システムの導入前と導入後の違いを業務内容とスタッフへのヒアリングから明らかにし,地理情報共有ツールのNPONGO活動支援における運用実現性を考察する.

 

2.     システムの構築と運用方法

 

2.1 システム設計

 

システムの構築環境を表1にまとめた.マッピングシステムのインターフェイスはオブジェクトWebアプリケーション開発の可能でかつ表示が速く,ブラウザに依存しないシステム構築が可能なJavaScriptを利用した.衛星画像等のラスターデータや行政区界等のベクターデータの読み込みにはオープンソースGISサーバのMapServerを使用した.

システム設計のうち,ユーザ利用のイメージを図2に示す.ユーザはブラウザからGoogleMapsベースのマッピングインターフェイスを通じて,団体の活動履歴や活動場所の位置情報をデータベースに格納することができる.これらの情報をユーザはGoogleMapsのインターフェイスを通じて衛星画像を背景に,活動地の空間的位置を可視化しながら閲覧することが可能である.これにより,ユーザ側はGoogleMapsのインターフェイスを使うという単純作業だけで複雑な空間情報を作成し,閲覧できる.

 

1 システムの構築環境

1 利用イメージ

 

2.2 開発システムの構造

 

開発システムの構造を図3に示す.まず地図の作成では3つのレイヤから構成される.最下層からGoogleMapsのベースマップ,MapServerで提供可能な各ベースマップ,最上層にGoogleMapsAPIを利用して表現可能なレイヤとなっている. GoogleMaps作成レイヤはデータベースへ送信された緯度経度等の位置情報テキストデータをGoogleMapsAPIで表示する図面である.

これらのレイヤ構成によって,様々な地図および画像データを見ながら,GoogleMapsAPIを用いて空間情報を生成することが可能である.また,どのレイヤ情報をマップ上に載せたいかを選択でき,透明度を設定して透過表示することも可能である.

2 開発システムの構造

3 データ管理方法

 

2.3 データの管理

 

データの管理方法を図3に示す.すべてのデータはMySQLで管理し,図2のデータベースに示すラターデータ及びベクターデータはMapServerCGIを利用してデータの呼び出しを行った.GoogleMapsAPIで表示する位置情報データは緯度経度のテキスト情報を,データベースから呼び出してXML形式で表示するPHPを作成し, GoogleMapsインターフェイスで読みこませた.

 

2.4 新規開発

 

 本システムの開発における既存技術の利用と新規開発の関係を図6に示す.既存システムはGoogleMapsインターフェイスとMapServerの構築環境,およびデータ管理媒体としてのデータベースである.GoogleMaps上で表記するためのAPIの多くもGoogleが提供する既存技術を利用した.

 また,位置情報データに付随する対象地域の管理情報を同時に表示できるように,地図以外にに管理カルテ情報を表示できる2.7に示すインターフェイスを新規に開発した.

 

4 既存利用と新規開発システムの関係

 

2.5 対象活動団体

 

 本システムを利用する団体は,特定非営利活動法人緑化ネットワークを対象とした.緑化ネットワークは砂漠緑化・砂漠化防止活動を行う団体として,2000年より活動を開始している団体である.主な活動地は中国内蒙古自治区東部のホルチン砂地であり,現段階の組織体制は4名以上の理事(現在6名),1名以上の幹事(現在1名)で構成される理事会を執行機関とし,東京に本部事務局兼事務所,中国内蒙古自治区通遼市ホルチン左翼後旗に現地事務所を設置している.現地事務所は更に情報部,緑化地管理部,庶務部に分かれ,現地住民をスタッフとしている.また,緑化業務だけでなく活動情報の管理,評価を実施しており,本システムはそのデータ管理と管理情報の閲覧に位置づけられる.

 

2.6 業務化の方法

 

対象活動団体の事務局長にヒアリングを実施し,現地スタッフの業務フローを可視化した.現地スタッフの日常業務における活動,取得する情報,データの格納をそれぞれの担当者の関係がわかるように図式化した.その上で,本システムによる管理を日常業務に組み込められるよう配慮し,本システムを使った業務フローを作成して,実際の担当者にマニュアルを用いて説明した.

 

2.7 ユーザインターフェイス

ユーザインターフェイスを図7,図8のようにデザインした.基本的にはGoogleMapsのインターフェイスを応用しており,メニューとナビゲーション,アニメーションスライダー,植林地カルテに関しては新規に作成した.各詳細は以下に述べるとおりである.

 

1)入力・基本操作

@     地図画面:マウス操作で移動,縮尺変更が可能である.Dで選択した地図等の重ね合わせや切り替えを反映して表示可能である.

A     拡大縮小ナビ:地図のスケールを縮小拡大することができる.GoogleMapsの使用クラスをそのまま利用した.

B     アニメーションスライダー:1961年から2007年までの衛星画像の変遷をアニメーションで見ることができる.

C     地図ナビゲータ:GoogleMapsMapServerの切り替え,重ね合わせ等やB以外の衛星画像や地図の選択が可能である.また,地名検索により移動先をテキストで指定可能である.

D     データ登録タブ:植林地のデータ登録をするためのコンテンツを選択できる.地図上でマウスを使って描きながらデータを登録するだけでなく,Excelを使った一括登録も可能である.

2)植林地カルテ

 植林地の情報をカルテ風に表示することができ,次の4つから構成される.地図が消え,同じ図5のDで選択するとインターフェイス上に表示される.

@ 基本情報:植林地の面積や対象地の植生被覆率などの情報をテキストで表形式に表示する.

A 植被率グラフ:植林地の植被率の変遷をグラフで閲覧することができる

B 対象地画像:1)のCで選択した衛星画像を背景に,カルテの指し示すポイントやポリゴンなどの空間情報を見ることができる.

C 定点画像:定点で撮影した画像をAと同様に,定点撮影した画像で変遷を見ることができる.

5 入力・基本操作インターフェイス

6 植林地カルテインターフェイス

 

2.8 システムの業務導入と評価

 

 実際に緑化ネットワークの事務スタッフにシステムを使い,データの格納を実施していただいた.対象者は1名で,2.5で述べた現地事務所の事務所長を通じて庶務担当のスタッフに業務を依頼した.スタッフは農家育ちの女性で,2009年に同団体に入社した.日常業務では現場スタッフが得た情報を管理しており,初期情報としてはGoogleEarthを使って植林地を可視画像から読み取ることが可能であった.

操作方法は事務所長を通して実際に現地事務所で講習を行い,2010年8月18日の夜2時間の説明,および19日午前中の2時間を使って実演習を実施し,毎日業務を実施していただいた.ヒアリングは2010年8月29日に2時間ほど実施し,作業,内容,システムの機能の3項目に大まかに分けてヒアリングした.

 

3. システム開発とヒアリング結果

 

3.1 業務フロー

 

 2.6の方法に従い,業務フローを可視化した.その結果が図7である.管理するデータはスケールの広狭と更新頻度の多さによって分類することができる.管理する植林地を広域から狭域にかけて複数の村落を指し示すゾーン,村落やその内部の方角を指し示すエリア,実際に植林を行った際の着工年で管理されている植林柵を示すブロック,柵内で実際に植林した区域を示す植栽ブロック,植林された樹林地を所有している寄付者ごとのユニット,複数年で植物の生長を写真や資源量,植被率等を観測している定点を地理情報として管理し,現段階ではゾーン,エリア, ブロックのデータについてデータを取得,管理していただいた.また,それぞれの業務で普段管理しているスケールごとの情報をそれぞれデータテーブルで準備し,2.7のユーザインターフェイスを用いてデータベースに格納していただいた.その際の植物データの取得方法等については厳(2008)を参考にした.

図7 本システムを導入した業務フロー

3.2 システム開発

 2.の構築方法を元にシステム開発を行い,実務で利用可能なデータを得た.管理に至って取得したデータ数はゾーンデータ8ポイント,エリアデータ19ポイント,ブロックデータ35ポリゴンのデータを得た.ゾーンデータはゾーンの中心位置とスタッフの担当者の2項目を得た.エリアデータは行政区部(村名),所有者一覧および地権割り当て年,世帯数・人口,種別家畜数,荒漠地面積の変遷,緑化事業開始年,砂漠化以前の様子,砂漠化開始時期と原因,基本方針の9項目を得た.ブロックデータは計画概要     面積(ha),定点画像3枚(事前,途中,現在)植被率遷移(%)3年(事前,途中,現在)資源量遷移(kg)3年(事前,途中,現在)の4項目を得た.

 

3.3 システムに対するヒアリング評価

 

 システムを使用した感想レベルで,2.8に従ってデータを入力した現地スタッフにヒアリングを実施し,次の結果を得た.まず作業自体について,作業は楽しくでき,衛星画像を学べたのが一番楽しかったとの回答を得た.また,始まって作業が出来ないときが一番苦労したが,現在は感覚を掴めたので悪くないとの回答を得た.不満については,緑化チームと一緒に現場で活動に参加することができないが,ここで私もこれまで見たことない知識を学ぶことができるので,不満ではないとの回答を得た.最後に今後この仕事に対して全てとても期待しており,作業自体が自分の可能な早さで与えられているため,このように,緑化チームと一緒に更に新たな活動に参加することができるとの回答を得た.

次に内容について,作業中に植林地の変化が見られたかどうかについて,毎年全て変化があることが衛星画像から分かり,着工以前,途中,現在で色が異なっていて,緑色が多くなっているとの回答を得た.また,これによって緑化地への理解が深まったと回答した.さらに,どんなことへの理解が深まったかという質問に対して,現地住民はみんな砂漠が進行していて,緑化が進んでいないと思っており,自分もそうだった可能性がある.去年からここの仕事に来た自分にとって,環境の意識が以前に比べて深まるものが多い.しかし,最も緑化の進んでいる村の住民は緑化の重要性,砂漠化の退行を知っているとの回答を得た.また,今後,緑化地を管理する上で,このツールは必要だと思うかとの質問についてはとても重要であり,全ての樹林地を簡単に観察することができるとの回答を得た.最後に,周囲のスタッフに衛星画像の重要性を伝えたいとの追加回答を得た.

 最後にシステムの機能について,衛星画像の読み込みは遅く,作業でイライラすることが多かったと回答した.作業で一番困ったことは何かとの質問に対し,大学で難しい勉強をしている方が説明することはとても難しく,最初にとても困ったが,何回も聞くことで対応可能になったと回答を得た.また,システムの新規機能や改善については特になく,もっとシステムに慣れたいとの回答を得た.

 

4. 考察

 

4.1 WebGISの環境活動への有用性

 

 本システムを日常業務に導入したことによって,団体の活動を地理情報としてWebGISを用いて管理することができるようになった.WebGISNPOの環境活動にとって有用である可能性が示されたと言える.企業や団体が新システムを導入する理由は業務効率の改善が主な目的であるが,日常業務へ導入するには多大なコストがかかる上,WebGISは未だ技術開発の段階にあり,容易ではない.本システムの説明には合計4時間の講習で実施可能だったこともあり,今回は至らなかった植栽データ,ユニットデータ,定点データなど,対象団体の全業務を管理できる可能性は大きいと考えられる.

 

4.2 WebGISの利用可能性

 

 簡単なモバイル端末による地図アプリケーションやWebブラウザ上の地図操作であれば多くのユーザが利用可能となってきた.専門的なGIS技術を導入するのには専門的な知識が必要であったが,WebGISによって負担を軽減することができるとしており,本システムの業務を中国の農民出身の女性が利用可能になったことから,その利用可能性を更に広げたと言える.これにより,他国でもこれまで利用から遠ざかっていた層の利用に向けた開発が可能になると考えられる.

 

4.3 現地スタッフへの教材としての可能性

 

 3.3のヒアリング結果により,利用者が本システムの利用によって緑化地の植林状況の改善性がより理解できたとの回答を得られたことから,現地スタッフへの教材としても利用可能ではないかと考えられる.同作業を実施してもらうことで,現場の観測だけでは見えてこなかったより植林地全体への意識が強まることが期待される.今後は同団体内で研修で使用すること,さらには他の環境活動団体で利用してみることによって,さらなるシステムの有用性を検証することが求められる.

 

おわりに

 

 本稿では砂漠緑化活動を主な活動とする特定非営利活動法人緑化ネットワークを対象とし,活動管理業務に重要なWebGISを開発した.その結果,日常業務に導入することができ,利用者へのヒアリングからシステムの環境活動への有用性とともに,WebGISの利用可能性の拡大や教材としての可能性を示唆することができた.今後団体内で更に導入を進める,あるいは他団体で利用することで有効性を検証していくことが求められる.

 

謝辞

 

本研究は特定非営利活動法人緑化ネットワークの共同プロジェクトで開発を行ったものである.開発の機会やヒアリングさせていただいた。関係者の皆様に多大な感謝の意をここに表する.

 

引用文献

 

1) 大場章弘・厳網林,NPO及びNGOの活動支援に向けた地理情報共有ツールの開発,全国測量技術大会学生フォーラム発表論文誌,10pp157-1622008

2) 大場章弘・厳網林,MapServerGoogleMapsを統合したWebマップサービスの開発と応用,地理情報システム学会論文誌,CD-ROM,2009