森基金研究課題名】地域・顧客・企業を繋ぐ「モノ言う顧客」の仲介的役割

企業における地域協働の意義と可能性 〜酒造会社を対象として〜

原 祐貴子

所属:プラットフォームとビジネス(PS

 

●研究要旨:

キーワード: 1協働  2組織間コラボレーション  3地域協働  4価値共創  5酒造会社

 

本研究は、事例調査をもとに、地域協働のための促進要素を導出し、それを企業が具体的にどのように実現しているのかを実例でもって示すことを目的とする。また、研究をとおして、企業における地域協働の意義と可能性について考察する。(なお、本研究では「地域協働」を、世古(2007)に依拠し、「地域の複数の組織ないしは行為者が、共通の目的を達成するために協力して活動すること」と定義した。)

近年、様々な分野で、異なる技能をもった者同士が力を合わせ、創造性を発揮する「協働」の重要性が高まっている。本研究では、協働の形態として、今日特に地域社会との連携が期待されている、企業の「地域協働」に着目した。事例対象には、大量生産・大量消費時代の過度な価格競争の結果、粗悪品が市場に出回ったことや、若年層の生活スタイルや嗜好の変化、アルコール飲料の種類の広がりなどが原因で「日本酒離れ」が進み、近年は地域や消費者との顔の見える関係づくりに戦略をシフトしている酒造会社を選択した。

まず、予備的調査として、高知県の酒造会社「司牡丹酒造」を対象に地域協働についてのヒアリングを実施した。司牡丹酒造は、土佐酒の新銘柄「日土人」をつくる過程で、地域協働を実現していた。次に理論研究として、協働・組織間コラボレーション・地域協働・価値共創の先行研究を実施した。そして、ヒアリング結果と先行研究から、企業が地域協働に取り組む際、協働の促進要素として、「仮説1:対話=当事者どうしが深く関わり合いながら、行動へ向けて意見を交わすこと」と「仮説2:価値観の共有=背景にある文化や文脈、物語を共有すること」の2つの仮説を導出した。

これら2つの仮説をもとに、地域協働に取り組む企業が、具体的にどのように「対話」と「価値観の共有」を実現しているのか事例を調査するため、佐賀県の酒造会社「富久千代酒造」と長崎県の酒造会社「吉田屋」を対象に本調査を実施した。その結果、仮説1について、富久千代酒造は、勝ち残りをかけて清酒「鍋島」を誕生させるプロセスにおいて、吉田屋は、まちおこしの一環として酒造り体験のイベントを行うなかで、それぞれ「対話」を実現し、当事者間の知識共有と相互理解を図っていた。また、仮説2について、富久千代酒造は、「鍋島」のファンづくりのための活動をとおして、吉田屋は、自身の蔵を公開して行うイベントをとおして、それぞれ「価値観の共有」を実現し、将来の機会へつなげようとしていた。

本研究の結果、具体的取り組みの事例をもって「対話」と「価値観の共有」という要素により、地域協働が促進される可能性があることを示した。また、研究をとおして、企業が地域協働に取り組む動機として、当初は、自社の売上増加や顧客獲得、将来の機会獲得など、それぞれ独自の目的意識をもって協働を開始するが、協働を進めるうちに、様々な人とのつながりによって、当初期待していたもの以外にも、自社の経営に資するものを見つけ、なおかつ、地域全体のことを考えて行動する地域貢献の意識も湧いていたことも分かった。このことから、地域協働とは、「組織」のつながりではなく、「人」とのつながりであるとの気付きを得ることができた。

 

 

●フィールドワーク

 

対象企業

インタビュー対象者

調査実施場所/日時

その他の調査対象

予備的調査

司牡丹酒造

司牡丹酒造:竹村昭彦社長

高知県佐川町

2010723

20101029

司牡丹酒造/HP/ blog/発行誌

土佐学協会HP

日本名門酒会HP

試飲会への参加 etc.

本調査

富久千代酒造

富久千代酒造:飯盛直喜社長

佐賀県議会議員:土井敏行氏

佐賀県鹿島市

20101214

富久千代酒造HP/

活動案内

鹿島市HP

「フォーラム鹿島」

発行誌         etc.

本調査

吉田屋

吉田屋:吉田嘉明社長

南島原市役所:吉田稔氏

長崎県南島原市

20101215

吉田屋HP/blog/

発行誌

「有家蔵めぐり」Map

南島原市HP

長崎新聞   etc.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以上