2010年度 森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費)

研究成果報告書

 

政策・メディア研究科修士課程2年 鈴木詩織

 

１．研究テーマ

療養場自己決定の拡充〜ＩＴを利用した在宅療養サービスの実現事例から学ぶ〜

 

２．研究課題

　在宅療養は、慣れ親しんだ自宅にて治療ができる点にて、患者・医療者の双方からの高い需要があり、現行の医療政策にもその必要性が唱えられているが、療養者の多くは院内に治療を受けている。現在のＩＣＴ（Information and Communication Technology）を用いた遠隔医療技術を活用すれば、MRI、CT等の特殊な医療技術を除けば、在宅で手厚い医療、ケアを受けることも可能である。しかし、療養者の認知度の低さや医療従事者のコストの問題等により、在宅療養は十分な普及を遂げていない。在宅療養の拡充こそ、現在の医療に必要なものであると考え、在宅療養を治療の場として確立し、既に確立されている治療の場である病院や施設に「在宅」を加えることを課題と考える。そのために、日々進化している情報通信技術を用いた遠隔医療を取り入れることで、在宅療養が格段に拡充すると期待される。だが、遠隔医療の展開は未だ在宅医療の現場への導入には程遠い。そこでICT導入した遠隔医療の開発先進国であるアメリカの研究室訪問や在宅療養の先進地域を訪れ、展開状況の実施状況を基に、在宅療養に効果的なＩＣＴ技術を考察し、患者の療養上の拡充を課題とする。

 

 

３．研究手法

　研究手法：ICT技術を導入した遠隔医療を用いた在宅療養の運用・開発状況を知り、在宅医療の当事者である患者とその家族に着目して以下の3手法を用いる。

　・ニーズの調査：各地における遠隔医療実施状況のヒヤリングを患者とその家族、医療者、関係者と関わって、アンケート調査や医療介入を実施して、各立場でのニーズを調査する。

　・技術の調査：事例施設で用いられている技術の調査を実施する。医療連携に用いられている情報システムを主に調査し、その費用状況も調査するし、関連論文のサーベイを実施する。

　・効果の測定：満足度調査の実施。各地にて患者とその家族、医療者、関係者にアンケート調査や医療介入を実施し、各地で利用での感想・問題意識・継続性、満足度等を調査し、効果を測定する。

 

【研究スケジュール】

フィールドワークの実施

2010年　北海道：9月22日—26日：旭川医科大学遠隔医療センター見学

大阪：11月6日-8日：大貝診療所診療、看護、リハビリに同行、見学参加。

2011年　3月11日—16日アメリカマサチューセッツ州　マサチューセッツ工科大学見学

 

４．成果

本調査で得られた成果（結論）は、下記の通りである。

 

○  旭川医科大学　遠隔医療センター見学

　北海道は広大な面積であり、冬期間の雪や悪天候で交通機関が麻痺し、患者の医療機関の通院が困難である。そこで、“患者さんが移動する”のでは なく“病状の情報を移動させたい”。それができれば、検査や診療、手術など病状に合わせて“必要な時、必要な病院を選ぶ”ことが可能になる、という考えのもとに1994年に設立された。北海道が運営母体となり、旭川医科大学が運営主体となっている。道内で10箇所設置されている。放射線画像診断と、眼科分野の遠隔医療を実験的に実施している。

 

○  大阪北摂地域（大阪府北部、兵庫県南東部）を中心に在宅医療を展開する大貝診療所にて訪問同行

　自宅にて療養している患者宅に医療機材を持ち込んで診療するＯ医師に同行した。医師は一人で訪問診療を行い、電子カルテを持ち歩いて患者の情報を共有していた。

 

○  マサチューセッツ工科大学（米）

　情報通信技術を利用して在宅療養を先進しているアメリカ、マサチューセッツ工科大学AgeLab　、Aut-ID Labを訪問する。実施されている研究を知り、見学し、体験する。さらに、これまでの自分の実績の発表、比較、意見交換を行う。在宅医療に情報通信技術の導入を研究する最先端の研究室を訪問する。日本と米国との差、類似点を知り、今後への研究課題とする。

【訪問先参考ホームページ】

1)     Massachusetts Institute of Technology  http://web.mit.edu/

2)     Massachusetts Institute of Technology Age Labホームページ　http://agelab.mit.edu/

Massachusetts Institute of Technology Auto-ID Lab ホームページ http://autoid.mit.edu/cs/

 

 

 

５．考察

人の人生に関わることができる医療・福祉の問題はスタッフ不足、施設等環境の不足や不備、社会的弱者の支援・援助に対応しきれていない制度等によって、想像以上に日常に追われ、生死に関わる逼迫した問題であると実感できた。本研究を実施して、ICTとは、

・  仕事を行う時間と場所を問わない

・  事業所間の連携

・  在宅の安全と質の向上

を、図れる技術であり、人・モノ・制度の問題を補うツールであると認識した。成功事例と考えられていた各地域での遠隔医療の導入は今も遂行されており、現場の関係者は誰一人現状の技術に満足せずに、さらに良いものを自分たちの手で作りだそうとしていた。それは、患者や利用者やその土地のニーズ近づくために、より共有できる時間を確保するために、ICTを用いようとしているように感じられた。ICTは決して現場の主役を担う技術ではなく、あくまで人と人との繋がりを強くするためにあるツールであると本研究を通して認識できた。本研究を経て、今後の自分への適応として、在宅医療拡充のために、現場の患者やスタッフ、関係者が本当に望むICTの導入の手段を自分なりに見いだしたいと思う。本研究は医療・福祉の現場理解とニーズの洗い出し、自己の研究課題の発掘に繋がったものと考え、今後の研究に繋げていきたいと思う。

 

 

６．謝辞

「療養場自己決定の拡充〜ＩＴを利用した在宅療養サービスの実現事例から学ぶ〜」と題して、情報技術を用いた遠隔医療の研究のため、調査を実施したが、本研究を通して多くの経験と学びを得たと感じる。アメリカの研究室訪問や、日本地方のその土地の人々と交流し、療養場を自己決定して在宅を選択した患者は生き生きとしているようで、医療スタッフやそれを支える関係者も力強かった。地域の在宅医療制度が整っていると、自分の意見を持ち療養場所を選択できていた。机上で学んだり、メディアで見たり、聞いたりするだけでなく、実際に訪れて現状を知り、自分の考えを熟考して再構築できたと感じる。実際に見学し、参加することにより、多くの人々に出会い、助けられて研究できていることを再認識し今後も学びを深めようと再確認できた。私自身医療に携わるものとして、生の一時に触れることができるのだから、精一杯悩み、「あ〜生きていて良かった」と患者も含め、自分達も思えるような社会を築いて行くために、今後も邁進していきたい。かけがえない貴重な研究ができことに感謝の意を表して、この報告書を締める。