研究題目:「高知県の官民協働事業における中間集団の意義と可能性」

氏名・所属:政策・メディア研究科2年 谷口由季乃

 

■論文概要

地域ではつながりの希薄化、問題の複雑化が言われ始め、雇用の問題や人材の育成といったことが言われ始めた。特に中山間地域では厳しい問題である。また地域内外のつながりの重要性が先行研究および内閣府(2007)のデータからも言われている。こういった問題を解決するために高知県庁はグループ化支援、テレワークを使って県の小規模な事業をアウトソーシングし始めた。結果2グループは小規模な仕事の他に商品開発やPC講師など地域で様々な事業をおこし始めた。

この研究を行うにあたっては、SOHOグループの自立について分析を行い、「自治体側としての方策」という視点で本事業を扱った先行研究が1つ存在している。この研究でもこの事業を通じて、社会参加の意識や仕事に対しての向上心が芽生える人が多いという結果が出ていた。したがって当初は「事業の実施→社会参加の意識、向上心が芽生える→新事業創造」という流れで研究を開始した。しかし同じ事業が提供されていたにもかかわらず、各グループの結果に違いが出ていることがわかってきた。したがって今回は同じような条件にあるが、新事業が創造された2グループと、創造されずにワーカー育成に力を入れている1グループを比較し、他にどのような方策があれば新事業が起こるかを検討した。

まず理論的な研究から導き出した方策としては外部および内部からの地域の資源について考えた。結果新事業が起こっているグループでは外部の参加団体数が提供する資源の項目数が多く、地域の公的機関とのつながりがあることがわかった。さらにグループの内部で共有しているスキルも多角的であることがわかった。またコミュニケーション方法としてはフェイストゥフェイスおよび情報技術の2種類ある。この時、リーダーに高いスキルがあり、メンバーとリーダーが友人であり、リーダーがメンバーの講師という立場である場合、リーダーが元々行っていた業務だけをそのメンバーに引き継がせると、リーダーの指示を待ち、メンバー同士スキルの共有が起こりにくいことがわかった。

 

■研究の流れ

グループ選出条件:組織形態、継続性、経過年数、人数 活動目的の偏り、新事業創造・中山間地域のメンバーの割合

 

■キーワードの説明

@地域版アウトソーシング事業

高知県庁が、県内のITノウハウのあまりない住民グループを中心に、テレワークを利用して、小規模な業務をアウトソーシングする事業。高知県のみに存在し、2010年総務省の地域づくり総務大臣表彰を受賞した取り組み。 テレワークとはインターネットを利用し時間、場所に制約のない働き方である。今回取り上げているグループのメンバーはテープ起こし等の講座を受講しながら集まってきている。また小規模な業務とは、テープ起こしやデータ入力のことである。当初の目的は、就労機会創出、テレワーカー育成・発掘、グループ化支援であったが、今回新事業を創造したグループが生まれたことから、現在は、新事業を創造するグループが生まれるところまでを目標にしている。

主体

主な役割

高知県庁(各課

仕事の発注

高知県庁(事業担当者

ITスキル、ビジネスマナー講座の企画・提供(無料)

業務・予算の確保

参加事業者の登録

エージェント

(=ワーカーの場合も多い)

仕事の振り分け

・質問対応、ワーカーへの指導等

・県庁への成果物の提出 ・対外交渉(仕様書作成含む)

ワーカ

・エージェントへの成果物の提出

 

 

A方策

新事業創造を行う際に必要な要因、条件

 

B新事業創造

データ入力・テープ起こしというテレワークの本業で終わらずに、新たに地域で事業(有償性、無償性)を生み出すことである。今回の場合は、グループが地域の名所をコンセプトにした商品開発を実施したり、町民向けにパソコン教室を開いたり、地域で加工品を販売しているグループを応援するために、HP作成やチラシ作成、商品のラベルデザインを行っていることをあげている。

 

■理論研究・予備調査

 今回先行研究では、まず新事業創造の定義を行う際に着目したコミュニティ・ビジネスにおける経営戦略をあげている。ここでは遊休資源の活用ということが述べられていた。コミュニティ・ビジネスでは、扱っている組織は企業、NPOなど様々であるため、ここではさらに組織形態という視点で絞って検討を行った。結果、今回扱っている3グループはいずれも、企業といった組織形態ではなく、住民が集まって結成され、非営利組織という形態に近い。また今回はテレワークという地域でのICT化という視点も取り入れられているため、「地域情報化」という視点にも着目した。さらに先ほど述べた資源活用と結びつきが強いネットワークにも着目をし、金井(1994)でも述べられている「組織間関係論」「資源動員論」といった視点にも着目をした。

 その結果、新事業の創造の要因となりうるいくつかの視点が見えてきた。まず組織間関係論において、山倉(1993では、革新のためにより多くの資源を獲得し、資源獲得のために他組織との相互依存性に入ると述べられていた。また企業では依存性から逃れるため、自律化戦略として、資源の内部化、多角化といった戦略も見られることが述べられていた。さらに地域情報化論においては、國領・飯盛(2007が、新プロジェクト展開には、グループ内での役割の供与、希少性資源をオープンにした「もやい」が必要性を述べるとともに、フェイストゥフェイスコミュニケーションが資源のオープン性を促進すると述べていた。また企業だけでなく、非営利組織においても、田尾・吉田(2009)が述べるように、収益源確保や社会のニーズにあった事業展開のために多角化を行うということが述べられていた。

 また予備調査からは、グループ内の運営費の使い方といった金銭的な信頼関係の重要性や、新事業が創造されるためには、メンバーそれぞれが持つスキルを出し合うことの重要性がわかってきた。

 

■調査結果

 上記理論研究、予備調査から今回は以下の3つの方策の重要性を検討した。

@グループが外部に地域の資源を供与することによって、 新事業が創造される。

A多様な分野でメンバーが保有するスキルを出し合うことで、 新事業が創造される。

Bリーダーとメンバーの金銭的部分の信頼関係が構築されることで、 新事業が創造される。

資源:人材、(スキル、アイデアなど)情報、モノ(場所、機材)

多様な分野(=多角的分野):テープ起こしやエージェント業務の分野(=限定的分野)だけでなく、デザインや商品開発といった複数の分野のこと。

 

今回は便宜上新事業が創造されたグループはABグループとし、新事業が創造されていないグループをCグループとする。

結果@については、3グループが外部に対して提供している資源は、自分達のテープ起こしやITのノウハウといったスキルがメインであることがわかっており、ほとんど同じ資源であることがわかった。それに対して外部からグループへの資源の提供には大きな違いがあった。いずれのグループとも外部から資源を提供されている。しかしABグループには、地域のイベント情報や地域に関係する仕事に関する情報、人の情報といった地域に関しての情報も多く、テープ起こしやデータ入力といった特定の分野における情報に加えて、多様な分野での情報提供が行われており、「多角的な資源の提供」があったことがわかった。それに対してCグループでは、テープ起こしを行うための人材および人材を集めるための説明会の場所の提供という「特定の分野における資源の提供」の傾向があることがわかった。

 次に結果Aについては、コミュニケーションの方法がABグループではフェイストゥフェイスやメールでのやりとりを当初から頻繁に行い、互いに教え会うというスタイルが当初からとられていた。それに対してCグループは、限定的なメンバーであったり、発足1年目のみフェイストゥフェイスであった、メンバーとリーダーの1対1のやりとりが多いといったことがわかってきた。これは冒頭の概要でも述べた通り、リーダーがメンバーが受講する講座の講師という役割も担っている部分があり、スキルが高いということが要因であるということがわかってきた。

リーダーもメンバーが行う業務について     リーダーは元々講師でもあり、

は講座を受ける(=受講生)               メンバーが行う業務に関してスキルがある

 

 

最後に結果Bについては、3グループとも、リーダーからメンバーへの運営費の使い方については、賛成の声が多く、メンバーは賃金が安くてもスキルアップに費用を使って欲しいといった意見が存在するほど、信頼関係があることがわかった。

 

■研究の意義

研究の意義は主に4つある。まず今回研究に協力してもらった各グループのメンバーは、元々地域活動に参加意識がない人が多かった。そういった住民が地域の活動に関わるための方策の提示を行うことができたと考えている。また 小規模だが各グループが地域での活動(波及効果)の資金として、地域版アウトソーシング事業において稼いだ費用の一部が利用されていることを提示した。本来であれば、自分達の生活費等に事業の資金が使われるのみで終わるはずが、地域の住民に向けての貢献に取り組み、波及効果を生み出したという点で、県の税金の使用の一定の効果の提示を行うことが出来たと考えている。さらにリーダーとメンバーの関係性が、スキルの出し合い、教え合いに影響があるという問題の提起を行うことができた。この問題軽減のためには、今回掲示した他の方策の実施、関係性を考慮した役割の選択をする必要があると考えられる。最後に県庁に対しては、地域版アウトソーシング事業参加者選定の参考基準の提示を行うとともに、先ほどのリーダーとメンバーの関係性の問題を軽減するために、フェイストゥフェイスやメールでのやりとりが起こりやすいような事業の提供の重要性も提示することができたと考えている。

 

■謝辞

 今回取材相手の方や取材の調整をして下さった高知県庁の方々、NPOの方々、研究に置いてご指導下さいました先生方、先輩、自分自身の研究もある中で色々と助けてくれた同期のメンバーがいてくれて、今回研究のご報告をすることができました。

また本研究は、高知県の中山間地域にある複数のグループを比較するため、各取材を行うにあたり、遠方への出張の際の交通費や宿泊費は大きな悩みでもありました。また図書購入、論文印刷費等、様々な面で資金的な部分で悩みが出る中で、本研究のために基金を出して下さいましたこと深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました。