慶應義塾大学政策・メディア研究科

森基金研究成果報告書

SensingCloud: 開放型分散センサネットワーク集約機構の実装




政策・メディア研究科 後期博士課程1年

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課題名:

SensingCloud: 開放型分散センサネットワーク集約機構の実装


提案時概要:

センサネットワークを取り巻く現在の状況は、インターネット台頭以前の1960年代のコンピュータネットワークの状況に近いと言える。現在、さまざまな拠点でローカルなセンサネットワークが多数作られるにまで本分野は普及してきたが、それらの拠点同士は互いに接続されていない。従って、その上で提案されるサービスも、各拠点内で独自の、規模、汎用性、モビリティの度合いが比較的小さく、限定的なものにとどまってしまっている。本研究では、各拠点に散らばるセンサネットワークを互いに接続し、世界中の任意の場所のセンサデータを受信できるセンサ版WWWのようなプラットフォームの構築を行う。また、設計では、P2Pと分散コンピューティング技術を用いて、規模に対してスケーラブルになるよう提案を行う。


研究成果:

本年度の本課題に対する成果は「既存技術における課題整理」、「本研究の手法の提案」、「ソフトウェア(一部)の構築」である。

本年度の初期段階において、本分野における関連研究のリサーチを行った結果、世界中のセンサを集約し、検索し、配布する既存プラットフォームを実現手法別に分類することが出来た。まず1つ目の手法は「一極集中型」である。この手法は様々なセンサネットワークの拠点に存在するセンサ情報を一カ所のデータベースに集約させる形態を採用している。しかし、センサ情報は個人の実生活の情報が記載されている場合も少なくなく、そのような実生活におけるプライバシーを含むデータを1管理組織が保持する仕組みは、もし情報流出が発生した場合の危険性や、その管理組織のみへの知識の集中の問題があり、センサ情報を扱う上では好ましくない。また、これを恐れて、利用者がセンサ情報を公開しなくなる危険性さえある。一方で、これを打破するために「分散階層型」の手法が提案された。これは現在DNSで採用しているように、センサネットワークの管理権限を階層的に設定し、情報の保持や、アクセシビリティの設定を各の拠点で行える利点がある。しかし、この手法では、1つの上位管理サーバの性能の優劣がプラットフォーム全体おのパフォーマンスのボトルネックとなる可能性がある。また、上位層へなるにつれ大量のセンサ情報の通信、および処理信行われる問題がある。


図:一極集中型と、分散フラット型のセンサネットワーク集約手法の概念図

上述の「一極集中型」、および「分散階層型」の手法における問題を解決するため、「分散フラット型」におけるセンサデータ集約機構が必要であることがわかった。分散フラット型では、各のセンサネットワーク管理拠点の間に、上位、下位などの階層構造はなく、またデータを集約させるサーバも存在しない。センサネットワークの管理拠点におかれたそれぞれの管理サーバが完全にフラットな形で協調し、利用者に集約、発見、配布のサービスの提供を行う。各利用者は、自分のセンサネットワークの管理ソフトウェアを通じて、自分のセンサネットワークからのデータのみならず、自分の拠点をエントリーポイントとして、世界中のデータに対するアクセスを行う。本年度の初期において、この分散フラット型におけるセンサネットワークの集約機構における機能要件とユースケースを整理し定めることが出来た。

本年度における研究の第2ステップにおいて、この要件から具体的なソフトウェアの設計に落とし込む作業を行った。また、その際に大きな2つの技術的課題を発見し、その解決策を考案した。まず1つめは、利用者がセンサデータを広域にわたって検索し、そのデータを取得する際、大量のコネクションを「同時」に各対象拠点に張る必要があることである。さらに発見はされたがデータを提供しているかわからないホスト、もしくはレスポンス時間が許容値以上であるホスト対しても、コネクション要求するため、無駄な負荷が増える傾向にある。本研究では、この問題を拠点同士のオーバーレイネットワークを介して、対象ノードにデータリクエストをマルチキャストし、リクエストを受け取ったノードがコネクションを維持しないHTTPを利用してデータをリクエスト元へと送信する、という手順で解決する。この方法では、リクエストする側はまず自分のルーティングテーブルにある数カ所だけにリクエストを送り、自分のウェブサーバ上でプログラムにHTTP/PUTでデータが投稿されるのを待つ。その結果、そもそも動作していない拠点や、データを保持していないリクエスト先など、無駄なノードにたいして接続要求もなくなる。また、webサーバにおいてレスポンスが処理させることで、コネクションを維持する時間も非常に短く、効率的に処理を行うことが出来る。以上を仮説として、本課題の解決手法の決定を行った。一方で、角拠点間におけるオーバーレイネットワークに関しては、既知である各拠点の位置を利用し、お互いの「物理的距離」をメトリックとするところまで方針は決定しているが、その形成方法、また、マルチキャスティングの手法に関しての詳細は議論の最中である。

本年度の後半において、上述したマルチキャスティング手法の考案と平行し、決定している手法に関しての実装を開始した。言語にはJavaを利用し、ローカルなセンサネットワークの管理機構と、WebにおけるインタフェースをAjax技術を用いて作成した。管理機構はRESTfulな操作方法に基づき、HTTPを利用して操作できる。Webインタフェースは、管理機構とは切り離された一つのサービスとして動いている。画像を以下に示す。


図:センサネットワーク管理機構のスクリーンショット


現段階において、本機構を用いることで、ローカルなセンサネットワークのデータを取得することはもちろん、対象ドメインが既知の場合のみ、自分の管理機構をエントリーポイントとして、別のセンサネットワークの検索、データ取得などは可能となっている。研究室ネットワークにおけるセンサネットワーク、共同研究先であるKarlsruhe Institute of Technologyの研究室におけるセンサネットワーク、そして1一般家庭に設置したネットワーク間の連携実験において、機能の動作の確認は行うことが出来た。管理機構を構成するjavaコードの行数では、現時点で8000行ほどである。

来年度の課題:

来年度も本研究は継続して続けられ、上述した議論中の問題である「オーバーレイネットワークの構築、およびマルチキャスティング手法」の考案を行い、現在開発中のソフトウェアに組み込む。また、平行して、3つのネットワークにおける連携における詳細な評価実験を行い、基本的なパフォーマンス評価を計る。また、オーバーレイネットワーク関連のロジックが組み込まれた段階で、その機能における評価も取得したい。その先は、その他研究機関などに協力を要請、またソフトウェアの公開を行い、SensingCloudの規模を大きく広げていく。


投稿中の論文:

現在、ここまでの成果と、センサネットワーク集約における研究領域のポジションペーパーの位置づけで、Pervasive2011において併設される "2nd International Workshop of Web of Things"、への投稿した。