2010年度森基金報告書

連勇太朗/政策・メディア研究科修士課程1年/81025496

アーキコモンズによる建築設計手法の研究と実践

 

概要

本研究は建築生産において、アウトプット(結果)ではなくアウトカム(成果)を実現していく建築設計手法の研究と実施可能なモデル構築をするものである。建築はハードな単体として成立するわけではなく、周辺地域との関係性の中において、多様な主体により多元的に利用され、評価されるものである。この点から、建築生産や設計に関わる専門家は、竣工時の「アウトプット」にのみ焦点を合わせて設計やマネージメントを行うのではなく、建築生産におけるプロセス及び竣工後の時間軸までをも視野に含めた、社会や使用者に対しての生活水準の向上やコミュニティの維持・強化などの「建築のアウトカム」を積極的に生み出し、評価する姿勢が求められる。具体的に本研究では公共政策の分野領域で注目されている「コモンズモデル」の建築生産における応用可能性を理論的に検証し、コモンズモデルを基に独自に筆者が独自に試作した「アーキコモンズ(archi-commons)」という設計手法を複数の実施プロジェクトで実際に試し、その適用可能性の高さと相対的な有効性を検証する。

 

背景

トップダウン型の都市計画や作家性に頼った建築設計の限界は、社会の様々な面において表出している。このような状況の中で、設計プロセスに住民参加型のワークショップなどを組み込む試みが広まっている。しかし、その手法や評価方法に関しては、いまだに確立した理論があるとはいえず、手法としても研究としても未発達な領域にとどまっている。そのため、実践的な手法と研究成果が求められている。本研究はアウトカムを実現する方法として関係主体の「参加」が重要であるという認識のもと、公共政策分野で用いられているコモンズモデルという概念モデルに着目する。また、1990 年代以降のインターネットを基盤とするデジタルメディアの発達は、社会において新しいコミュニケーションモデルを数多く提供している。このような、状況や社会的想像力の醸成によって、従来の設計手法では扱えなかった領域の主体間の「恊働」を誘発することが可能となり、自律・分散・協調を基調とするコモンズモデルと非常に親和性が高いと言える。アーキコモンズは、このような時代状況の中の建築における理論的布石となることを目的としている。

 

□「設計行為」をひらく

実践するプロジェクトは、一般的な建築家のフィーモデル(設計契約をし、設計料をもらう)に根拠づけられた設計とは違う設計行為の在り方を探求する。ある特定の地域に関わりながら「設計行為」を実現していく方法を模索する。地域空間の構成員と共に設計プロセスを共有しながら、地域に対して建築的事件(建築による地域への刺激)を起こすことを目的とする。このような設計行為は三つの「ない」状況の上に成立する。
・誰にも頼まれていない
・なにも決まっていない
・資金がない

 

□「参加」を問い直す

「参加型」が近年の建築設計において、トップダウン型/作家主義的設計の反省として取り入れられるようになってきたが、地域構成員が必ずしも強力的なわけではない。参加してもらうという状況を作ることは難しく、時間がかかることであり、参加してもらったからといっていいものが出来るわけではなく、むしろ凡庸的なものがアウトプットされる危険性が高まる。本プロジェクトでは、コミュニティと共に設計していく方法として、「参加型」ではない方法を模索した。構想、実験、反省を現場で繰り返し、有効的なフィードバックループを作り出すことを意識した。

 

□三つの手法

有効的なフィードバックを得るために三つの手法を考えた。
・ゲリラ  :現場で唐突にイベントや企画を行うこと
・プロット :実際の場で、スタディしたり、建築的実験を行うこと
・シナリオ :一歩先、二歩先の地域のビジョンや構想を示す

 

□活動成果リンク

タネノネタ(web)>>>

田根にレストランをつくる(pdf)>>>

田根日記(blog)>>>

白馬村新民宿宣言(web)>>>