2010年度森基金報告書

ロケ推進型時代村に関する研究 

                                             政策・メディア研究科 

                                      修士2年 中山太護

 

【研究の目的】

本研究の目的は、“映像ロケ推進型時代村”としての『庄内映画村株式会社』および『江刺藤原の郷』の事例調査を通じて、同事業がどのように立ち上がり、そして現在の体制を確立できたかを明らかにする事である。

 

【背景】

地域の組織が、映像コンテンツのプロデュースに参画する事例が近年において多く見られるようになった。(下図は、その例)

その中でも特に注目すべきは、地域における撮影候補地の選定・情報提供・ロケハン・本番ロケの立ち会い等、本番ロケの立ち会い等、ロケーションに関する様々な段取りや提案・アドバイスを行う、ロケーション・コーディネイティング(以下、LCである。

LCを現在行っている組織は、様々あるが、大きく以下のようなタイプに分類する事が出来る。

正規フィルムコミッション:特定非営利法人ジャパンフィルムコミッションの正会員。全国で89団体あり、その大半は自治体の課や部署もしくは観光協会の一機能として運営されている。市に委託されたNPO等により運営されている場合もある。

非正規フィルムコミッション:フィルムコミッションという名称は冠さないが、行政主体で戦略的にロケ誘致を行う。市の観光施設と連携を図ったりする場合もある。例)佐賀県武雄市の「佐賀のがばい婆ちゃん課」、岩手県奥州市の「ロケ推進室」

交通機関LC:企業内で課を設け、専門スタッフを置いて、新幹線・在来線の車内、駅の構内、高速道路等でのLCをしている。無償で、PRのため行っている。

飲食・宿泊・商業施設LC:レストラン、ホテル、デパート、プラザ等において、LCにより収益を挙げている場合がある。

民間観光施設LC:テーマパーク等では、施設・設備をプロダクションに貸し、収益を上げている場合が多く見られる。

スタジオ:松竹京都撮影所が非関連プロダクションへの撮影場所提供および京都一帯のLCをおこなっている。東映の京都撮影所や東京撮影所は非関連プロダクションの映像作品撮影を受け入れている。

エージェント:LC営利サービスとして行う企業・個人で行っている。

 

FCは、近年雨後の竹の子のように増えている。その大半が行政主体であり、ロケ誘致を通じた地域への経済的・文化的波及効果創出を目的としている。

 

【問題意識】

・元来LCサービスを行う目的で設立された組織(FC等)は、以下の決定的な課題を抱えている。

地域側に、映画およびドラマ撮影のロケ地を決定する権限は当然無いため、継続的な誘致に結びつかない

結果として、近年の全国的趨勢の中で、フィルムコミッションを立ち上げたものの、活動をせず休眠状態に陥っている地域がかなり多く見られる。

 

【問題を解決している事例】

 LCサービスと、その際に建造されたオープンセットの際に建造されたオープンセットを観光資源として維持しロケ毎に増設することでいわゆるテーマパークのような機能をも併せ持つようになった事例がある。 

 テーマパーク化して、観光客から入場料を取れば、通常、維持費用面の問題から撮影後に取り壊されるオープンセットを維持するための資金をそれで賄うことが出来るため、継続的なロケ誘致が可能になり、

 ・映画(映像)事業の受け入れの際の、

  撮影時のスタッフの移動費や宿泊費

  オープンセットを制作した場合にはその制作費

 ・映画(映像)公開後

  オープンセットの公開により、観光資源になる

    など地元への間接的効果

  撮影地を含む近隣の観光資源との連携

  撮影受け入れに伴う地元の支援活動から地域内

    部のコミュニケーション増加

等の経済的、非経済的効果が地元に継続して波及する循環になる(下図)。

 

このような事例は、映像ジャンルでいうと“時代劇”ととりわけ深い関係性を持っている。理由は以下である、

時代劇作品は、その件数自体については減少傾向にあるものの、毎年比較的安定して制作され、その分LCへの需要も一定数ある。

時代劇の場合は、歴史的光景がそのまま残されているところでしか撮れない上に、その数も限られているため、撮影ロケーションとしてオープンセットをよく建造する(その他のジャンルは、例えば、現代劇は特定の条件さえ揃えば、どこでも撮影可能、また、SF等のファンタジーものは基本的にスタジオでのみ撮影可能である)。

 

よって、このように、LCサービスと、その際に建造された時代劇オープンセットを観光資源として維持し、ロケ毎に増設することでいわゆるテーマパークのような機能をも併せ持つようになった事例を“ロケ推進型時代劇村”と呼ぶ事にする。

因に、元来デーマパークとして建造され、後々LCサービスを行うようになった事例も含めると、“ロケ推進型時代劇村”ようにLCサービスとテーマパーク事業を両輪で回すようなビジネスモデルを持っている施設は全国に8カ所存在する。(以下の図)

 

その中でも、元々LCサービスを行うための組織として設立され、現在の形に発展したものは、山形県鶴岡市の『庄内映画村』および『えさし藤原の郷』である。

 『庄内映画村』および『えさし藤原の郷』には、他地域からのFC関係者が良く視察に訪れるらしいが、他の地域で、LC事業のこのような発展は見られない。つまり、『庄内映画村』および『えさし藤原の郷』は、その組織自体もしく、それを取り巻く環境について、他の地域LC組織とは異なっていると言える。

 

【探索的フィールドワーク】 ←(現在、急ピッチで進行中)

・「庄内映画村」および「えさし藤原の郷」へ

それ以外のLC事業を行う地域へ(上記の施設に過去に視察に来た団体の地域)

「庄内映画村」および「えさし藤原の郷」が現在の形に発展して来た経緯と、その他の地域のLC事業の現状を比べ、そこから「庄内映画村」および「えさし藤原の郷」それぞれついて特殊な要素を導き出し、「庄内映画村」および「えさし藤原の郷」のロケ推進型時代劇村化を可能にした要因=仮説を導き出す。

 

以下では、今学期私が探索的フィールドワークを行ってきた「庄内映画村」について明らかになった情報を紹介する。

 

【庄内映画村株式会社の基礎情報】

 

所在地:山形県庄内地方鶴岡市

設立:平成18年7月7日

設立経緯: 農地法の関係で取り壊さざるおえなかった映画『蝉しぐれ』のオープンセット移転・保全を掲げ企業の出資を募ったことことから動き出した。

運営形態と目的:100の地元企業・個人からの一律50万円ずつの出資(配当が無いため、事実上の寄付)により運営。出資者は設立当時から増やしていない。映画製作会社のセディックインターナショナルの所有する土地セットの管理運営、LCサービスを行うことにより、地域振興・映画文化の向上を達成することを目的とする。

オープンセットの規模:月山山麓に位置する88ヘクタール(26万4千坪/東京ドーム20個分)という広大な敷地を持つオープンセットである

スタッフ:常勤25名(非常勤もあわせると50名程)

 

備考:冬の時期は、立地が山奥ということもあり、オープンセットの一般公開はしていない。そのかわり、雪景色が必要な時代劇撮影が入っている場合が多い。

 

 これまでの庄内映画村でのフィールドワークから解っている事は、同企業が地域コミュニティからの非常に手厚い支援を受けており、その支援が現在の同社の経営を強く下支えしているという事実である。以下で、これまでに判明している地域コミュニティから同社への支援の中でも、特に主要なものを列挙する。

 

 

102の企業・個人株主

 庄内映画村の株主である102の企業・個人は、その約9割が同企業の所在する山形県庄内地方に存在している。これらの株主は、上記の通り、同企業に対して一律50万の出資を行っており、その配当は現状として無い。株主の間には、形式上序列が存在せず、庄内映画村側にとってはみな対等な存在である。

 これら102の企業・個人は、この出資以外にも、非金銭的な支援を庄内映画村に対して行っている。その例としては、山の上にあるオープンセットに映像制作の関係者を送迎する小型バスの提供や、ロケに必要な物資(古美術品や、古い家具から落ち葉やキノコ、木の枝や毬栗といったものまで)の提供や、ロケ時の炊き出し、また民宿や温泉宿の場合は、撮影関係者への割引等が挙げられる。今後は、個々の企業・個人により具体的にどのような支援が行われているかを洗い出す。

 

太田建設

 太田建設株式会社は、蝉しぐれのオープンセットを設立時から、庄内映画村の活動を支えて来た企業の一つである。太田建設代表取締役社長へのヒアリングから判明したことは、オープンセットの設営は、確かに仕事として対価を得てやっているものの、決して採算の良い仕事ではなく、「ただ働きに近い感じでやっている」(太田建設社長)ことである。これは、オープンセット建造に使用される材料は市場に多く出回っているものではない場合が多い事や、採用される工法が現在の建築業界における主流のものと大きく異なることに由来している。つまり、同社も、庄内映画村への支援を行っている企業の一つであると言える。

 

 

財団法人致道博物館

 財団法人致道博物館は、蝉しぐれ撮影前の段階から庄内映画村の活動への支援を行っており、現在では同組織が管理する史跡・松ヶ丘開墾場の一部を庄内映画村へ事務局用に提供している。同博物館館長、酒井忠久氏は、旧庄内藩主酒井家の17代目当主であり、現在に置いても、地域内部では「お殿様」と認識されている。そのような立場上、庄内映画村が現在の形に発展する過程において、地域コミュニティの支援体制の基礎を築いた地域内オーガナイザーのような役割を担った。

 

周辺地域の愛好者サークル

庄内映画村は、地域の愛好者サークル(〈例〉囲碁サークル、将棋サークル、蘭の手入れサークル、尺八文化保存サークル等)と積極的に関わっており、これらのサークルが公開されたオープンセットの運営において庄内映画村を支援している。例えば、尺八文化保存サークルは、江戸時代に虚無僧が全国を歩いて尺八を普及したという歴史から、定期的に虚無僧の衣装を着てオープンセットを訪問し、施設内自由気ままに動き回りながら尺八を演奏する事で、観光目的の入場客を楽しませている。

 

 

愛仁雪隊

 庄内映画村のオープンセットは雪が2〜3メートル程積もる山間部に位置している。そのため、オープンセットを維持しようとした場合、その雪の除去作業が必ず必要になってくる。通常であれば、このオープンセットの雪かきには人件費がかかるものの、愛仁雪隊という組織が、冬場12月後半から3月の半ばまで、毎週週末にボランティアとしてオープンセットの雪かきを行ない、これを大きくカバーしている。元々は、庄内映画村社長の宇生氏の講演を聞きに来た、現愛仁雪隊隊長の佐藤仁氏が酒田地域内で知り合いに声をかけ始まった雪かきであったが、現在では継続して活動しているメンバーが30人程、断続的に参加するメンバーが60人以上と、その規模は拡大している。

 

 

その他、多くのアクターが庄内映画村への支援を行っており、現状としてまだ把握しきれていないが、これを春休みの前半中に終わらせたいと考えている。

 

【今後の予定】

財としての映画の特性、およびテーマパーク等の観光施設についての先攻研究を整理する。

                   ↓↓

「庄内映画村」および「えさし藤原の郷」を訪問し、基礎情報および、地域コミュニティの施設に対する支援体制についてデータを、ヒアリングおよびできれば直接観察から徹底的に収集する。

                   ↓↓

「庄内映画村」および「えさし藤原の郷」に視察に来た事のある、地域においてLC事業を行う団体を訪問、ヒアリングを行う。

                   ↓↓

なぜ、「庄内映画村」および「えさし藤原の郷」はLC事業から現在の形にまで発展できたのか、という問いに対する仮説を導出する

 以上